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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第一章 学園の巻
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学祭の模擬試合

「フライドチキンいかがですかー」「冷たいお茶ありまーす」「腸詰肉ー串焼きー」「♪この大地が丸かったなら 僕らまた会うことできたんだろうか」「ハイッ! というわけでね、やっていきたいと思うんですけれども」「革命的青年団革命的会誌の革命的バックナンバーあります」「瞑想体験していきませんかー」「終末の日は近い! 裁きを畏れよ!!」


 学祭は大盛況である。学院構内は一般客と学生でごった返している。


「——であるからして、これがわかりやすい応用例になります」


 俺はというと、0組の教室で魔力操作の実演をしていた。丸めた紙に魔力を通し、金属棒を叩いて見せる。棒が曲がり、感心したような声が上がる。


 この時代は体内の魔力を操作する技術が廃れている。空気中の魔力が強いためそのようなことをしなくても魔術を行使できてしまうせいかもしれない。


「体内の魔力を使うというのは健康への危険が伴いませんか」


 質問が出る。


「慣れないうちは頭痛やめまいなどが発生しますが、制御を覚えれば大丈夫です。少なくとも数字の上で即座に心身に影響が出ることはなくなると分かっています。長期での影響を調べるのは今後の課題です」


 今回は調査期間が短かったので長期での影響は調べきれていないのだ。前世では魔力を使って体を崩したなんて話は聞かなかったし自分も魔力を使い続けて平気でいるが、この時代の全ての人間がそうだとは限らない。


 聴衆の間でひそひそ話が起こる。聞き取れなくても何を言っているかはだいたい想像がつく。いきなり自分の体で実験するなんてとかデータが少ないんじゃないのかとかそんなところだ。魔力操作術が広がるには長い時間がかかりそうだ。


 さて、俺は学祭の間中ずっと教室でポスターの番をしているつもりだったのだが、そこにユリヤ嬢がやってきた。聴衆から「お嬢様」「縦ロール」などとつぶやきが漏れる。


「ミコトさん! サメと戦ってみませんこと!?」


「——は?」


 サメってあの海のサメ? 戦うと言ったのか。サメと戦う? 陸上なら圧倒的に有利だし水中なら圧倒的に不利で、勝負が成立することなんてないと思うが。


「来ればわかりますわ! 今ズィロさんが戦っていますの!」


 ユリヤ嬢は俺の手を引いて武道場に連行していく。学祭の間武道場では武術の模擬試合が行われる。学生同士のものもあれば、学生が騎士団員に戦いの中で指導を受けるものもあり、飛び入りでの参加も認められている。しかしサメとは一体。


 武道場に到着すると、ちょうど勝負がついたところのようだった。アッパーカットを受けたズィロ少年が冗談のような距離を飛んでいく。恰幅のいい初老の男性が相手に対応する旗をあげた。——どこかで見たような人だ。


「あの娘が騎士団員たちを退けたので、どこまで強いか見ようということになって、ユプト騎士団長を倒したミコトさんを倒したズィロさんがそこにいたので戦っていたのですわ」


「あの審判役をしている方って」


「——ヘルウェティカの街の偉い人ですわね」


 ——今はそれよりも対戦相手である。なるほどサメだ。俺ならサメ人間と表現する。その子はサメの着ぐるみを着ていた。手と足、フードがサメを模しており、サメの頭が5つあることになる。外見から判断できる筋肉量と固有魔術が告げる戦闘能力に激しい乖離がある。何かしらの超自然的な力が働いているのだろう。


「え? まだ戦わされるの? 私体験型アトラクションになったつもりはないんだけど」


「次で最後ですわ」


「メイド? の男? なんで?」


 サメの着ぐるみの人にファッションのことを言われたくはない。


 そして、試合は始まる。向こうの武器はナイフ二本のようだ。対するこちらは竹刀である。ただの竹刀ではない。その素材はこの間山に登ったとき採取した、金属を取り込んだ特殊な竹で、鋼鉄の4倍の強度を誇る。素の状態でもこれと打ち合えるのはミスリルぐらいのものである。魔力を通せば斬れないものはほとんどないと言っていい。——にも、関わらず。


「ミコトさんも圧されてますわね」


 切り結ぶ。あのナイフの素材はミスリルだ。それは間違いない。そして、それだけではない。切り結ぶ。魔力がよく通っている。おそらく生物由来のミスリルが使われている。純ミスリルを含む生物など伝説の領域であるが——


「この間ミスリル土人形(ゴーレム)が討伐されたって話題になっていたんですけど。サメさんですか?」


 切り結ぶ。


「さあ、冒険者が数人がかりでやっつけたって聞いたよ」


 切り結ぶ。その度に竹刀は傷ついていく。


「それと私の名前はサメじゃなくて——おっと」


 呼吸の切れ目を狙って竹刀を投擲し、間合いを詰める。掌底を胴に入れる。——手加減したつもりはなかった。ぼふ、と音がする。布団を殴っているかのようだ。いつの間にかナイフを手放したサメ娘とインファイトが始まる。ただし、向こうの可愛らしい手袋から繰り出される剣呑な攻撃は通る一方こちらの攻撃は通っているのか判然としない。


 ——霊的状態の数値化という固有魔術は極めて有用である。戦闘において相手や環境の状態を測れば勝てるかどうか、どうやれば勝てるかがある程度分かる。しかし、戦う前から結果がわかるということは、多くの戦いは勝つと分かっている『作業』かさもなくば負けると分かっている『罰』に堕してしまうということだ。勝つか負けるか分からない攻防を楽しむのが戦いの醍醐味だというのに。


 それを踏まえて、この相手は面白い。勝つか負けるか分からない。どうやったら勝てるのか分からない。久しぶりの、本当の戦いだ。今の狙いは、上半身の攻防に意識を引きつけての足技である。最初の剣戟で、足運びに甘いところがあることを俺は見抜いている。専ら対魔獣戦をやってきたのだと思われる。踏み込む足を払おうとして——軸足を掬われた。足の攻防でではない。地面の変形、すなわち土魔術によってだ。俺は派手にすっ転び、それが試合の決着となった。


「いやー面白かった。またやりましょう、サメさん」


「え、嫌だけど——」


「——」


 一方通行の思いとは悲しいものである。


***************


「ミコト。国鉄の特別自由乗車券が手に入った。一緒に旅に出よう」


 ズィロ少年からお誘いがあったのが発端だった。それが——


「これが大ダイ湖ね! 素晴らしいですね」


「そうですね、マリーアさん」


「お姉ちゃん」


「——マリーアお姉ちゃん」


 ——どうして、こうなった。

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