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ベジタブル・バトラー・オンライン  作者: 青田 ガリ
1章 大会のはじまり
2/10

穀王さま

ライトがベジタブル・バトラー・オンラインを始めてから一年。


「さて、祭りの用意は大体出来たかな」


 ライトのファームは、ゲーム内通貨の大半をつぎ込んだおかげで、最初からこのゲームを遊んでいたプレイヤーと変わらないほどの広大さになっていた。

 またもちろんのことだが、実際のお金による課金も十分行っている。

 しかし昨今のゲームはペイトゥーウィンになることは少なく、課金要素といっても着色料がいろいろ使えるようになるとかだ。(そもそもベジタブルバトラーオンラインは月額課金制である。)


 このために、ライトの強さは狂ったほどのログイン時間でも札束の暴力でもなく、単純なゲームの技量によるものなのだ。



「いやー、ファームを無駄に広くするのも考えものだったな。一人じゃこんな広範囲管理しきれねえよ」




 最初にレタのファームで戦ったように、ファームには大量の害虫が侵入してくる。

 

 コクゾウムシのように倉庫に貯めてあるベジポンを食い荒らす害虫。

 シロアリのように建物自体を破壊してくる害虫。

 カメムシ、アブラムシなどのように栽培しているベジポンを食い荒らす害虫。

 ハエなどのようにベジポンを汚染したり、挙句の果てには寄生してくる害虫。

 クモ、Gのように特に害はないけど、現実でもいると怖い上に馬ほどの大きさがあるせいで、つい駆除したくなってしまう、不快害虫と呼ばれる害虫。


 

 このゲームのプレイヤーに女性が少ない理由が分かった気がする。

 きれいな環境で住んでいる人にとっては嫌なゲームだろう.


 ファームが広くなるということは、それだけ管理が難しくなるということだ。

 まだライトのファームが小さかった時のころは無農薬栽培を志していたが、高価なベジポンを栽培するとそれに比例して上がっていく害虫の強さのせいで本来の楽しみである冒険が出来なくなってしまったため、ライトは泣く泣く農薬を使用することにした。


 適量なら栄養にそこまで影響が出ることはない。



 だが、そんなライトも今回だけはVRMMORPGの本来の楽しみ方である冒険を中断し、無農薬栽培による最強のベジポン制作に勤しんでいる。


 理由は簡単。

 もうすぐ開かれるベジタブル・バトラー・オンライン最大のお祭りイベント。


ベジタブルバトラーオンラインサラダバーカーニバル」が開催されるからである。


 明日から一カ月の間、運営が本気でプレイヤーを喜ばせるためのイベントとして数ヶ月前から告知されていたイベントだ。

 

 このイベント中にしか現れない超最強クラスの害虫討伐レイドのスタンプラリー。


 ゲーム内の主要な都市全てがお祭り状態になり、百を超える限定クエストの配信。


 フルーツ系のベジポン実装がついに実装。


 そして一番の目玉である史上最大級の大会イベント。



 オンラインゲームでのPvPイベント。

 しかも大会。


 ライトを含め、ゲーマーが燃えないはずがない。



 全プレイヤーがこのイベントのために最高傑作と呼べるようなベジポンを制作している。

 本来最強のベジポンを作ったとしても、使用回数制限しょうひきげんがあるせいでメリットが少ない。

 しかし、今回の大会にエントリーさせたベジポンは、その枷がなくなり、永遠に使えるようになるという特典、『永久保存化(フリーズドライ)』がつく。


 だから大会優勝は狙えなくとも、そのためだけにベジポンを制作している人も多い。

 見た目のかっこよさや、ベジポンによるアニメキャラの服装再現などのコスプレ装備も作られているらしい。

 ベジポンコンテストも開催され、優秀作品は新マップ「ミュージアム」に展示されたりするらしい。

 祭りが始まる前から既に、全プレイヤーが準備を進めているわけだ。


 ベジポンも加工し終わり、チェックも終わった。

 戦いの準備は万全だ。

 そして今、カウンドダウンが始まる。

 王都には祭りが始まるまでのカウントダウンタイマーが配置されている。

 祭りが始まるのは「0:00」つまり夜中の十二時だ。


 タイマーは時を刻み、ついにその瞬間はやってくる。


「3!、2!、1!」


「B・B・Oサラダーカーニバル! スタアアトオオオオオオウウウッ!!!」

 

 どこからかする甲高い男のアナウンスと同時に、仮想世界中で大量の花火が打ち上げられる。

 どうやらイベント限定の設定のようだ。

 王都ではいまごろ期間限定ショップが開店したり、各ダンジョンでは化け物のような害虫が出現しているだろう。


 深夜の闇を彩る花火の非日常感は、たとえ仮想世界といえどもワクワクするものだ。



「よし、とりあえず行ってみるか」


 顔がばれないように、カボチャで作った「ジャック・オ・マスク」をかぶる。

 これで余計な注目を浴びることもない。

 ライトは有名人すぎるために、ゲーム内でもこのような対策が必要なのだ。


 ワープポータルを起動させる。

 行き先は、このゲーム最大の都市「王都」


-----



 祭りが人々を興奮させるのは、仮想世界でも同様のようだ。

 いや、逆になんでもやりたい放題の仮想世界だからこその興奮とも言えよう。

 開始から数時間経った今でも、止まることなく花火が打ち上げられているこの状況もVRの特権である。

 王都全体が、にぎやかな楽器の音と、ざわざわとした雰囲気に包まれていた。


 ライトはあちこちの店で、イベント限定アイテムを買いあさっていた。

 祭りは、上級者のための高難度イベントから、初心者救済イベントまですべて盛り込んであると言ってよい。

 

 イベント限定ベジポンの、『ラッキーラッキョ』などは、「レベル50以下のプレイヤーが装備していると獲得経験値10倍(祭り中のみ有効です)」と、破格の性能である。


 祭りモードの王都を歩きまわっているだけでも、限定クエストを依頼してくるNPCなどに遭遇することが多く、時間があっという間に過ぎてしまう。


「あ! ライトさんじゃないですか」


 ライトは誰かに呼び止められた。

 後ろを振り返ると。


「その声は……。やっぱり『こくおうさま』か」


 カボチャをかぶっていても誰かわかる。

 それは、ライトの「フレンド」であるということを示していた。

 しかも個人通話モードになっている。

 これなら俺がライトであることがほかにばれることはない。


 その男は体中が、どこか黄金色に輝くきらびやかな装備をしている。

 どのベジポンも最強クラスのものだ。

 奴も今回の大会のために凄いものを収穫していることは間違いないだろう。



「はっはっは。やめてくださいよその呼び方。ライトさんは王都の散策ですか。僕達はレイドに行ってきたところです。」


「おお、イベントのか。はじまったばっかりだというのにすごいな。勝ったか?」


「いや、惨敗でした。『覚醒せし狩人・タイショーアシダカ』ですって。通常のアシダカグモとは戦闘能力が比べ物にならない。素早さでは最強クラスのゴキブリ系に匹敵するスピード。そして何よりもあの暗殺能力。何が何だかわからないままほとんどがやられてしまった」


「おまえがボコられるレベルのモンスターをイベントで使うとはな。運営も強気だ」


「そうですね。ちゃんと専用の対策練らないと勝てないようになってます。まあ、そうでもないと面白くありませんね」


 そう言って、「こくおうさま」はにこやかな笑顔を見せた。



 奴の名はブレット。

 BBOの中でも一、二を争う大型ギルド「五穀」のギルドマスターだ。

 

 米・麦・豆の三種類のベジポンを、自在に使いこなす圧倒的実力から「穀王(こくおう)」と呼ばれる。



 最強種 ブランド「こしひかり」の米ベジポン「ウェストシャイン」

 あらゆる姿に変形する小麦ベジポン「タングラム」

 特殊攻撃担当の便利な大豆ベジポン「ハタケの霜降り肉」


 どれも一般プレイヤーなら眉唾物のベジポンだ。


「ライトさんも大会には出ますよね。いやー、楽しみだな。このゲームでの有名プレイヤーがほとんど参加するんだから」


「『五穀』、『つちのなかにいる会』、『新緑の翼』、『単細胞軍団』、『オーガニックキャンパス』の幹部はほとんどが決勝トーナメントに進出すると見ていいだろうな」


「もう予選は始まっているんですよね。僕ももうそろそろ出ようかなあ」


「それがいい。俺はなんか第一予選は免除された」


「ああ、まあそうですよね。さすがにライトさんと戦わされる一般プレイヤーはかわいそうだ。」


「予想になるけど、ほとんどのプレイヤーがほうれん草とモロヘイヤのベジポンを使うんじゃないかな。とりあえず栄養素の高いテンプレ装備ばかりだと思う。」


「ですよね。そのくらいの相手なら苦戦することもなさそうだ。じゃあ、僕もさくっと勝ってきます」


 ブレットは、どこか能天気に、でも自信満々に言い放ち、バトルドームへと歩いて行った。

 いや、途中で立ち止まり、踵を返してきた。

 

 ライトがかぶっているカボチャをがしりとつかむと、中にある耳に語り掛けるように、言い放つ。



「最強、無敵と祭り上げられたあなたの無敗伝説もこの大会で終わりです。あなたは必ず、決勝戦の場で僕の前に屈することとなるでしょう。もっとも、ほかのプレイヤーも本気であなたの首を狙って戦略を練ってきます。うっかり足をすくわれないようにしてくださいよ、ライトさん?」



 先ほどまでの柔和な態度が嘘のような、圧倒的な挑発。

 生きる伝説と呼ばれるライトを前にしても一切ひかない姿勢と、それを裏付ける確かな実力。

 

 挑発を受けたライトを包んだのは、「怒り」ではなく「喜び」だった。


 自分の強さのために、どうしても舐めプをしなければいけなかった人生。

 はじめて、AIではなく人間が。


 自分にとっての脅威として立ち塞がろうとしている。

 本気をぶつけられる相手が、この世界にはたくさんいる。



「期待ハズレにならないように頼むよ。穀王様」



 カボチャの向こうにあるブレットの瞳で燃えているのは、明確な闘志だった。





 ブレット。

 ライトをのぞけばナンバーワンの実力とあがめられるプロゲーマー。

 

 企業がバックについて支援を行っており、その端麗な容姿からゲームの広告塔に抜擢。

 分業体制でゲームプレイの動画配信も行っており、そのうまさから着実にファン数を伸ばしている。


 おそらくライトにとって、一番の脅威となるプレイヤーだ。



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