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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第一章 学園の巻
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列車旅

 学祭が終わった。学期の折り返し地点だが、俺はいくつか残っていた演習の授業も最終試験を前倒しにしてもらい、全て合格点をもらって一足先に夏休み突入と相成った。


「ミコト。国鉄の特別自由乗車券が手に入った。一緒に旅に出よう」


 ズィロ少年が旅の誘いをかけてきたのはそんなときである。


 特別自由乗車券は一定期間中の決まった回数、一人一日一回使えて、使った日は鉄道を好きなだけ利用できる乗車券である。決まった回数というのは5回使えるものと7回使えるものがある。ズィロ少年が手に入れたのは5回のものらしい。特別自由乗車券を使った旅は学生や鉄道ファンの人気が非常に高い。


「手に入った、なんて希少品みたいな言い方するけど普通に駅とかで買えるものだろ」


「はは、まあそうだね」


「で、特別自由乗車券か。どっちへ行く?」


 ヨルンギュイア王国は広い。目安として王都から領土の端まで鉄道で行って戻ってくると2日かかると思っていい。


「うーん、ラゴゲイア地方とか?」


 ラゴゲイア地方は独自に進化した食文化で有名だ。出身者の気質としては陽気なおどけ者というのが典型的とされ、喜劇役者や大道芸人を多数輩出している。水の街としても知られ、景観がいいが水辺で育つ虫などもいると聞く。


「あそこはこの季節は雨季じゃないのか。ザザス地方はどうだろう」


 ザザス地方も独自に進化した食文化で有名だ。概して味付けは濃い。雨季というならザザス地方は一年を通して雨がちであるが、むしろそれが風情を出すと言われる。乾燥した気候なので通り雨に降られてもすぐ乾く。


「ザザスか。行ったことないし、それで良さそうだな。じゃあ早速来週あたり出発しようか。切符はミコトが持っていてくれ」


 というような話をしていたのだが、数日後キャンセルが入った。


「すまないがゼギア風邪を引いた。癒師からは二週間人と接触しないように言われている。ミコトと旅行したいという人物がいたから代わりに一緒に行ってやってくれ。知っている人物だ」


 まあ知らない人が一緒に旅行したいと言ってきても怖いが。


「これが大ダイ湖ね! 素晴らしいですね」


 ——車窓の水晶ガラスを通しての絶景に、赤髪を三つ編みにした少女が感嘆の声をあげる。


「そうですね、マリーアさん」


「お姉ちゃん」


「——マリーアお姉ちゃん」


 やってきたのは知っていてかつ怖い人物だった。この間アパルトメントまで股座を蹴り上げに来たのは記憶に新しい。まさか彼女が来るとは。正直何を企んでいるのか分からないので別行動を提案したりできるだけ離れた座席をとったりしようとはしているが、うまくいっていない。


 この世の全てに絶望したような表情を作ったり鋲付きの重そうなブーツで足の内側を叩いてきたりするので、申し訳なくなったり本当の恐怖を思い出したりして折れることになるのだ。泣き落としや脅迫がうまくいったという成功体験を与えるのはよくないとは思っているが、怖いものは怖い。


「ところでこれどこに向かっているんですか? ヨヨメノあたり?」


「そうですね、そろそろ言ってもいいかもしれないね。——トゥツル領よ」


 トゥツル領は独自に進化した食文化で有名だ。ヨルンギュイア王国の一部になったのは比較的最近で、文化圏的にも隣のル=ドラドラドラリア王国に近い。大豆をタンパク源、トウモロコシなどを主食とする菜食的な料理の伝統があるが、最近は肉料理も取り入れつつあるとか。空気が湿っていて、初めて訪れたドラフロア人はまず空の色に驚くと言われる。


 ちなみにヨヨメノはトゥツルに比べると古くからヨルンギュイアであるが、中心部から山で隔絶されていたことで独自に進化した食文化で有名である。信仰の対象にもなっているヨヨモ川でとれる魚はドラフロアにも運ばれ、好まれている。


「でも、この列車さっき途中駅に止まってからだいぶ長いこと止まっているわね」


『市民らに告ぐ。この先の線路が魔木により破壊されたことでしばらく停車する。運行開始は未定だ。ご迷惑をおかけする』


 車内アナウンスが流れた。


「どうします? 途中下車しましょうか」


「でもここってモ駅でしょう? 何もないことで有名だわ」


 するとコンパートメントの外の通路を通る人が割って入った。


「何を言っとるか嬢ちゃんら! モには豊かな自然とか暖かい人々の輪とかいいとこがいっぱいあるんだぞ!!」


 面倒くさそうな人である。じゃあ暇だからそのモのいいとことやらを案内してみせろよとか言いたいところだが、より面倒そうだし別にこの人に案内してもらいたくもないので言わない。どうせ大したものもない。ここは適当に受け流して車内でプレイカードでも遊んでいるのがいいだろう。


「ちょうどよかった。では暇なのでそのモのいいとことやらを案内してみせてくださいな」


 言ったよこの人。


「おお、いいぞ! 降りてついてこい」


 全く、マリーアお姉様は何を考えているのか読めない。ともかくも、モ駅の周辺を案内されることになってしまった。


***************


「ッグギャオォォォォドボボボボボ!!!!」


「嘘、だろう——」


 村が火に包まれ、人々は逃げ回ることしかできない。中貴族の屋敷ほどの大きさの白い直方体が滑るように空中を移動し、魔力波を放って家々を破壊しているのだ。魔術攻撃を吸収し、投げられた石や放たれた矢もダメージを与えることができない。


 それらは優れた戦闘技術をもつ訳ではない。ただ大きく、固い。魔力を吸収し、自己再生に使う。ある古龍が自ら創り出した、神性を帯びないものの中では最強の種族である。その名を、トーフと言った。

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