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ベジタブル・バトラー・オンライン  作者: 青田 ガリ
1章 大会のはじまり
3/10

テントウムシ駆除クエスト

 今回の大会では、本選であるトーナメントが始まるまでにいくつかの予選を突破しなければいけない。


 まず最初に、100人でのバトルロワイヤル。

 性質上、有名なプレイヤーが危険人物として真っ先に狙われがちのため、動画配信をするような有名プレイヤーが予選であっけなく負ける例もあり、割と殺伐としている。


 次の二回戦も、同じく100人でのバトルロワイヤルだ。

 一回戦を突破した強者を集めて再び戦うために、一回戦とはレベルは段違いだと予想できる。


 これだけでも、10000人の中のトップにならなければいけないのだ。


 何十年か前にあったバトルロワイヤルゲームで、二連続で「ドン勝」するようなものと考えれば、その過酷さを想像するのは難しくない。



 しかし、人類の最高峰たるトッププレイヤーにとって、この程度の試練は大した障害とはならない。





「ライトー! 勝ったよー!」



 今、ライトの目の前ではしゃいでいる貧乳少女レターも、その一人だ。


 特にギルドに所属しているわけではないソロプレイヤーで、ライトをBBOに連れてきた張本人である。

 他のVRMMOも同時進行で遊んでいるために、つかっているベジポンの性能はお世辞にも高いとは言えない。

 一般人でもレターより高性能なものを持っている者は多いだろう。


 逆にそれでもバトルロワイヤルを勝ち抜けることが、彼女のプレイヤースキルを証明しているとも言える。



「相手がみんなエンジョイ勢でよかったな。レベル99じゃないやつもまじってたし」


「そうだね。ほかのトッププレイヤーがまじってたら危なかったかも」



 ライトとレターは、うっそうとしたジャングルを歩きながら、そんな話をしていた。

 BBOサラダバーカーニバル中限定のクエストを一緒にこなそうとしているのだ。




 【お祭り限定クエスト 異常個体発生!? 『超上級』】


 依頼主:虫狩りの少女


 お祭り中だというのにすいません。最近ジャングルの奥に不穏な気配があったので行ってみたら、とても信じられないような害虫が……! このままではジャングルに自生している貴重なベジポンがすべて食い尽くされてしまいます。ぜひ、倒してください。依頼に成功した方には、特別な害虫と戦えるチケットを差し上げます






 こういうクエストだ。


 依頼分を見ればわかる通り、このクエストを達成することが、イベント限定の害虫レイドに挑戦する条件となる。大会も大事だが、せっかくのイベントなのだしいろんな要素を楽しみたい。

 なのでレターは、ライトをこのクエストに誘ったのだ。



「たぶん、あそこの広間にいるね!」



 レターは、早くも愛剣「菜王の憎悪レ=タス」を構えてぶんぶん振り回している。

 レタス系の大剣の中では、おそらく最高峰の性能を持つベジポンだ。


 実際レタスという系統自体は、そんなに栄養があるベジポンではない。

 だが、そのほかの野菜を包む器のような形状と、食べやすい淡泊な味から、サラダにおいてはかかせない野菜だ。

 形状的にも、加工方法が豊かであり、レターのように巨大な剣として使う者もおれば、その柔らかさを利用して背中に装着し、翼にして飛行する者もいる。


 オーソドックスにして奥深いベジポンなのだ。



「さて、どんな敵が待っているのやら……」







  ツタまみれのところから開けたところに出ると、そこにいたのは













       超巨大なテントウムシだった。



「ら、らいと……。いくらなんでもでかすぎない……? こんな大きいの見たことないよぅ」



 レターが微妙に誤解を招きそうなことを言っているが、確かにその大きさは、異常だ。



 現実でのテントウムシは、指先にくっつけられる程度の小さなもの。

 アリよりは大きいかな、程度だ。


 もちろんそれではゲームにならないので、この世界では小型犬くらいの大きさになっている。


 だがあのテントウムシは、もはや空母だ。

 空中にあの大きさがいるさまは、まるで進行してきたエイリアンのUFOのよう。

 落ちてきたらフロアごと踏みつぶされてしまうに違いない。

 人間サイズの我々なんぞ、あのテントウムシからしたらアブラムシにも満たない。

 一口でぱっくりいかれてしまうだろう。



 高い枝の上でのっそりと静止しているその巨大テントウムシは、下からのぞくとわりと気色の悪い裏側がはっきりみえる。




『ニジュウヤホシテントウ レベル5』




「絶対嘘だあ! レベル5なんて嘘だあ!」


「うーん。嘘だろうなあ。これってもしかしてジョーククエストの部類なのか」



 オンラインゲームにおいては、ときどき運営のおふざけ的なクエストが投下されることがある。

 そういうのはたいてい、エイプリルフールだったり、何周年記念イベントみたいなときに行われるものだ。

 これももしかしたら、BBOサラダバーカーニバルでのおふざけクエストかもしれない。


 そもそもこのクエストは、レベル99しか受けられない「超上級」のクエストだ。

 わざわざレベル5のモンスターを配置する当たり、悪意が透けて見える。




「これって絶対さー、あの広場の真ん中までいったら落ちてくるアレだよね」


「行ってみろよ。レベル5だぞ。見た目で威圧しといて、実はくっそ弱いパターンかもしれない」


「その逆で、クッソ強くしてみるのもありがちなやつじゃん!」


「いやでも行かないと、なんかこのクエスト進まなさそうだし」


「嫌だよう。もし初見殺し系だったら、私のベジポンロストしちゃうじゃん。これ、大会で使うつもりのベジポンなのに」


「え、なんでそんな大事なもん装備してきたんだよ」


「ううううう。一回戦勝ったついでにきたから、ベジポン変えるの忘れてたぁ……」


「バカだ……!?」



 このベジタブルバトラーオンラインは、手塩にかけて育てたベジポンが簡単に壊れることで有名だ。


 まず作ったベジポンは、たとえ冷蔵庫にいれて保管しておいたとしても、三か月ほど経つと腐って使えなくなる。

 実際に装備して使っていた場合は、もっと早い。

 ヘタしたら一日で害虫に食べられるなんてことは日常茶飯事だ。


 パーティで狩りに行って全滅したら、全ベジポンがロストするのである。

 あまりにも過酷な仕様だ。


 これは非難を浴びることも多い設定だが、当然それに見合うようベジポンの入手も簡単になっている。


 ファームで安定した栽培体制を築き上げられれば、ある程度の質のベジポンは安定供給できるようになるし、消耗品である分バザールでも積極的に取引されている。


 このゲームを始めたばかりの初心者であっても、消費期限切れ寸前という条件付きにはなるものの、最前線クラスのベジポンを購入することも難しくはないのだ。

 つまり、このシステムによってプレイヤーは、様々な種類の野菜を自然と使うようになるのである。

 戦闘に緊張感が出るというのも大きなポイントだ。




 ……という仕様をちゃんと理解しているプレイヤーなら、ガチ勝負ではない、のほほんとした冒険では二軍ベジポンを使うことがほとんどだ。

 ちょっとした気の緩みで、自分の最高のベジポンが食われた日には、泣くに泣けない。

 この世界では、優れたプレイヤーほど、自分のベジポンをしっかりと管理しているのだ。



「しょうがない。ここは俺が倒したやるよ。レターはそのへんでレタス構えながら見てな」




 懐から、武器ベジポンを取り出す。


 一つは、対人戦闘用に使いやすい短剣、「忍刃ニンジン


 もう一つは、害虫退治に使いやすい「ポテトンファーM」

 以前レターからゆずってもらったものの子孫だ。



 両腕にトンファーを装着し、右手にだけ「忍刃ニンジン」を持つ。



 臨戦態勢をとって、ライトはテントウムシが待つフロアの中心へ、一歩ずつ歩き出した。



「ごめんねーライト。ライトはちゃんとロストに備えた装備してきたんだよねー」



 手持無沙汰なので、とりあえずレタス大剣を構えながら謝罪するレター。

 後方からする、その声に対してライトが返事をしようとする。




「ああいや、違うぞ――――――




 その瞬間に落ちてくる、巨大テントウムシ。

 いや、ただの自由落下ではない。

 明確に枝を蹴り、翼を広げた、突撃。


 重力と、そもそも大きすぎるその身体は、突進の体感速度を何倍にも増幅させる。




 明確な、初見殺し。


 このクエストを受けたプレイヤーのほとんどが、ここでテントウムシに突進を受けて一撃死。

 生き残ったのは、これを予測して防御力アップのバフを山ほど積み込んだプレイヤーか、反射的にスキルを用いて回避したプレイヤー。




 天才ライトは、そのどちらでもなく





(狙うべくは、あの小さな眼!)




 忍刃ニンジンをテントウムシに向かって投げつけ、「迎え撃つ」ことを選択した。



 「突進」という性質上、必ず頭が前に出るということ。

 大きさ補正で踏みつぶしの威力はとんでもないことになっているだろうが、防御力は「レベル5」のままだろうということ。

 落ちてくるまでは、下から狙撃されても死なないように設定されているだろうということ。

 また落ちてくる最中も、硬そうな背中の甲殻にはおそらく攻撃は通らないだろうということ。

 そして一年前にコクゾウムシにキュウリを刺したときと同じ、「VRMMOでは適切な部分を攻撃すればちゃんとダメージが入る」という常識が存在すること。

 これは初見殺しを狙うだけのジョーククエストであり、おそらくガチ戦闘をするクエストではないということ。




 ゲームにおける今までのライトの経験則が一瞬で洗われ、最適解が導き出される。





「俺の必殺技、『ただの投擲』!!」


 もはやスキルと呼べるほどに最適化されたフォームから忍刃ニンジンが放たれる。

 「ただの投擲」は正確に空を切り、そして


 



「ピュアアアアアアアアアアア」




 テントウムシの目を貫いた。



 突進がキャンセルされ、テントウムシがはるかかなたの空へとふっとんでいく。

 テントウムシ系の虫を倒したときの、共通のやられモーションだ。


 大きさが大きさのせいで、吹っ飛ぶ距離もとんでもないこととなっている。



 テントウムシを貫き、自由落下してくる忍刃ニンジンをキャッチし、納刀しながらライトは言った。





「今の俺の装備は、大会のために用意したベジポンそのままだ」




 ――――優秀なプレイヤーほど、一番良いベジポンは変な形でロストしないようにちゃんと管理する。



 ――――だが、ライトのような究極のゲーマーにとってそんなことは必要ない。


  どんな事故が起ころうと絶対に死ぬことはないと確信しており、またそれを裏付けるだけの実力を保持しているからだ。


【ニジュウヤホシテントウ】


 ナナホシテントウは、害虫であるアブラムシを食べてくれることで有名だが、こいつは葉っぱをかじったりする害虫として嫌われているテントウムシ。

 ベジタブルバトラーオンラインにおいても、冒険初期に出てくる気持ち悪い害虫の代表として、初心者への洗礼を浴びせる役を担っている。

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