12 料理の特訓を
あれだけ、龍神に危ないと言われたが、やはり日常は捨てたくない
それに、危ないと言うだけじゃ漠然としていて余りピンと来ないのだ
実際に襲われた訳じゃないし
という事で、今日もいつも通り登校の準備に入る
もう、日課に成りつつある僕の悲鳴があがる
「痛い、痛いって」
「もう、我慢しなさいよ!もうちょっとだから…」
サラシをぎゅーっと引かれ、胸の肉が行き場を無くし肺を潰してくる
「く、苦しい…」
「本当に、無駄な肉…なんだから…」
無駄って…香住だってあるのに
「ふう、終わったわよ、千尋?」
苦しくて、返事をすることが出来ない
それ処か息も吸えずにいた。
「ちょ、千尋!?」
遠くに、大丈夫?と香住の声が聞こえる
ヤバい、死んだかも…と観念していると
慌てた香住が、ちょっとだけサラシを緩めて、事なきを得る
「本当に死ぬかと思った」
「息が吸えなくなる前に言いなさいよね」
息が吸えない状態だったのに、声を出せとか無茶を言う
危うく両親の元へ逝くところだった
制服のズボンを履いていると、香住が机の上に畳んである制服に気が付く
「あれ?女子の制服じゃない、どうしたのよこれ」
こちらに広げて見せてくる
「婆ちゃんが用意したみたい」
此方にソレを見せないで
それで酷い目に遭ったんだから
そう心で嘆く
「結構似合うかもね」
とか言ってる
確かに似合っていたが、止めてください。
朝から精神がゴッソリ削られる。
今度、見えない場所に隠しておこう。
朝食は龍神と一緒にとった為、着替えさえ終われば通学できる
女の子にされる前は、香住が来て朝食を作ってくれたのだが
嫁認定された後は、婆ちゃんの指導の元、朝夕のご飯は自分で作っている
やはり、ここ数日始めたばかりなので、なかなか上手く行かない
龍神はなにも言わずに食べてくれるが、美味いと言ったことがない
そろそろ、あの龍神をギャフンと言わせたいとは思うものの
此方の戦力は児戯に等しい
「ねえ、香住…あのさ…今度料理教えてくれないかな?」
あ、今凄い驚いた顔になった
「そうか…千尋もついに…」
「ち、違うから!そんなんじゃないから!」
「うんうん、解ってる、お姉さんに任せなさい」
解ってない、絶対解ってない
「だいたい、僕が料理しちゃいけないのかよ」
「いーえ、料理しちゃいけないなんて言わないわよ」
「ただ、誰の為に覚えるのかなーって思っただけ」
今度はニヤケて凄いウザイ顔してる
人をおちょくる龍神と同じ顔だ
「じゃあ、もう良いよ」
頬を膨らせ一人先に行く
「あ、嘘々、ちゃんと教えるから」
慌てて追い掛けてくる
兎も角、此れで料理の先生は確保した。
待ってろ龍神、絶対美味いと言わせてやる。