20 接吻
北校舎へ続く連絡通路
その先にある北校舎入り口が、地獄の入り口のように待ち構えている
特別授業の無いときは、人気が一切無くなるため、余計に寂寞感を醸し出している
北校舎4階東に音楽室、西に美術室があり
専門教科の教員が常駐しているはずではあるが…
今回、備品を置きに行く処は、下階なのである
「ねえ、香住…この辺に置いていっちゃダメかな」
もう備品なんて放り出して戻りたい気分なんですけど
「良いわよ、千尋が怒られてくれるなら」
今、怒られて職員室送りになると、小鳥遊先輩とツーショットになるんで勘弁してください
香住の後ろに隠れるように歩く
風が窓ガラスを叩く音すら、ビクッと振り返ったりしていると
「もう、情けないわね!それでも男なの!?」
と男なら怖くなくて当然みたいに言うので
「今は女の子ですー」
と言ってやったら、凄い顔してた
嘘は言ってないよ、身体は女の子だし
「コイツは…いつも僕は男の子だって言う癖に…こんな時だけ…」
香住の顳顬がピクピクしてる
ちょっと巫山戯すぎたか…
大体、仕方ないんだよ。
物の怪の狙いは、龍の血肉なんだもの
そんなに希少価値の高い身体だって言うのに、身を守る手段がないんだから…
眼から熱線が出せたり、口から火が吹けたり、魔法でも使えるならまだしも
高くジャンプできて、速く走れるだけとか、どうやって身を守るんですか
まあ、速く走れるは逃げるに良いかもだけど…
て言うか
香住さん…目が笑ってませんよ
備品を床に置いて、ゆっくりと歩みを進めてくる
ヤバい殺される。
後退りしていくが、背中に冷たい壁が触れ、これ以上の後退は無理だと死刑宣告をされる
そこへ香住の左手が壁を叩く
壁ドン!?
「か、香住…ジョウダ………ん!?」
言い掛けた唇をキスで塞がれる
え?ちょっと…
いきなりの事で息が出来ない
香住の鼓動が感じられるほど近い距離でしばらく身を任せる
どれくらいの時間、そうしていただろうか…
やがて
香住は唇を離すと
「私…千尋の心まで女の子になってしまったら、どうして良いか解らないよ」
と
一言告げると、顔を見せないように振り向き
床に置いた備品の方に、踵を返して行ってしまう。
そんな香住に、僕は何も声を掛けることは出来なかった
こんな身体では、何を言ったところで困惑させるだけだから…
その後、二人とも無言のまま備品を置いて無事に教室に戻る
結局、危惧していた物の怪は出なかったが
香住との関係が、気まずいと言うか…顔をまともに見れ無いと言うか…
…
はぁ…
明日料理を教わりに行かなきゃなのに…どうしよ…
ネットでの壁ドンと恋愛での壁ドンは違うんですよね。
私が知っていたのは、隣が五月蝿いので壁をド突く方です。(苦笑)
調べたら、壁ドン自体5年も前の流行り言葉なんで、古くてビックリでした。
誤字報告ありがとうございます。
修正しました。




