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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第一章 学園の巻
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入学式の日

 今日は入学式の日である。アパルトメントの玄関を出ると見覚えのある金髪六ふさ縦ロール嬢がいた。


「——ユリヤ様、おはようございます」


「ご機嫌よう、ミコトさん! 入試では嵐を巻き起こしたそうですわね」


「いやあ、でも私より明確にすごい方もいましたし」


「あの何某とかいう転生者のことですの? でも首席はミコトさんでしょう?」


 そう。ズィロ少年は筆記試験が壊滅的だったらしく、次々席での合格となっていた。


「それより今日は何かご用ですか? ご機嫌ようを言いにきただけではありませんよね? そもそもどうしてここが分かったんですか?」


「そう、わたくしがここに来たのは他でもありません。——黒魔術研究会に入りなさい!! わたくし影の会長を務めておりますの!」


 課外活動の勧誘というやつだった。


「黒魔術って何です?」


 影の会長というのもわからない。


「ああ、ミコトさんは魔術は主専攻ではないのでしたね。魔術は発動させる時のイメージの持ち方で黒魔術と白魔術に別れているのですわ。自然哲学的見地に反するような人間の直観を使って非自然哲学的な現象を起こすのが黒、神学の理論を援用し超自然存在への信仰を使って超自然現象を起こすのが白ですわ」


 たぶん前世で魔術と呼ばれていたものが黒、精霊術とか呼ばれていたものが白という感じのようだ。自分は両方使えた。


「——考えておきます」


「まあ! 参加していただけるのね! とても嬉しく思うわ!!」


 あれ? 参加の決断をしたことになった? ユリヤ嬢が心底嬉しそうなのでまあいいか。


 学院はアパルトメントから歩いて300秒ほどである。到着するとユリヤ様は


「今日は入学式なので上級生のわたくしは休みですわね。それでは失礼いたしますわ」


 と言って帰っていった。来た道を折り返しているが、なんで学院までついて来たんだ。——そういえばなぜアパルトメントが分かったのか聞きそびれた。あとでまた訊ねよう。


「——諸君! ヨルンギュイア王立第一学院校長のクロギである!! スピーチを長々と垂れるつもりはない! 諸君らに伝えたいことはただ一つ!! 人生は短い!! だからせいぜい楽しくやれ!! 以上!!」


 入学式のスピーチといえば中身のない長話が定番と思っていたが、今日の校長によるスピーチは一瞬で終わった。


「というわけで、校歌斉唱——」


 司会進行が歌唱隊に目礼する。何がというわけでだ。と思ったが校歌の歌詞を聞き取ってみると人間の儚さと生きることの尊さを歌い、学び楽しむことを推奨する内容だった。なるほど。


 入学式はつつがなく終わり、次は五年間の在学期間のうち学科で授業が大きく分かれる前の最初の二年間を共に過ごす共通クラスの顔合わせである。所属する0組の教室に移動すると、ズィロ少年が一緒だった。まあ成績優秀者のクラスなので次々席の彼がいるのはおかしなことではない。用意されている机と椅子のぶんの人数が揃ってしばらくすると教室の扉が開かれ、担任が入ってくる。どういう人だろうか。


「このクロギが!! 諸君らの担任である!!」


 さっきの校長先生だった。スピーチで受けた印象と裏腹に学院の設備や学院での生活についてしっかりした説明をしてくれた。今日はこれで終わり、だと思ったのだが、


「それからミコト・ヨリナ・ヒシュマーシュは執務室にくるように!」


 呼び出しを受けてしまった。悪いことをしたわけではないので堂々としていればいいだろう。


 0組から執務室は遠い。一旦校舎を出なければならない。外では課外活動の勧誘が盛んに行われていた。列をなす勧誘者たちの前を横切ると引札(ビラ)が差し出される。紙が貴重だった時代からは考えられない光景だ。


「押忍!! 第一学院応援団だ!!」「浮遊杖球いかがっすかー」「管弦楽団でーす」「ボードゲームやってまーす」「演劇です! 演劇です!」「瞑想の会!」「革命的青年団」「ああ、終末の日は近い!」


 受け取ったり受け取らなかったりしつつ進んでいると、この間のサアク先生が駆けてきた。筆記試験の採点を担当し、手続きの案内をしてくれた先生だ。そうした仕事は好きではなさそうだったが。


「ミコトくん! 私から白魔術研究会の次々々期会長に推薦しておいたよ!! 」


 会への参加がすでに決定事項みたいになっていませんか。本人の意思も尊重してほしい。


「すでに黒魔術研究会に呼ばれているんですよね。あまり魔術に力を入れるつもりもありませんし」


「黒魔術研究会に入るということはやはり白魔術研究会にも入ってくれるということだね!?」


 聞いちゃいねえ。


「おおミコトじゃないか、ミコト、僕と一緒に古流武術部へ入ろう」


 そうこうしているとズィロ少年もやってきた。しかもお前も勧誘かよ。古流武術はちょっと興味を惹かれなくもない。


「きゃー可愛い! あなたがミコトくん!? 製菓研究会のお茶会に来ませんか!?」


 家政科の先輩と思しき女生徒も話しかけてきた。メイド服を着ているのだ。元パン屋としてはこの時代の菓子文化は気になるところだ。


「っていうかあたしの弟にならない!? あたしマリーア! ガガニメ小領の四爵の娘! ほぼ庶民ね!!」


 弟ってちょっと何を言っているかわからない。そういう文化があるのかな?


「ミコトくんは私のだからダメだ」


 サアク先生も何を仰っているのか。


 そうした色々を適当にかわしつつ、執務室にたどり着いた。座り心地の良さそうな椅子が回ってこちらを向く。


「——君を呼んだのは他でもない」


 座っていたのは校長ではなかった。スキンヘッドと左目を通る引っ掻き傷が目立つガタイのいい男性だ。


「失礼ですが、どちらさまでしょうか」


「単刀直入に聞こう。君は過去転生者ではないかね」


 どきりとしながらしらばっくれてみせる。


「過去転生って何ですか?」


 すると相手は望む答えを得たという風にほおを緩ませた。しまった答えるのが早すぎたか。


「過去人が死後現代で次の生を得ることだ。特に過去生から何かを持ち越しているもののことをそう言う」


 うーん困ったな過去生の技術や知恵を提供するよう要求されたりするのだろうか。今生では全世界を敵に回して勝てるほどの力がないことを考えると、あまり政治利用とかはされたくない。


「で、君は過去転生者なのかね」


「まあ一応」


 自分で言っておいて思うが、何が一応だよ。


「フフフそれが確かめたかっただけだ。特に君の前世を詮索したり引き継いだものの提供を強いたりはしないさ」


 しないらしい。嬉しい。


「逆に私ことレオニャーロから君に提供できるものがあれば言ってくれて構わない。善処する」


 名前かわいいなこの人。


「なぜそのようなことをしてくださるのですか」


「えっ!? いや——それは——そう、そうだな——」


 そこでしどろもどろになるかよ。想定しておけよ。


「——個人的にメイドさんというものとりわけそのスカート越しに伺える足の動き、が好きだからではダメかな」


「えっ気持ち悪っ——いやすみません、じゃあそういうことにしておきます」


「フフフ手厳しいなそれでは私からの要件は以上だ校長と交代しよう」


 レオニャーロさんはそう言って椅子を立ち、部屋を出ていった。なんだったんだこの人。


「レオニャーロくんが迷惑をかけたようだな」


 入れ違いに校長が入ってきた。


「あの人なんなんですか」


「魔術師軍団の元帥だ。このクロギのかつての教え子でもある」


 思ったより偉い人だった。


「その調子では先日お前がぶっ飛ばしたユプトくんのことも知らなさそうだな」


「寡聞にして——」


「あれは王宮騎士団団長にして王国武術連盟の副会長、そして当学院の特別客員講師だ」


 これも思ったよりすごい人だった。しかし竹林流右派と呼ばれた流派はマイナーらしいし、俺が勝てたのはユプト様がこの流派を「とりあえず知っている」程度だったからだろう。あまり調子に乗るべきではあるまい。


「ちなみに竹林流右派ガメキ流の筆頭継承者でもある。お前は勝利を誇っていい」


 調子に乗ってもいいかもな!?


「さてこのクロギからの要件だが」


 校長先生一人称がこのクロギなんだ。かっこいいな。


「——裏手の演習林に魔王が棲み着いている。どうにかしてほしい」


***************


「我が名はラースラー。【通せんぼ】のラースラー」


『ラースラー 種族:メタルスライム 年齢不詳 身長不定 体重100ゴメ


 やばいな、こいつは——


2500/4000/1000/63587600/4000』


 ——戦って勝てそうにないぞ。


「ここには何もない。ただの墓場だ。——私に暴力を振るう愚か者のな。お前もここに眠るかね」

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