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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第一章 学園の巻
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トゥツルにて

「メイドさん二人で旅行ですか。ようこそ透明な空の街トゥツルへ!」


 観光ガイドらしい人が話しかけてくる。一般論として、旅先で話しかけてくる奴はたいてい悪人である。こいつも悪徳観光ガイドと思った方がいい。それはマリーアお姉様も理解しているようで、無視して早歩きで通り過ぎた。通り過ぎる際「メイド風情が」だか何だか毒づいていた。やはり碌な人間ではなさそうだ。見た目やたった一つの振る舞いで人間を測るなんて最低だな。


「ここが宿ですね」


 お姉様が指したのは民家のような見た目の建物である。というか民家だった。民宿というやつか。


「あ〜いらっしゃい! 遅かったですね! 列車の遅延ですか」


「ええ、途中で足止めを食いまして。これ、おみやげのお菓子と、あとトーフです」


 お菓子は用意しておいたものだろう。トーフはさっき採ったのか。


「まあ! このトーフはとても質がいいですねえ、トゥツルでもここまでのは滅多に取れませんよ。それにこんなにたくさん頂けるなんて。近所にも配らなきゃ」


 トーフは成長すればするほど良い味を出すようになるのだ。


「あれ? 女二人ですか? 聞いていたのと違うような——」


 お約束である。


 夕飯はいつでも大丈夫だとのことだったので部屋に荷物を置かせてもらい、少し休んでから食べることにした。


「おいしい——」


 夕飯はウージャームヌと呼ばれる砂糖味のついた鍋料理だった。大陸の最東端にあるミズホ国の名物・スキ=ヤキに類似していると言われる。ただしあちらは牛肉を使うようだが、ウージャームヌは肉を使わない料理である。またスキ=ヤキは香辛料の類をあまり使わないと聞く。


「あれ、卵がありますね。しかも生ではありませんか」


「ああ、それは割って黄身を潰して、鍋から取ってきた具を浸して食べるんですよ。食中毒の心配もありませんよ」


 ここの文化は菜食的だと聞いていたが、鶏卵は食べるようだ。しかも生食で。


「ううん、卵は生だとこんな味がするんですね。確かに鍋の味付けに合うような気がします」


 おいしかった。


 その後湯浴みをし(ここでは男女問わず毎日浴槽に張った湯に浸かるのが普通なようである。実家と同じだった)、寝ることにした。


「お姉ちゃんと添い寝しない?」「遠慮しておきます」「なるほどあるわけね、深謀遠慮が」


 翌朝。朝ごはんとしてトウモロコシの生地でできた薄焼きパンに大豆と野菜類を挟み辛いソースをかけたもの(ナスナスというらしい)を食べ、街の散策に出かけた。今日はちょっと歩いたあと初魔(その朝最初の魔導列車)でノノ駅まで戻り、釣りでもして帰る予定である。ところが。


「おうおはよう、でかいトーフ持ってきた嬢ちゃんってなお前たちか。どこで手に入れたんだい?」


「この子が討伐したのよ」


 よせばいいのに地元民に話しかけられて姉様は愛想笑い以上のものを返してしまう。確かにこの人は悪い人ではなさそうだが。それを聞いたその辺のばあちゃんが話に入ってくる。


「ああ旅のメイドさんお強いのですね、魔獣が出て困っているのですが」


「お断りします」


 マリーア姉様が何か言う前にきっぱりと断る。魔獣退治とかそういうのは地元の冒険者の仕事だ。


「本当ですか! ではあちらからお好きな武器をお取りください」


 断れていないだと。


「武器なら十分備えているから平気ですよ。ねえミコト?」


 やめろ。面倒を背負いこむんじゃない。しかし姉(姉ではない)には逆らえず魔獣退治に参加することになってしまった。


 ——竹刀を振るい、遅いくる蜥蜴猿(リザードモンキー)を細切れにしていく。しかし、一向に敵が減る気配がない。


「これは召喚士がいるのではありませんかね」


 問いかけると上空でふわふわしながらマリーア姉様が答える。


「うーん、あっ、あの背の高い木の中ほどに何かいるわね」


「突破するのは辛そうですね。地元の冒険者呼んでおけば支援任せられたんでしょうけど。じゃあちょっとナルナナナヤン抜きましょうか。私を拾って上昇してください」


「えっそれ相手斬り殺しちゃうんじゃ」


「枝を斬って落とすだけです」


 そして、落ちた召喚士は意識を失ったようで、あっさり残りの蜥蜴猿を処理して追い詰めることができた。縄の心得はあるので捕縛してトゥツルの警吏に突き出した。


「——なんだったんだろうね、たいして大きくない領地に召喚士が魔獣けしかけるなんて」


 列車の中で心付けの大豆スナックをかじりながらネットを見る。労働のせいで途中下車の時間が取れなくなったが、お礼の品がおいしいのでいいか。


「地元の偉い人の発表ではいたずらでやったということらしいけど本当でしょうかね」


 よくわからん。小領地には小領地なりに色々あるのだろう。今回の旅はそういうことでとりあえず幕引きとなった。



 その時、どこかで——。


「——失敗したか」


「あの召喚士は我々の中でも下っ端、普段からドジばかりのだめなやつです。ここはわたくしに——」


「おお、お前ならやってくれるだろう——大地潜泳のネルセルソポス!」


***************


「じゃああいつが」


「あの最強と名高い」


 ——ふん。俺なんか、最強にはほど遠い。


「暴れ龍をあんな一瞬で討伐したなんて」


 ——まだだ、まだ背中も見えやしない。


「あいつを利用するなんて不遜なこと、誰が思うもんか」


「世界中の軍隊が束になったって適うまい」


 ——どいつもこいつも、骨のねえやつばかりだ。


「——ダトゥヤール。俺はいつまで待てばいい?」

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