3 僕の気持ちは
龍神に、抱き抱えられたまま神社の境内まで来ると、参拝者も訪れる事を思いだした。
まったく別人の顔ならまだしも、殆ど男の子の時の面影を残した女体化である為
瑞樹千尋だと知り合いなら即気が付くだろう
こんな、抱き抱えられた処を、知り合いにでも見付かったら……
そう考えたら、一刻も早く抜け出なければと、もがき暴れる
「まったく、少しはおとなしく出来んのか!」
「うるさい! 早く下ろせ!」
そう言って暴れて居たら、地面に優しく下ろされる
「ほら、これで良いだろ、まったく我が嫁はすぐに暴れて困る」
直ぐ様距離をとり警戒する
「そんなに警戒せずとも、本当に何もせんぞ、少なくも今はな」
「今はって何だよ」
「ん?まだお前に掛けた術が馴染んでいないんだよ。最初に言っただろ、『龍神の雌』になって貰うと……」
確かに、そんな事を言っていた気がする
「ただの人間の女より、龍神同士の方が優秀な神子が出来るからな、今はまだ龍神に変わっている最中なんだ、変わりきるまでは何もしないさ」
龍神って尻尾でも出るのか?
そう思って、身体を捻り臀部を見たり
鉤爪にでも変わるのかと、手を確認したりしていると
「ふふ、そうじゃない、角が生えるんだよ」
と此方の仕草を笑いながら答えた。
慌てて頭に手をやると、左右に1ヶ所づつ、確かに微かな膨らみが感じられる
「そこに立派な角が生えたら祝言の時だ」
男としての死刑宣告を告げられた。
「元に戻せよバカ!」
「それだけは聞けぬな」
「男の子をわざわざ女の子にしなくも、普通の女性で、龍神の嫁になりたい人も、いるんじゃないのか?」
「お前はちゃんと聞いてたか? 普通の女性じゃなく、龍神の雌じゃなきゃダメなんだよ」
「じゃあ、他の女性は龍にできないの?」
「ああ、どうも瑞樹の血に、龍の因子が入ってるらしいな、だからお前以外じゃ出来んのだ」
「婆ちゃんは?」
「…………お前は、和枝に負担のかかる、龍神の神子を産めと言うのか? 鬼だな」
うく、結局僕が産むことになるのか……
冗談じゃないぞ! 絶対男に戻ってやる
「遅いかと思えば、龍神様も御一緒でしたか」
祖母が、禊に行ったきり戻らない僕を、捜しに出てきたようだ
「なんだ和枝か、供え物が運ばれて来んので、自分で取りに来た処だ」
「それは申し訳ない事をしましたな」
「いや、お陰で良いものが見れたし、構わぬぞ」
視線に気が付き、直ぐに両手で胸を隠し睨んでいると
グ~っと腹が鳴ってしまう
寄りによってコイツの前で……
「あはははは、なんだお前、腹が減っていたのか?」
「そうだよ! 昨日誰かさんに気絶させられたせいで、それからずっと食べてないんだよ!」
悪いか! と悪態を付き照れ隠しをする
龍神は、一頻り笑い終わると僕の手を掴む
「あっ」
突然の事に動揺して振りほどくのも忘れてしまう
「なら、飯にしよう」
と僕の手を引っ張って行く
さっきの醜態よりも、手を繋がれてることに真っ赤になってしまう
僕、どうしちゃったんだろう……
小さい頃は、香住と良く手を繋いで歩いたけど、こんなに赤面したことはなかった
なんで、あんな奴なんかに……
いや、違う
此れはアイツの掛けた術のせいだ!
そうに違いない!
僕はちゃんと女子が好きなんだから……
そう、自分に言い聞かせるが、はっきり言って自信がなかった