四天王登場
屋敷の内装やご家族は普通で安心した。この地を守る四爵であるお父上と話をすることになった。
「ほう、ヒシュマーシュの——というとウモルくんは息災かな」
「最近は多忙のようです」
この人も穏やかそうな人である。ただしそれを言うならこの間はマリーアお姉様を穏やかそうだと思って不意打ちを受けたのだ。
「そちらはクロガン二等領の——かの地とはいがみ合っていた時期も長かった。私の父の代から関係が修復されつつあるが、娘と懇意にして頂いているようで嬉しく思うよ」
それはどうだろうな。
その後もなんということのない世間話が続いた。もっとも貴族の世間話というのは政治と切り離せないのが常ではある。面倒だな。
「ところでミコトくんはマリーアに何か——されたりしなかったか? 殴る蹴るなど」
「あ! そう! 股を蹴り上げられたんですよ! あれは何か意味があってのことなんですか」
「まあ、それは面白うございますわね」
ユリヤお嬢様はなぜか面白がっている。面白くはねえよ。
「おおう、それは災難だったな——。我が家の風習で、相手を悶絶させるぐらいの暴力を互いに振るうと二人は強い絆で結ばれた事になるんだ。強い絆というのは義兄弟なんかだな。娘もミコトくんの姉となりたかったのだろう」
どんな風習だよ。怖いわ。
「え——あれは全国区ではないのですか?!」
マリーアお姉様は驚いているが全国区だったら嫌すぎる。
「そういうわけだから良ければだがミコトくんも娘に——どうかな」
どうかなじゃなくない?
「ああそうだ、怪我なんかがないようにという配慮から我が家に伝わる魔術があるんだ。それを教えておこう」
「お父様! あれはなくても大丈夫ですよ私は」
「いや。私が大丈夫でないのだ。娘に後遺症でも残ってしまうとと考えるとな」
暴力を振るわれるのはいいの?
「——これがその術式だ」
見ると、傷をつけずにただ苦痛だけ与えるという魔術だった。そっちか。傷を癒すとかじゃなくてそっちに行ったかー。
「5秒ぐらい持続させるといいだろう」
「さあ! お姉ちゃんいつでも受け止める準備ができてます!」
マリーアお姉様が両手を広げる。これやんないといけない流れだね。観念して術式を発動させる。
「っあ——ぐっ——うう——」
これ本当にいいのかな——。何かに目覚めそうだ。そして長い5秒間を終えた。
「はあ——はあ、ありがとう、ございます。これで、私は、やっと姉になれたんですね——」
よろめきながら立ち上がったマリーアお姉様が言う。目に危ない光が灯っていて怖い。
「マリーア、ちょっと横になるといい。霊的消耗もあるはずだ——<眠れ>」
お父さんが簡単な魔術を使ってマリーアお姉様を眠らせ、ソファに寝かせる。霊視で見た感じ本当に短い時間、数百秒程度したら起きるはずだ。
「私からも感謝しよう。マリーアは弟か妹を欲しいと思っていたようなのだ。しかし私は精霊の不興を買って性的不能の呪いを受けてしまっていたのだ」
「そうだったんですか」
「いい話ですわね」
いい話か?
まあそういうことがあり、その後目を覚ましたマリーアお姉様とお父さんに暇乞いして屋敷を出ると、フードを被った人物が立っていた。
「フッフッフ我が名は目覚めのヨスケぐわあああああ!!!!」
八つに裂け、灰になって散っていった。
「えっえっ今の何ですの」
「ゲヘヘ第六感に優れたヨスケと言えど俺の隠密行動は見破れなかったようだな」
「俺“たち”でヤンスよ」
「四天王最強のヨスケを処分して任務を代行し功績としよう作戦、第二段階に移行でゲスな」
地中から奇妙な三人組が現れた。最後の奴の説明セリフでなんとなく事情はわかった気がするが、誘導の可能性もあるので真に受けるのは危険だろう。
「お前たちは何だ? さっきのやつの仲間ではないのか」
自己顕示欲を引き出す魔術を行使しながら問いかける。これに掛かれば自分から情報を漏らしてくれる。そう簡単に引っかかってくれるとも思えないが
「ゲッヘ! 俺はユルクロニ様四天王の第二位改めヨスケに代わる一位! 毒手使いのクドットよ!! こっちはその下、斧使いのロドリゲスと槌使いのナカヤンス!! ヨスケはミコト、お前を殺す任務を帯びていたがその程度俺たちにもできるので代行してやるというわけだ。これで俺——たち、はユルクロニ様麾下の【牛頭】【馬頭】【三日月】からなる<三獣士>と並ぶ地位につけるんだ! お前の魂がユルクロニ様には必要なのだとよ。なんでも大昔に死んだやつの体に嵌めて最強の使い魔を作り出すとか」
見事にかかった。戦い方と能力値が分かったので勝てるか負けるかは判断できる。このままユリヤ様と共に三人と戦えば、勝てはするがユリヤお嬢様の無事は保証できなさそうだ。
お嬢様は木製武器の槌使いと毒手使いに相性上の有利が取れるが、それでも三人中最も手強い毒手使いと戦えば毒を受ける可能性がある。俺が毒手使いを含めて二人以上を相手にするのは骨が折れる。
「——ロドリゲスとナカヤンスか」
「そうでゲス」「そうでヤンス」
「お前たち、捨てられるぞ。お前らも戦死に見せかけてそいつに殺される」
「へへ、分かってないでゲスな〜クドットの兄貴は仲間を捨てるようなやつじゃあないでゲス」
「さっき仲間のはずのヨスケとやらを栄達のために殺していただろう」
「俺たちにとってあいつは仲間だったことなんてないでヤンスよ」
「なるほど? それじゃあクドットさんから見てゲスとヤンスが仲間だったことがあるという保証は? 本当に今までの扱いは道具扱いとかではなかったのか?」
「だっ黙るでゲス! ヤンス、こいつの言うことはまやかしだ! まやかされるなよ?!」
「あっ当たり前でヤンス! 叩き潰してやればいいんでヤンス!!」
よし。あとは毒手使いを俺が相手して冷静さを失った物理系はユリヤ嬢に任せれば大丈夫だろう。
「雑魚二人は任せた!」
「はぁ?! 無茶振りキツうございますわね!! エンチャント:ファイア!」
ユリヤ様が炎を纏い鎖鎌を取り出す。
「ヘッヘヘおいおい女に二人任せて、素手の俺に対してお前が武器持って戦うのか?」
「仲間を後ろから刺せるお前が、まさか卑怯なんて言葉を使わないよな」
「いいや? しかしいいのか竹製武器なんかで毒使いに挑んで——」
クドットとかいう毒使いが瘴気を漂わせる。しかしこの程度では魔力を流した竹は腐食されない。もちろん体を魔力が流れる俺が毒を受けることもない。そうなれば毒使いなんてただの中級格闘家にすぎずあっさり倒せた。
「バカな——」「ゲス——」「ヤンス——」
「だがお前にはボスの情報は何一つくれてやらんさ、地獄へ持っていってやるゴハァ——」
そう言ってクドットは血を吐きゲスとヤンスと共に灰となって散っていった——
「まあ情報は最初にけっこうもらったからいいけど——目の前で人が死んでいくというのはどんな奴でも気分がいいものではないな」
「全くですわね」
そんなことを言いつつ俺たちは昼飯を食べるため合同海見の宿に戻るのだった——。
*
「何をやっとるんだ——四天王のバカどもは——!!」
「猊下、どうか落ち着いてください」
「優秀な手駒がこれだけ失われて落ち着いておられるか——!」
「こうなったら三獣士を使うしかないのではありませんか」
「そ、そうだな——。では——【三日月】を放て!!」
「ググルルルルル——」
「ククク人肉に飢えた目をしているな【三日月】よ——ミコト・ヒシュマーシュを食ろうて参れ!!」
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「これが現代のカレー——」
「グルルルル——」
「飛び道具はこのラースラーには通用せん」
「あれはアルテミス型転生者——!」
「知っているのかズィロ少年?!」