30 真相
今回、重い話になります。
特に、『流産』等の話が出る為、気になる方は、遠慮された方が良いかもしれません。
神社に帰ると、婆ちゃんが居間で待っていた
どうせ、逃げ回るものだと思って居たので、拍子抜けだ
「なんだよ、もう逃げないのか?」
「ふん、儂ゃあ最初から逃げとらんわ、説明するのに色々資料を集めて居ったのじゃ」
そう言って、古い資料を僕に渡してくる
幾つか手にとって開いてみるが、ミミズが這ったような字で読めないし
どんな達筆でも、読めなきゃ落書きと変わらない。
「こんなの読めないよ」
「まあ、儂が説明してやる、まず7年前を語る前に、この神社の出来る所以から説明しなければならん」
説明はこうだ
大昔、この辺り…いや全国的に酷い日照りになって、作物ができず大飢饉になったそうだ
当時のウチの御先祖様が、雨乞いを行うも、一向に雨は降らず
正にお手上げ状態
人間の手では、どうにもならないと言うことで、山に住む水の神の龍神を訪ねる事にしたんだそうな
道の整備された今とは違い、険しい山道…いや道にすらなって無い岩山を登り
御先祖は、ついに龍の淵へ辿り着く。
そこにいた1匹の龍に雨を降らせてくれと頼むと
龍は『それは構わんが、お前たち人間は何を寄越す?』と訪ね
御先祖は『なら、私の命を差し上げましょう』と
そこで、龍は『自分の神子を産んでくれるなら、この辺り全てを日照りや水害から護る』ことを約束する。
本来、龍は寿命を全うし、死ぬ間際に天に帰ると言う事だが
契約すれば、ずっと日照りや水害から護るため、土地神としてこの地に縛られ、命を削り続けなければならなくなる
当然、寿命も短くなるが、次の龍の神子は、瑞樹家によって産む事を保証される
それが、この神社の所以であり、瑞樹家と龍神の縁であった。
「成る程…この神佑地を護るために龍神が命を削ってるって事か…」
「そうじゃ、その代償として瑞樹家は神子を産まねばならんのじゃ」
「これで、本題の7年前の話に?」
「いや、その前に16年前を語らねばならん」
「16年前、お前の母ミコトは、お前ともう一人…妹を妊娠しておっての」
「妹!?双子だったなんて、初耳なんだけど」
「そりゃあそうさね、何せ流産だったからのう」
「流産!?」
「当時、母子共に危険な状態であったんじゃ」
このままでは、母体もお腹の子も全員助からないと、そこで負担を無くすために妹は子宮から自ら手を離し
流産になったそうだ
医者の話だと、そう言うの有り得るんだとか
お腹の子も、母親が危ないのが解ると自ら流れるそうだ
「じゃがな…お前が、自分を犠牲にし流れようとしてる妹の魂を掴み、自分の身体に引き入れたのじゃ」
「そんな…じゃあ僕の中に…」
「そうじゃ、身体は流れてしまったが、魂は何時もお前と一緒にあったのじゃ」
「じゃあ、7年前までずっと一緒だったって言うのは…」
「そう言うことじゃろうな…」
じゃあ、やっぱりあの魑絋が僕の妹
「では、本題の7年前の話に行こうかのう」
僕の母は無理して僕を産んだため、その後子供を授かる事はなかったらしい
このままでは、僕を女の子にして龍神の契約を遂げなければならなくなると
それが不憫で、打開策を模索していたそうだ
そこで、目をつけたのが流産で亡くなった妹を甦らすと言う『反魂』の事件になる
結果は失敗
黄泉から妹の魂を呼ぼうとして、『祟り神』を呼んでしまう
そりゃあそうだ、妹の魂は黄泉でなく僕の中にあったのだから
出て来た『祟り神』に両親は喰われ
そのまま、離れて見ていた僕も飲み込まれる
その時…妹の魂が僕の中から出ていき、自らの魂の中に祟り神を封じたんだそうだ
きっと僕への恩返しなのだろう
結果として、祟り神を取り込んだ妹は、祟り神の身体を使って顕現し生まれた事になる
だが、祟り神は少しずつ妹の心を蝕んで行く
龍神との契約が無ければ
両親が『反魂』に手を出すことも、自分が祟り神になることも、兄が女性化する事も無かったと
「だから…馬鹿げた風習を終わらせる…か…」
「おそらく、本気じゃろって…今も物の怪を取り込んで力をつけ、神社の結界を破る気じゃろ」
「なら、僕が止める」
「心が祟り神に飲み込まれ、話が通じると思えんぞ」
「いや、そうでもないさ、ついさっきも話して来たけど、話が解らん奴とは思えなかったし」
「…そうか…ずっと一緒じゃったお前なら、もしかしたら止められるかもしれんのぅ」
止められるかもじゃない
絶対止めなきゃ
このままじゃ誰も救われないもの
自ら子宮から手を離し母親を救い、祟り神を取り込んで僕を救う
一人で抱え込み過ぎだろ
今度は、僕が魑絋を救ってやらなきゃ
そう決意し、龍神の元に向かう
思えばアイツも被害者なんだよな
勝手に神社と土地に縛られ、命を削られてる
出来れば龍神も解放してやりたいな
そう思って居たのだが…
洞窟の中で、タブレット片手に横になり、ボリボリと腹をかく姿を見て、どうでも良くなる
シリアスな展開が一気に吹っ飛んだわ
「なあ、少しは神らしくした方が良いぞ」
威厳もへったくれもない
「えーい煩い、今良いところなんだ、邪魔するな」
「深夜アニメ視てるし…」
「この間、お前の部屋で読んだ小説がアニメ化してるんだ、やっぱ声があると違うな」
「あーあれ、小説というか、ライトノベルだろ、まあ面白いのは認めるけどさ…」
龍神がオタク化していってる
最初に逢った好青年な龍神はどこ行ったんだ…
仕方ないか、今まで土地に縛られて娯楽も何も無かったんだ
アニメが終わるまでの30分位好きにさせてやろう
主屋に戻って、お茶セットを持ってくる
洞窟の中は、蝋燭だった昔と違い、充電式LEDランタンにパワーアップしている為、眩しいぐらいだ
天蔵さんのダンボールだらけだし
支払い大丈夫か?
お茶を持って龍神の元に戻ると
「うおおお!最後の良いところで画面が真っ暗になったぞ」
「そりゃあ充電切れだな、ずっとつけっ放しで使ってたなら仕方ないって」
「なんだと!?どうしたら良いんだ?」
「まあコンセントに挿して充電しないと…」
「よし!じゃあ、お前の部屋に行くぞ」
「せっかくお茶持って来たのに移動かよ!だいたい、何んで僕の部屋なんだ」
「『じゅうでん』とやらをしている間、お前の『ぱそこん』を使わせて貰って視る」
たぶん、間に合わないぞソレ
終了間際だったし、今ごろエンディングテーマ流れてると思う…
まあ、言っても聞くような奴じゃないので
主屋にお茶を持ち返す事になる
PCを立ち上げ、終わってるアニメに酷く落胆している
だから、言ったのに…
まあ、ちょうど良いので、魑絋の事話しておく
「龍神さ、命狙われてるぞ」
「それが、人間達の出した答えなら仕方ないさ」
そうPCに向かったまま言う、龍神の背中が酷く寂しく見えた。
「お前達に、この『ぱそこん』を教わってから、外の事色々調べて解ったんだが、もう龍の力なんかいらないんだな…」
「そうかもな、治水工事も進んで、上流にダムが出来たからな、渇水時には貯めておいた水を使えるし、増水時には流す水の量調整できるしな」
「そうか…」
「もうさ、人間の為に命削らないで、自由に生きろよ、今からでも契約解除すれば、少しでも長く居られるんだろ?神社の外の街にも連れてってやれるしさ」
「街か…それも良いかもな」
「ああ、そうしろって」
そっから暫くPCに向かったまま沈黙して居るので
「一応…誤解しないように言っておくけど、別に自分が男に戻りたくて言ってるんじゃ無いからな、純粋に龍神に街を見せてやりたいだけで…」
と言った僕に、PCから振り向きながら
「ふふ、そんなに慌てなくも解ってるよ、なあ契約だけどな、解除しても良いと思ってる」
「本当か!?」
「ああ、ただな…何百年も続いた契約を解除するんだ、どんな弊害が起こるか解らんぞ」
「例え何か起きたとしても、それは人間が龍神の恩恵に頼って、払って来なかったツケだ、仕方ないと思う」
「まあ、和枝とも相談してからだがな」
確かに、家長の婆ちゃんの意見も聞いてみないことには始まらない
「さて、今日は色々あって疲れたから、先に休ませて貰うけど」
流石に午前2時を廻ろうとしているのでベッドに入る
「こっちは大丈夫だ、適当に見て終わったら戻るから」
そう言ってくる龍神におやすみと声を掛け寝ることにする
良い方に向かってる気がするが
一つだけ気掛かりなのは、やはり魑絋の事だ
彼女を…妹を助けなくては
そう思いながら目を閉じ眠りにつくのだった