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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第一章 学園の巻
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夏祭り

「さあ! 宿へ移動しますわよ!」


「うん? ユリヤくんの分は予約してないよ?」


「はあ?!」


「白魔術研究会一行での予約だ。白研に入っていない君は数えられていないんだよ」


 いや何考えてるんだこの先生。白魔術研究会に入っていない参加者はユリヤ嬢一人しかいないし事前に連絡もしていなかったように見える。


「冗談だ」


「タチの悪い冗談はやめてくださいまし!」


 本当である。


 宿につくと夕食が供された。星見の炊き込みご飯である。星見の炊き込みご飯は見た目こそ忌避を誘うがちゃんと調理されたものを食べるとうまいと評判の郷土料理だ。米の中に埋め込まれた魚の頭が上を向き、星を見上げるかのようであることからこの名をもつ。魚の頭は別に食べなくても良い。出汁を取るのと見栄えの為に埋め込まれているそうだ。


「あら、ご存知ありませんの? 魚肉というのは頭や首の肉が一番美味なのですわ」


 隣席のユリヤ嬢が美味しそうに食べているのを見て俺も匙をつける。この星見の炊き込みご飯はちゃんと調理されているようだ。当たり前か。


 それから、卓の上にごく少量用意されているだけだがかなりの存在感を発する皿を見る。かの有名なニェロンギェーニである。それは視覚的にというより嗅覚的に存在感があった。要するに臭いのである。俺の生まれ育った常識ではそれは食品ではなく、腐ってしまった食品だったものなのだが。


 世界各地に同様の発酵食品があり、その中では臭くない方らしい。世界の同類といえば北方のスチュウィーリや東方のフナ・スシ(スシというがニギリ・スシなどとはだいぶ異なった様相を呈するようだ)などが有名だ。魚以外の臭い発酵食品としてはニンジンやカブの表面を炙った後土中に埋め、しばらく放置して表面を削って食べるものなども知られている。


 研究会の剛の者たちが何人か挑んでいる。


「うーん、まあ美味か不味かでいえば美味ですわね。ただちょっとすえすぎですわ」


 ユリヤ嬢も食べていた。俺は遠慮しておいた。ちなみに「すえすぎ」と評価されたこれでも割と発酵を抑えた方だったらしい。


 食べ終わろうかという頃、外から音が聞こえてきた。変拍子を刻む打楽器や笛、それに人の掛け声だ。夏祭りに伴う宗教音楽であろう。宗教音楽と言って一般に想像される厳粛なものからはかけ離れた、賑やかな雰囲気のものである。この地方の夏祭りは海神に祈って夏の不衛生に伴う疫病や食中毒を封じる白魔術の儀式に起源をもつとされている。だが現代では厳かに執り行われるものというイメージはないのだ。


「我々白魔術研究会としても後学のため祭を見学するのはどうでしょうか」「おお、いいな」「祭か」「後学のためな」


 といった声が上がり、サアク先生の許可も出て、皆で外に繰り出すことになった。「羽目を外しすぎるなよー」などと言っているが先生自身祭を楽しみにしているようだ。とはいえあれは祭に参加したいというより知的好奇心で動いているように見える。


「わたくしたちも行きますわよ!」


「おや黒研は行かなくてもいいのでは」


「夏祭りは大漁祈願の黒魔術儀式でもあるから参加するのに何の問題もありませんわ! そもそも黒研の者が白魔術を学んでいけないということはないでしょうに」


「ふふ、そうだな」


 というわけで祭に参加することになった。ちなみに魔術の黒と白はわりと曖昧なこともあり、この大漁祈願は地域によって黒だったり白だったりする。一応祭のような大規模儀式を見ればだいたいどちらかわかるようだが、今話されていたように両方が複合していることも多い。


「エーコサ! スーオレ! ヴェヘタネッ!」「揚げ海老いかがですかー」「へへへー」「おいかーえーせよー」「レールー! センネグラディ! ヨーリア!」「終末は近い! この世界はもう滅ぶしかない!!」


 簡易な伝統衣装に身を包んだ子供達が踊り、食べ物を売る屋台が立ち並ぶ。光る飾りがついた船が夜の海を動き回って眩惑的な光景を生み出す。イカ焼き(焼いたイカに棒をさしたもの)を食べながら海の方を見ていると、——特に派手に飾られた船に爆裂魔術がぶち込まれた。船は爆発炎上しいくつもの破片になって海に沈んでいく。それを見て参加者たちは歓声を上げ大盛り上がりする。何をやっているんだアレは。


 調べてみると船を派手に飾って破壊するのがこの祭のメインイベントだったようだ。現在は本物の船ではなく水に浮かぶだけの模型を破壊するようにしているが、かつては自分の船が祭で爆破される船として選ばれることが何よりの名誉とされていたらしい。大規模魔術にありがちな、生贄とか代償みたいなものである。そもそも多くの祭というものがそれ自体大量消費を目的としているところがあるとか。この辺りはよく知らない。


「あれ? ミコトちゃんじゃない、いつもと違う格好だから気づかなかった。どうしてここに?」


「あっマリーアさん」


「お姉ちゃんね」


 マリーア・イェスペッルアさんは家政科の二年生で製菓研究会に属している、俺に姉扱いされたいらしい人だ。ほぼ初対面で股座に蹴りを入れてきたのが印象的である。その後二人で列車の旅に出たりしたが正直あまり得意な相手ではない。暴力をちらつかせて人に言うことを聞かせようとしなければ、三つ編みにした赤髪の映える美少女と言っていいのだが。


「黒魔術研究会白魔術研究会合同海見(うみみ)です。マリーアお姉様こそどうしてこんなところにいるんですか」


「こんなところとは失礼ですね、実家が近くにあるのよ。イェスペッルア家はガガニメ小領の四爵なの」


 そういえばそんなことを言っていたことがあるような気がする。ちなみに四爵とは上から数えて五番目の爵位である。この時代のこの王国の領域では数字によって爵位を格付けしている。


「ここまで来たのも何かの縁だから明日にでも実家に寄っていらっしゃい」


「遠慮しておきます」


「あらミコトさん探しましてよ、そちらの方は?」


 ユリヤお嬢様がやってきた。この地の伝統衣装を身にまとい、髪も下ろしている。いつもより肌の露出が多くてドキッとさせられた。特に二の腕は確かな筋肉とトゥツル磁器を思わせる滑らかな肌が共存していて「目つきが粘っこうございますわねミコトさん。そういう視線の不快さが分からないあなたではないでしょうに」すみません。


「私は二年生のマリーア・イェスペッルアです。製菓研究会でその子の姉をさせてもらっています」


 姉をさせてもらっていますって何?


「それではわたくしとも姉妹同然ですね。わたくしは三年生のユリヤ・イオナ・トッルヴァガですわ」


 姉妹同然ってどういう意味??


「実は今ミコトさんを実家にお招きしていたのですが、ユリヤ様もお越しになりますか?」


 それさっき断ったよね???


「じ、実家に——ぜひご一緒させていただきますわ」


 ユリヤ様は好戦的な表情で返事をした。これ俺だけばっくれるワケにはいかないよな。いかないね。いやあ美少女二人に奪い合いされるなんて嬉しいなー。


 そして翌日——


「ここがイェスペッルア家、マリーアさんの実家か」


 空は屋敷の上だけ不自然なほど暗く雲がかかり、ときどき雷鳴までも鳴っていた。大鴉が不吉に鳴き、生垣の魔荊棘は侵入者の血を飲もうとざわめく——


「いやどんな家だよ」


「あらいらっしゃい、ちゃんと来てくれたのね。あとさんじゃなくてお姉ちゃん」


 いつのまにか後ろにいるマリーアお姉様が話しかけてきた。未だにこの人に背後を取られると身体が恐怖を思い出すものだ。


「これはこれはマリーアさん、その——すごい家ですわね」


 この屋敷にはユリヤお嬢様も引き気味である。


「そんな! ユリヤ様のご実家と比べれば掘っ建て小屋のようなものでしょう」


 褒めてねえよ。


「さ、どうぞ中へお入りください」


 きしむような音を立てて門が開く。俺たち無事にここ出られるのかな。


***************


「我が家の風習で、相手を悶絶させるぐらいの暴力を互いに振るうと二人は強い絆で結ばれた事になるんだ。強い絆というのは義兄弟なんかだな。娘もミコトくんの姉となりたかったのだろう」


 蛮族かな?


「フッフッフ我が名は目覚めのヨスケぐわあああああ!!!!」

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