14 トイレ事情
「瑞樹、先輩に求愛されたんだって?」
「押し倒されたんだよな、俺も美人に押し倒されてみてぇー」
教室に入るなり、好き勝手言うクラスメート
出来るものなら代わってやりたい
いや、代わって貰いたい
しかし、僕を押し倒そうとした事は兎も角、物の怪の件は助かった。
多分普段から、校舎内を祓って歩き回っているのだろう
だから、初めて会った時、普通なら用の無いはずの、屋上から降りて来たのは
物の怪を祓ってたんだと思う。
有り難い事だ。
そう、有り難い…事なのだが…
「先輩、休み時間の度に来るの止めて貰えます?」
今朝の一件以来、妙に張り付かれてと言うか…
「だって、千尋ちゃんの近くに居る方が、物の怪が勝手にやって来るから、探し回る必要無いんだもの」
確かに合理的だ
だが、人間それだけじゃ済まない、生理現象がある
「どこ行くの?」
「トイレです。」
「あら、じゃあ一緒に行きましょ」
…
トイレまで着いて来るんですか?
まぁ確かに、トイレのような独りになる場所が、物の怪にはチャンスなのかもしれないけど…
「あの、先輩?ここ男子トイレなんですけど…」
一緒に入ろうとしていた、小鳥遊先輩を入り口で押し留める
「知ってるわよ」
知ってるって…
「他の男子生徒が困ってるから、先輩は外で…」
「なんで?千尋ちゃんだって女のこ…」
慌てて先輩の口を塞ぎ、廊下の隅まで引っ張って行く
「先輩やめください、バレたらどうするんですか!」
「あら、秘密にしてたの?一層の事バラしちゃえば良いのに」
それができれば苦労はしない
「大騒ぎに成りますよ、戸籍の問題とかあるし…」
「そんなの出生届けで間違えてましたって言ちゃえばいいじゃない」
そんな簡単には行きませんって
それに
まだ元に戻るの諦めた訳ではありませんから
「兎に角、トイレ位落ち着いてさせてください」
「どうせ個室に入るんだし、女子トイレにしちゃえば?私も気兼ねなく入れるし」
「この格好で入ったら社会的に終わりますよ」
こういう時、駅やデパート等にある『多目的トイレ』は有り難い
男女兼用なので、どちらの性別でも気兼ねなく入れる。
まあ、今は無い物ねだりしていても仕方がないけど…
と
ここでチャイムが鳴る
「あら、授業が始まるから、教室に戻るわね」
そう言って、先輩は走って戻っていく
「…」
結局トイレに行けなかった。
その後
男だった時のように我慢ができず、授業途中で行くことになるのだが
物の怪よりも、あの先輩をどうにかして欲しいと思う千尋だった。
誤字報告ありがとうございます。
修正しました。




