27 料理修行開始
香住にサラシを巻いて貰い、買い物に出る
やっぱり窮屈で、何時まで経っても馴れないが
此ればかりは仕方がない
約束のランチをパスタで済ませ、夕方のタイムセールまで時間を潰そうと言うことになる
「ちょっと、千尋の服見て回ろうか」
「えー別にいいよ、女の子の服あっても仕方ないし…」
「だって、何時までもTシャツにパーカーって言うのもねえ」
「これは…急いでたし、胸のせいで何着てもエロクなっちゃうし……そ、それに、勿体無いってば神社に帰れば巫女服なんだもの」
私服で龍神の聖域に入れば婆ちゃんに殺されるし
僕の服よりさ、香住の服見て回ろうよ
と言って何軒か見て回り、服を当てて、合わせて見て戻すを繰り返す
なんかデートみたいだ
身体が女体化してなければだが…
しかし…
さっきから妙に視線を感じるのだが…
通りを歩いている人達が、スマホ片手に何やら話してるのが聞こえてくる
「ほら、あの子…このホームページの娘にそっくり」
「本当だ、でも耳無くない?」
「それは着け耳っしょ」
なんか、不穏な単語が聞こえるんですけど
ちょっと待て…ホームページ?、着け耳?
もしかして
スマホでウチの神社を検索…
「ぎゃああああ!!」
何だこれ!?
猫耳巫女服の僕が、神社をバックにポーズを決めているのだ
ネットに上げんなって言ったのに!
「やだ、千尋かわいい」
画面を覗き込んだ香住が歓喜の声をあげる
スマホ見て固まっている僕の事などお構い無しに
「ねね、元画像無いの?、あったら欲しいな」
「だ、ダメ!これは全部削除するから、だいたい此れは婆ちゃんが作ったコラージュだし」
実際はこんな格好してませんし、此れからもしませんから
帰ったら、問答無用に全部削除だな
いいもん、和枝お婆さんに送って貰うから
と恐ろしい事を口走ってる香住
これが流出を止められないって奴か
ネット社会の恐ろしさに…
いや
ネットというより婆ちゃんが恐ろしいわ
何か、どんどん女としての僕を周りに周知させ、男に戻れないよう、外堀を埋められてる気がする。
だいたい、周りの人に見えてないけど、龍の角が邪魔で耳付けられませんから
龍の角のお陰で、実際にコスプレさせられることは、避けられそうだ。
初めて角があって良かったと思ったわ
そんな事をしてるうちに、夕方のタイムセールの時間になるので
小型のスーパーを見て回る。
と言うのも、大型店舗だとクラスメートの連中に見つかる可能性が高いからと敢えてそうした。
あのコラ画像、見られてるんだろうな…
来週、学園でなに言われる事やら…溜め息が漏れる
取り敢えず、悪質コラだと言うしかない (事実だし)
それにしても、近場なら商店街でも良いんじゃ?と言ったのだが
時代の波と言うか…殆どが大型店舗に客を取られ、シャッター街になってしまっているらしい
テレビ等では、頑張っている商店街を取り上げているが、この辺りでは難しいみたいだ。
普段、買い物は定期的に業者が神社に来て、食料を置いていくので知らなかった。
なんか、婆ちゃんが何処かと契約している感じで、定期的に食料配達がくる
まあ、神社のあの石段を、荷物持って上がることを考えたら、頼んで正解だと思う。
「それで、何を作るんでしょうか?」
香住先生にお伺いをたてる
「千尋の話だと、和風は食べ慣れちゃってるんで、洋風と中華をで攻めてみたらって話だけど、そもそも、そんなに簡単に、違う味に入っていけるかしら…それより慣れ親しんだ、和食で唸らせた方が良くない?」
成る程…和食が駄目なら洋食中華って安易な考えが素人だったか…
「ん~でもな、この間の洋風スイーツ食べさせて解ったんだが、アイツ神社の敷地から出られないせいで、供物として差し入れられるモノ以外食べたこと無いみたいなんだ。可哀想だろ、僕より長く生きてるのに…僕より食べ物知らないなんて…」
それを聞いて香住が
「そう…確かにそれは可哀想よね、よし!じゃあ食べたこと無いようなの、色々食べさせてあげましょうか」
そう方針が決まる
香住は慣れた手際の良さで食材を選んでいく
「ちょっと多目に買って帰ってウチの晩御飯にもしちゃうから」
成る程、一石二鳥だ
レジで代金を払おうとしたら
「此れはウチで食べるんだから、私が払うよ」
と支払いを拒否された
確かに、ウチの材料は配達で届いてるから、買う必要は無いが
それでも、料理を教わるんだから悪い気がする
でも、香住は報酬ならランチを奢りって約束で、もう貰ったからと
頑なに断ってくる
仕方ない、何か別のモノでも買って御礼をしよう
香住の家に寄り込んで、料理の実演をしてもらう
スマホで録画しつつ、メモを取る
「でね、ここで空気を抜いて…」
と、香住の手で見る見るハンバーグが形成されていく
僕なんか、すぐ出来物で済ませてしまいそうだな
焼きに入ってる間に、他の品に取り掛かる
なんと言うか、香住は手慣れすぎてて、動作に無駄がなく
料理が簡単に見えてしまうが、僕にできるか不安になる
1品できる度に、食べてみてっと口に放り込まれるが、流石に美味い
「うん、良い嫁さんになれるな」
「な、何言ってるのよ!」
香住に背中を思いっきり叩かれ、吹っ飛ばされる
キッチンにぶつかった振動で、まな板の上の包丁が、僕の足目掛けて落ちてくる
「うわぁ!」
ギリギリで避ける
香住を誉めるのも命懸けだ
そこへ香住の母親が帰ってくる
「あらあら、今日はキッチンが賑やかだと思ったら、千尋君が来てたのね」
「あ、すみません、お邪魔してます。」
そう言って会釈する
「ふふ、良いのよ。香住も嬉しいでしょうし」
「ちょっと!お母さん!」
「だって、何時も千尋君の話ばかりなのよ」
「もう!いい加減なこと言わないで!」
はいはい、お邪魔虫は消えますよっと奥に行ってしまう
僕って、そんなに話題になるような事ばかりしてるんだろうか…
…してるな…
ここ1週間程は特に…
香住に
「さっき、お母さんが言ってたのは違うからね!」
とキレられてしまう
訳がわからんが、せっかく教わってるのに機嫌を損ねる訳に行かず頷いて置く
他、数品教わったところで、帰ることにする
あまり沢山教わっても出来るか自信無いし
「一緒に食べていけば良いのに」
と香住のお母さんに言われるが
「今教わった事、早速帰ってやってみたいので、すみません」
そう言って、せっかくの御好意を、やんわり断った。
それに、龍神に供物を持って行かねばならないし
玄関先まで出てきてくれる香住に
「今日はありがとう、本当に助かったよ」
「こんなことで良ければ何時でも言って」
「うん、本当に香住には助けられてばっかりで…感謝してる」
真顔で言ったら
「か、感謝してるなら、また…買い物一緒に行ってよね」
と顔を赤くして言ってくる
「その時は荷物もちに行くよ、じゃ、おやすみ」
と手を振って行って神社へ向かう
後ろから、おやすみーって声が聞こえる
まあ直ぐ隣の小山の上なんですがね
石段を昇ろうとしたら…
闇から人影が出てくる
また痴漢?
いや
あれは…
僕!?
「なんで、こんな処に鏡が…」
「いいえ、鏡じゃないわ」
喋った!?
本当に僕に瓜二つで、違いがあるとしたら僕には角があるけど、向こうには角は無い
代わりに向こうは、長い髪をツインテールにしている。
もしかして、ドッペルゲンガーって奴?
「そう身構え無くても、お兄ちゃんには何もしないわ」
「お兄ちゃん?僕に妹は居ない筈だけど?」
「ふふ、ツレナイのね、7年前まで一緒だったのに」
「7年前!?」
「そうよ…龍神に言っておいて、『あなたを殺して馬鹿げた風習を終わらせる』って」
「おい!殺すって…」
その少女は闇にとけるように消えてしまう
「また逢いましょう」
そう一言残して…