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2 変わった身体

鏡を見せられ、すっかり眠気がとんでしまった僕は

状況を整理しようと、学園から帰った時の事を思い起こす



「そう言えば、僕を嫁にするとか、言っていたな……」

それで何か……呪文のようなの受けて……



もう一度、手鏡を確認するも、やはり全体が見えないと良く分からない



顔だけなら、元々女顔だったのだが、睫毛(まつげ)が長くなったり、頬などの肉の付き方が変わったりして、優しい顔付きに成った感じ

声も元々高かったので、髪が伸びた以外は、変わった気がしない



しかし、髪が伸びるだけでも、印象が大分違うな

女と間違われるのが嫌で、わざと短髪だったのに……今は腰まであるし



「髪伸びたね、前髪だけでも少し切る?」


「どうせなら香住(かすみ)より短く……いや、(むし)ろスポーツ刈で」


「そんなの勿体無(もったいな)いじゃない、せっかく長いのに」


「じゃあ、香住と同じく肩ぐらいの長さで」


「それも却下、前髪だけね、後はちゃんと美容院で、プロに切って貰いなさい」


「床屋さんで丸刈りに……」


「ダメよ! 元々女の子みたいな千尋の顔に、丸刈りは似合わないもの」


ぐはぁ、それを言うんですか貴女は……気にしてるのに……



香住は、僕の視界に邪魔な前髪だけ、切り揃えてくれる


「ますます女の子っぽく、成ったんですけど」


手鏡を確認しながら、ため息をつく



ただ、一番女とたらしめるモノは、この巨大な胸だろう

コレがなければ、髪が伸びただけで、未だに女の子と思えてないかもしれない

その胸のおかげで、ワイシャツのボタンが、上4つほど千切れて飛んでいた



「どうするんだよコレ……」

「それは、私が後でつけ直してあげるわよ」

脱いで置いといて、と言われワイシャツを脱いだは良いが、

既に、その下に着込んでいたTシャツも、許容一杯なようで、絵柄が左右に引っ張られ、いつ破けてもおかしくない感じだ



「邪魔すぎる……胸って取り外しできないの?」

「それは何か? 私に対する当て付けでしょうか? 千尋さん」

僕の前髪を、散髪したハサミを持って、振り返った香住の目は、笑っていなかった

「いえ、なんでもないです」

香住に胸の話は禁句だな



後、調べるところは……股間か……やっぱり愛棒は無いのかな?

でも、場所が場所だけに、香住の前で確認しづらい


「香住、ちょっとトイレに行ってくるね」



そう言って、ベッドから降り、歩き出そうとして転んでしまう

「あれ?」

なんか違和感が……


なんというか……男の時とは違い、重心が身体の中心からもっと下にあるような……


ちょっとした違和感なので、気のせいかもって思えば其までなんだけど

直ぐ慣れるだろう


「ちょっと、大丈夫なの?」

香住が、転んだ僕に手を貸してくれる


「うん、寝起きでまだ本調子じゃないだけだから」

そう言って誤魔化した。



廊下に出てトイレに向かう


ここ5年位で、急に増えた外国人参拝者向けに導入した洋式トイレである


外にある参拝者用トイレの工事に便乗して、住まいの方も洋式にしてもらったのだ



ノックをしてトイレに入り、制服のズボンとトランクスを脱ぐ

…………

大きすぎる胸が邪魔で、股間の様子は見えない

これは鏡でもなきゃ無理だわ


ただ、長年連れ添った愛棒が無いのだけは分かる


いよいよ本当に、女体化したと言う現実を突き付けられた

ショックを受け立ち尽くしていると、香住が心配してノックしてくる



「ちょっと千尋、大丈夫? ちゃんと座ってするのよ、一人で出来る?」


「一人で出来る? て子供か!」


「いやほら、男の子の時と勝手が違うと思って」


「まだ、そこまで至ってません」


お小水(オシッコ)どころか、強制女体化という理不尽を呪っている処だ


「まだしてないの? ちょっと本当に大丈夫?」

ノックの音がコンコンからドンドンに変わり激しさを増していく


はぁ、ショックを受けて沈んでる暇もないわ


「ちょっと、五月蝿す……あ!」

「あれ? 壊れちゃった」

トイレのドアの鍵が、ぶっ壊れて開けられた


「どれだけ馬鹿力なんだよ!」

「きっと老朽化してたのね」

これを老朽化で片付けますか貴女は



香住は、プロレスが大好きで、たまに技を掛けられるのだが

良く生きていると本気で思うことがある


この間なんか、台所で鉄アレイ片手に、鍋をかき混ぜる姿には驚愕させられた

オタマと間違えて、鉄アレイでかき混ぜてるのかと思ったし

そんなに鉄分は要らないから



「やっぱり、一人で出来なくて困ってたんでしょう?」


「いや、今はトイレの鍵が掛からなくて困っている」


「またまた、素直じゃ無いんだから、ほら便座を下げて……はい座って」


「香住、今日はどうしたんだよ……必要以上に世話を焼くというか……」


世話を焼いてくれるのは何時もの事だが、今日のコレは異常だった



「……千尋、また7年前みたいに、成っちゃうんじゃないかと思って……」


7年前……正直、良く覚えてないんだよね


婆ちゃんの話だと、両親の事故の時に一緒だった僕は、奇跡的に助かったと聞かされていた


自分の記憶は、そこだけスッポリと、穴が開けられてて思い出せず。気が付いた時には病院のベッドの上に居たのだ


ただ、香住の心配そうな様子だと、結構ひどい状態だったのだろう



「大丈夫、きっと元の男の子に戻れるさ」

心配そうな顔の香住を安心させる為、根拠のない強がりを見せる


香住自身、あまり納得しきって無いような顔だったが


何時までも開けられてると、用を足せないんだけど? と言ったら、慌てて閉めてくれた


まったく、心配性な幼馴染だ


何とか無事トイレを済ませ、廊下で心配そうに待つ香住と合流する


「どうだった?」


「そんな事を聞いて……初めて一人でトイレさせた、子供のお母さんか!」


「うん、そんな気分」


「自分の初めてのトイレを思い出してください」


「そんなの覚えてないわよ」



しつこく食い下がる香住を余所に、部屋に戻ると、時計が絶望的な時刻を表示していた


「ヤバイ、全力で走らないと間に合わない時間だし」

「ちょっと、何処に行こうとしてるのよ!」

「学園に決まってるだろ」

「何バカなこと言ってるのよ! その成りで行けるわけ無いでしょ!」


いつも休みたいと言うと怒るくせに、今日は逆の立場だ


「兎に角、先生には巧く言っておくから、千尋は休みなさい」


朝御飯は作って置いたから、ちゃんと食べるのよ!っと言い残し学校へ行ってしまった



香住と入れ替わりに、祖母が部屋に入ってくる


「龍神様に朝御飯をお供えしてきなさい」

「なんで、僕があんな奴の為に……」

「それは、お前が龍神様に選ばれた花嫁じゃからだ」


迷惑な話である


「此れから毎朝、お前の役目になるのじゃ」

と言われるが、正直自分をこんな目に遭わせた龍神を、好きになれないで居た



先ずは『(みそぎ)』をするよう言われ、真っ白な『行衣』に着替えさせられる

禊の為に裏手の滝に行くと、その滝の横にある龍神が居る洞窟が目にはいる


龍神(アイツ)、まだ寝てるのかな……


昨日の整った顔の龍神を思い出して、赤くなってる自分に気が付く

その雑念を払うかのように、滝に打たれ目を瞑る


何でアイツの顔が浮かぶんだろ……

いや、僕は男なんだ!しっかりしろ!

と自分に言い聞かせてると

隣の洞窟から龍神が出てきて目が合う


「おお、なんだ禊の途中だったのか」


そう言ってマジマジと見てくる龍神の視線に気が付く


自分の着ている行衣が、水に濡れて身体に張り付き、色んな処が強調されていた

恥ずかしくなって、手で押さえてしゃがみ込んでしまう。


「何だよ、男の身体を見て楽しいのか?」


「そうだな、元男の嫁の身体のを見るのは楽しいぞ」


「誰が嫁だ! 僕は男だぞ!」


「ふ~ん、男ねぇ」



良いものが見れたと、エロ龍神は滝に入ってくる


「供物なら、これ終わったら持って行くから待っ……」

そう言いかけたら、滝の中でしゃがみ込んでる僕を抱き上げた


「な!?」

龍神の顔が近い

何故か恥ずかしくて赤面してしまう。


そんな自分を誤魔化す為に、暴れて龍神の手から逃れようとするが、上手く行かない


「離せよ」

「いや、面倒だ、このまま社まで行って、食ってこよう」


そう言って、抱き抱えられたまま連れていかれてしまう


力強い龍神の腕の中で、暴れても無駄だと思い身を任せてしまっている


僕はこれから、一体どうなってしまうのだろう……



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[一言] いや、鉄アレイ何処にあった···?
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