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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第一章 学園の巻
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ヨルンギュイア王国

 二週間後の家族会議では「意思を確認したい」と言われた。本人の意思もある程度尊重する気があるらしい。調べたところこの時代メイドというものの地位はそれほど低くないようなのでどっちでもいいと答えた。父は、わずかにほっとした様子で俺ことミコトを侍女騎士に育てる方針を宣言した。


 その後根回しがされたのだろう、俺のお披露目はそれほど騒ぎになることもなかった。


 それから二年が経ち、俺のヨルンギュイア王立第一学院家政科入学試験受験のときが来た。学校なんてどうでもいいし冒険がしたいと思ったが、まあ仕方ない。それに学園生活というのも悪くないかもしれない。


「——ここがヨルンギュイア王都ドラフロアか」


 大量の生贄を消費し火葬の煙を上げて平原を走る魔導列車から降り立った俺は思わず独り言ちた。空の色が自由国と比べて濃い。空気中の水分や塵や魔力の量が関係しているのだったか。また高層建築物が少ない。規制がかかっているとは聞いたことがあったが実際に見ると空の感じが違う。前世の高地とも自由国とも異なっていた。前世と異なっているというのは空中を飛び交う浮遊人力車や乗り合い箒のせいかもしれないが。


 それから街並みに目を移す。古びたレンガ造りの建物が多い。大通りを挟む建物の列は統一感があり、しかし無機質ではなく暖かいものを感じさせる。


 歩いて行くと、観光名所として名高いマキム広場に出た。ドラフロアという街の骨格はこの広場から十二方向に放射状に出る通りがなしている。ここでは十二というのは宗教的に「強い」数なのだそうだ。


 広場では市が開かれている。自由国では高価な香辛料などが格安で手に入るようだが、今は買わないでおく。香辛料といえば前世で食べたカレーという食べ物を久しぶりに食べてみたいものだ。香辛料をどれだけ使いこなせるかが料理人の腕の指標となるという文化が一部にあった。その複雑な組み合わせの極致にある料理が、カレーである。


 カレーは料理のみならず高い魔術の腕も要求し、専門の料理人のうちでも真に熟達した者だけが作ることができる。最上の魔術生物である龍、その王たる十頭の古龍にも、地上を火の海に変えるものや因果を捻じ曲げるものと並んでカレーを吐くものが列に席を連ねていた。カレーとはそれだけ高度な料理、のはずなのだが。


「即席カレー、だと——」


 この時代ではカレーは黄銅貨一枚で『即席カレー』を買い、鍋に入れて水と溶いて具を入れればご家庭で簡単に作れる代物のようだった。初めて料理をする子供にカレーを作らせるのも一般的であるとか。


「——」


 衝撃的だった。魔術も進歩しているだろうとは思ったが、これほどとは。家では魔術具の類は見ることがなかったし、魔術を学ぶこともなかったのでよくわかっていなかった。現代魔術を習うのが楽しみだ。俺は家政科に入ることにはなっているが、騎士科と魔術科も副専攻とするつもりなのだ。魔術科ではどんなことを学べるのやら。


 と、考え事をしていて前方の注意がおろそかになったか。角で人にぶつかってしまった。


「あら、ごめんあそばせ」 


 お嬢様だった。見た目で判断したが、しっかり手入れされた長い金髪が先の方で螺旋状に巻かれているのを見ればお嬢様だと思っていいだろう。服装もそこそこ華美である。


「こちらこそ申し訳ありません」


「あなた、その侍女服は第一学院メイド科指定のものでなくて? ご受験なさるの?」


 メイド科とは家政科の通称あるいは古称である。肯定するとお嬢様は話し続けられた。


「わたくしはクロガン二等領領主ジョルジュ・イオナ・トッルヴァガの次女、第一学院新三年生のユリヤ・イオナ・トッルヴァガ。あなたは?」 


 お嬢様で合っていた。


「私はアザード自由国から来たミコト・ヨリナ・ヒシュマーシュです」


「まあ、ヒシュマーシュ家の方でしたのね。ヨリナというとヒユモおじさまは壮健かしら」


「この間の年越しのときは元気そうでした」


「わたくしたち、仲良くできればよいですわね」


 本当にそうだ、仲良くできればいい。そう思っていたのだが——


「ミコト・ヨリナ・ヒシュマーシュ! 侍女の装いで油断を誘い女性を食い物にせんとする狼藉者であるあなたを成敗してくれますわ!!」


 男であることがバレたらめちゃくちゃ怒ってきた。


「ヨルンギュイア王国クロガン二等領領主ジョルジュ・イオナ・トッルヴァガの次女、わたくしことユリヤ・イオナ・トッルヴァガと決闘なさい!!」


 この状況から仲良くする方向に持っていくにはどうすればいいのかなあ。決闘は受けないわけにはいくまい。受けた方が面白いし。負けた方がいいのかもしれないけれど、数値を見てみたところ負けようとすれば露骨に手を抜くことになってしまいそうだ。それでは余計怒らせるだろう。——勝つしかないか。


***************

次回のメイド!!!!!


 魔術実技の記録係が言葉を失う。


「無詠唱で、しかもこの出力だと——」


 作法実技の試験監督が目を見開く。


「古語の決まり文句ではマイナーな部類なのに、それを流暢に——」


 筆記試験の採点官が実技試験場に駆け込んでくる。


「ミコト・ヨリナ・ヒシュマーシュという者はいるか!? 本学始まって以来の鬼才だぞ!! 私も実技を見たい!!」


 武術実技の担当闘士が倒れたまま豪快に笑う。


「見事だ! お前ほどの強者は初めてだぞ!! 将来が楽しみだなあ!!」


 どうやら俺はこの時代においてかなり、いや規格外に性能が高いらしい。苦笑を隠せなかった。——しかし、そうすると学籍を置きながらもある程度自由に動ける可能性もあるかもしれないな。

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