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天岩トントン  作者: ハナタカJOE
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 あぁ、またこの夢か───

 『夢』─空想と現実が交差する半無意識下の束の間の非日常。

そんな時の中、彼、夜寺忍男は自分の意思とは関係なくほぼ直感的に、瞭然と自分の見る夢にがっかりした。


 俺が悪夢とも言えるほど見飽きたこの夢を見るようになったのは、遡る事つい二週間程前。

東京の中学を卒業し、高校進学を控えていた春休みのある日、長野県の山間部にある宿場町で神社の神主を務めていた父方の祖父が亡くなり、跡継ぎが他にいない為、急遽引越しが決まったあの日からだ。

 

 最初はもちろん見た夢の記憶など起きた時には消え失せていた。しかし、それから毎日毎日、日々同じ夢を見るたびに、今では細部まで鮮明に思い出す事ができる──


 夢の始まりはいつも電車の踏み切りの前。辺りを見渡すと四方は山に囲まれ、空には零れ落ちそうな程輝く太陽が爛々と照りつけており、後ろを振り返ると橋が架かっている。そして夢の中で俺は一通り辺りを見渡し終えると、徐に足を進める。しばらくすると今度は、宿場町の中央道に出る。

立ち止まり左右を確認した所で、左へと足を進めた所で場面が飛ぶ。

 再び意識が夢とリンクした時、俺は古い神社の鳥居の前にいる。上を見上げると扁額には『××神社』と書かれている。

 神社の名前は分からないが、この文字を見た時、なぜだが俺はいつも心の深くで懐かしさの様な物が噴きあがるのを毎回感じる。そして鳥居を抜け本堂の前を過ぎ境内にある裏山の上へと続く細道に差し掛かった所で更に場面が飛ぶ。

 続いての場面は山の上。後ろには宿場町に線路、国道沿いを流れる大きな川が見える。そして振り返ると目の前には紺色に煌く屋根の大きな洋館が現れる。しかしそんな物にも意を返さず、俺は屋敷の塀の外に生えた一本のヒノキを目指して大股で歩いていく。ヒノキの前まで来ると俺は迷わず、目の前の巨木の幹へと足をかけ、そこで最後の場面に飛ぶ。

 最後の場面は地上から遠く離れた木の上。下を見ると、地面が遠く見える。前を見ると、純白のカーテンがかかった大きな窓がある。そこで風が吹きカーテンが大きく波打ち、その窓の先には決まっていつも、ちらりと椅子に腰掛ける小さな人影が見える。そして、その人影を目にした時、俺は誰かの名前を呼ぶ。しかし、それが誰なのかは分からない。ただ窓の向こうの人物を呼んでいるのは確かだ。だが向こうからの反応は無い。そこで俺は身を乗り出し、もう一度身を乗り出し、その名を呼ぼうとする。そして俺は──


 そう。だからこの夢は『悪夢』なのだ。見たくも無いのに毎日同じ夢を見て、したくも無いのに毎日ビクンと体を跳ね起きさせねばならない。まったく最悪だ。


 そして、案の定今回も俺は、引越しの荷物に囲まれた狭い車内の中跳ね起きた。車を運転している親父にばれなかったのが何よりの幸いだ。高校生にもなって、親に悪い夢でも見たのかなんて心配されたらお終いだ。


 ふと外に目をやると、涼しげな風が顔を撫でて行く。国道沿いを流れる大きな川が赤い夕日と緑の木々を映し出し煌いている。東京の人工光とはまったく別世界の美しさだ。


 引越し先に着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 座りぱなしだったせいか重くなった足を動かし、狭い車内から出ると、少し肌寒い風が吹き抜けて行く。

 身震いしながら、親父の後に続き、新居の中へと入る。しばらくは誰も住んで無かったからか中は少し埃ぽい様な匂いがした。そして俺は今日と言う日にお別れし、夢と言う非日常世界へと再び溶けていった。

 天岩トントンをお読み頂きありがとうございます。

早期の次話投稿を目指したいと思います。

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