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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第一章 学園の巻
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海見

「「海だあぁぁぁぁぁ!!」」「海ですわあぁぁぁぁぁ!!」


 海である。海に来た者は必ず、海だ! と叫ばなければならない。そうしなければ母なる海に対し失礼に当たるのだ。海は寛大なので理由があって叫ぶことができない人の場合叫ばなくてもいいということにはなっているが、信心深い人は理由があって叫ぶことができないのであっても海に行くのを慎むという。


「やって来たな! 白魔術研究会黒魔術研究会合同海見(うみみ)に!」


「なんですかサアク先生その説明口調、三文芝居の導入ですか?」


「やって来ましたわね! 黒魔術研究会白魔術研究会合同海見(うみみ)に!」


「影の部長さんも対抗しなくていいんですよ」


 そういうわけで二十数人で海見に来ている。うち2人、俺とユリヤお嬢様が黒魔術研究会で残りが白魔術研究会である。黒魔術研究会は4人しか会員がおらず、部長を含めた2人は全くやる気がないのだ。


 今日やってきたのはニメ海である。ニメ海には王国のウロエニメ領、ガガニメ小領、トモッロニメ小領、ドニメ領が面している。このあたりの土地は魚介類を利用した、独自に進化した食文化で有名である。特に発酵食品はヨルンギュイア王国の十二珍味にも数えられる。


 海に浮かんで炭酸水を飲んだりしてくつろいでいると、海の向こうの方から黒い三角の何かが近づいて来た。


「待て、あれは——」


「サメだあぁぁぁぁぁ!!」


 サメは海に生息する魚の一種で、人を襲うと信じられ——実際襲うものもいる——世界的に恐怖の象徴とされる。海に面している部分が小さいヨルンギュイア王国でさえ、その恐ろしさは知れ渡っている。


 まあ陸上には上がって来ないので海から出れば安全だ。俺たちのうち海にいた者たちは落ち着いて陸に上がった。しかしサメのヒレらしき三角はサメが潜っていられないような浅瀬の上も動き、そのまま砂浜に上がってきた。


「なんだあれは!」「サメじゃないぞ」「あれはサンドシャークだ」「サンドシャークだと」「海のみならず砂の中をも泳ぐサメの魔獣だ。基本的に人は襲わないらしいから刺激しなければ大丈夫だろう」


 すると『それ』は浮かび上がり、その全貌を見せた。『それ』は、サンドシャークではなかった。


「ククク——ミコト・ヒシュマーシュ。お命頂戴する!!」


 背中からサメのヒレを生やした、人間の男だった。しかもなんか俺を狙っているらしい。


「俺はサンドシャークに魂を売ってこの力を得たのよーッ!」


 大して強くなさそうだったので戦うことにして、無力化すると


「や——やるな。冥土の土産に一つ教えてくれないか、メイドだけに」


 と抜かした。図々しいな。というか別に殺さないし質問に答える義理も特にない。


「お前——過去転生者だろう? それも前世は【山のパン屋】だな?」


 二つ質問してんじゃん。しかし、割と聞き捨てならないことを口走ったような。


「——俺がなんだって?」


「クク——言っておくが俺などお前を狙う者たちの中でも最弱、お前はこれからヴッ!!!」


 サメ男の全身が痙攣し、青くなったり黄色くなったりした後動かなくなった。霊視で見てみると死んでいた。


「ちょっと、どういうことですの!?」


 鎖鎌でサメ男を拘束していたユリヤ嬢がうろたえる。俺もわからん。外から何かをされた形跡はない。しゃべっている途中で死んだので自殺ではないだろう。あらかじめ何かしらの魔術なり毒なりを受けていて、それが今効果を発揮したとかか。


「一体誰がこんなことを——」


「——わたしだ」


 振り返ると黒い祭服を着た長身の男が立っていた。話が早い。森の民なのだろうか、肌が黒褐色である。


「お初にお目にかかる、現世での名でいうミコト様。わたしはユルクロニ・リェキ」


 前世を知っているみたいな風に話しかけられたが、前世の記憶にこんな人は出てこない。


「今日は挨拶だけだ。いきなり命を取ろうだなんて言わないさ」


「さっきの人は言ってきましたが」


「まああいつぐらいは退けられないようでは困る」


 サメ男は負けて死ぬ前提だったらしい。哀れである。


「それではわたしは帰らせてもらうよ」


「無事に帰れると思っているのかい?」


 本当に挨拶だけだったらしいユルクロニが帰ろうとしたところにサアク先生が立ち塞がった。聖句集を開いて魔術行使の準備をしている。


「——彼女はこう言っているが、どうする?」


「サアク先生、この人めちゃくちゃ強いので戦うのは少しうまくないと思います」


 戦闘力としては自分より高い。二十数人で同時にかかっても倒せるかどうか。


「怖気付いたのかミコトくん! 相手が強そうだからといって! 部下を含む人が死んでもいいと思うような奴をな!」


「あれは部下ではない、鉄砲玉だ」


「どうなんだミコトくん!」


 ここはユルクロニがデモンストレーションとして高度かつ派手めの魔術を見せてくれたら戦わずに済むんだが。ユルクロニに思念送信で伝えてみた。


「——ではここでわたしの魔術を見せつけてやろうか、【黄金の雲よりくだる稲妻、白銀の空を——」


 無茶振りに答えてユルクロニは長い詠唱の後、海に体を向けて何かを開くような仕草をした。すると——海が、開いた。海を二つに裂き、その間をくぐり抜けた人の言い伝えはいくつかの地方に独立に伝わっている。現代では地震などによる地形の変化で説明されているようだが、前世では実際に魔術でそれを実行する人間もいたものだ。ユルクロニは現代では失われたその魔術を使えるというわけだ。


「な——なんだ、これは」


「ハハハッ、わたしが、ちょっと、本気を、出せば」


 肩で息をしている。あれ? この程度で息切れするのか。潜在的な魔力は多いはずだが魔力の使い方が下手だな。これは魔術主体にすれば戦っても勝てる。


「舐めるなユルクロニ! そのぐらい俺だってできるぞ!!」


「えっ」


 そう言って海の方を向き、開いた海を戻し、また開いてまた戻してみせた。ついでにもう一回開いて戻した。だめ押しでもう一回開いて戻した。詠唱する必要すらない。


「えっ」


「先生! 俺が間違っていた——やっぱりこいつボコボコにしてやりましょう!!!! みなさん支援お願いします!!!」


「えっ」


「おお、そうだな!! みんな、やれるか!?」「「応ッ!!!!」」「ですわ!!」


「えっ——ちょっ待っ——」


 そうしてユルクロニを袋叩きにしたが、


「——逃げられた」


 というか分体のようなものだったのだろう。ある程度攻撃したあたりで煙になって消えた。目的は不明、黒幕の所在も不明で、もやもやしたものを心に残して海を後にした——



「いやアレはないだろ! 帰してくれる流れだったじゃん!」


「猊下、何とぞ落ち着いてください」


「芸見せたら帰れるとか振ってきて! 見せてやったのに! マジであいつ何なんだよ」


「猊下、次の作戦ですが」


「ああ、そう、だな」


「猊下の御分体でも倒されたとなると四天王クラスをぶつける他ないのでは」


「それでは——目覚めのヨスケを向かわせよう。ヨスケを呼べ!」


「——と、いうことになると思ってすでに来ておりました」


「おお流石はヨスケ。大した第六感だ。第六感のプロだなお前。用件はわかるな?」


「ミコト・ヒシュマーシュですね」


「そうだ! まあ急ぎではないから準備をしっかりして行くんだぞ」


「御意——」


「フフフこれで片付いたも同然だな——クックック——フフフウワハハハ、ハーッハッハッハッハッハッハ!!!」


***************


「ここがイェスペッルア家、マリーアさんの実家か」


 空は屋敷の上だけ不自然なほど暗く雲がかかり、ときどき雷鳴までも鳴っていた。大鴉が不吉に鳴き、生垣の魔荊棘は侵入者の血を飲もうとざわめく——


「いやどんな家だよ」

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