1 嫁になれって言われても
大昔、学生時代に考えてた作品ですが、歳を取った今の私に恋愛が書けるのか…
不定期で挑戦します。
「千尋!」
微睡みの中、誰かが僕を呼ぶ声がする。
「ねえ千尋ってば、授業終わったよ」
起こそうと背中を揺すってくるが
それがまた心地好い。
「今日は、和枝お婆さんから、早く帰るように言われてるって言ってたじゃないの? 大丈夫なの?」
そうだ! 忘れてた!!
ガバッ! と上半身を起こし時計を見る━━━━━━
15時50分……マズイ
「どうしてもっと早く、起こしてくれないんだよ」
恨み言を良いながら、家に持って帰っても、使いもしない教科書を鞄に詰め込む
「ずっと起こしてたのに、起きなかったのは千尋じゃない!」
人のせいにしないでよね! と怒っている胸の薄……もとい、スレンダーな女の子は、幼馴染みの高月 香住
僕の両親が事故で亡くなってから、ずっと世話を焼いてくれている、有難い幼馴染みだ
「今日は、私部活あるから、夕御飯作りに行くの遅くなるかも」
「んー、何か婆ちゃんの話長くなりそうだし、カップ麺で済ませちゃうから良いよ」
「駄目よ! すぐカップ麺で済まそうとするんだから……」
そうは言っても、婆ちゃんと二人暮らしなので、沢山作る必要もなく。婆ちゃんも納豆や漬物があれば、御飯が食べれると言う人だから、凝った料理は必要ないのだ
僕一人なら、カップ麺で十分だしね
あっ、別に料理が出来ないって訳じゃないんだよ。両親が居ないので、一通りの事は婆ちゃんに仕込まれたから、和食なら他人に出しても、恥ずかしくない位のモノは作れる
ただ……自分が食べるとなると、手を抜きたく成ってしまうので、何時も香住に怒られてしまう……別に拘りは無いんだけどね
香住の小言を聞きながら、帰り支度が終わると、時計は16時を指そうとしていた。
ごめん、もう行かないと……未だに小言の納まらない、幼馴染みを残し教室を出る。
僕の名前は『瑞樹千尋』、この4月から学園に通う1年生
今日は、婆ちゃんから大事な話があるので、早く帰るように、て言われてたのに
春休みの癖が抜けきれず、夜更かししてしまい
春の陽気も相俟って、午後の授業は寝てしまっていた
そのツケを今、こうしてダッシュで帰り、支払っているのだが━━━━━━
ヤバイな……
婆ちゃんに、絶対怒られるよ
石段を駆け上がり、端に寄り礼をして鳥居をくぐる
そう、僕のウチは代々神社に住み、水神様にお仕えしてきた家系なのだ
鞄を隅に放って、そのまま神社の裏手へ駆ける
本来であれば、この先は神域である為。禊を済ませ、正装でなければ入ることは許されないのだが
今回は、特別に許可が出ているとの事で、学園の制服のままである
水神様が祀られてるという、滝の脇にある洞窟の前まで行くと
「入ります」
そう一言声を掛けてから、中へ入っていく
洞窟の中は、蝋燭が一定の間隔で灯されており、歩くのには苦労しない
「婆ちゃん?遅くなってゴメン」
そう声を掛け奥へいくと、今まですれ違うのがやっと位の広さだったのが、急に部屋のように開けた
この開けた場所だけ、祭壇のようになっていて、地面にも何か敷いてある
祭壇の手前に巫女装束の祖母と
祭壇に凄いイケメンで、見た目25~26歳位の青髪の男の人が座っていた
この方……何処かで……気のせいかな
歳上の凄いイケメンだし、逢っていれば忘れる分けないよね
「和枝よコイツか? ミコトの忘れ形見は」
「左様でございます。しかし、ご覧の通りオノコで御座いまして…龍神様の神子を授かる事はできませんですじゃ」
何の話をしているのかサッパリだが……
「婆ちゃん、此方は?」
「此方の御方は、儂等が代々お仕えしてきた龍神様じゃ」
ちゃんと挨拶せい! と怒られる
「初めまして、僕は千尋ですよろしく御願いします。」
とその場に正座をしペコリと御辞儀をする
そうすると、龍神様は僕の顔を覗き込んできて、暫く眺めていると
「初めて? ……まあいい。問題無さそうじゃないか」
と呟く
「婆ちゃん、話が見えないんだけど」
小声でそっと促すと
「実はの、我が瑞樹家は代々水神で在らせられる龍神様の為に、数世代に1度、龍神様のお子を孕み龍神様の世代交代をお手伝いせねばならんのじゃが……お前の母のミコトは、男のお前を産んだ後に事故で死んでしまったので、腹を貸せる巫女がおらんのでの。そこで、お前に『龍神の雌』に成って貰おうと龍神様と話していたのじゃ」
はい?
突然の事で、思考が停まってしまっていた。
僕に何をしろって?
「ふん、女顔だしこのままでも良いではないか、気に入ったぞ和枝よ」
「それは、よう御座いましたな」
「よ、よくないよ! 僕は男だよ、そんな…孕むとか…無理だから!」
そう言うと、その場を逃げるように駆け出す
「逃がさんぞ! 我が花嫁よ」
龍神は、何か呪文のようなものを唱えると、逃げる僕の背中に撃ち込んだ
刹那、前のめりに地面へ転がり、視界は徐々にフェードアウトしていく
僕……死ぬのかな……
香住……
◇◇◇◇◇◇
「ほら朝だよ! 早く起きてよ」
うるさいな……
「千尋……千尋!?」
きゃあああ!!
香住の悲鳴があがる
いったい何が……
「千尋……アンタ……何で女の子になってんのよぉ!」
なにバカなこと言って……
上半身を起こし、寝ぼけた頭を掻いている僕の前に、手鏡を持って来る香住
そこには長い黒髪の女の子が写っていた
「えええええ!!」
その女の子になった千尋の声聞きながら
「此からが楽しみだな俺の嫁よ」
と龍神様は笑うのだった。