2杯目
カフェ&バーCEREZOの1日は長い。
11時から16時まではカフェ営業。
19時から1時まではバー営業を行っている。
カフェ時間は前の店主時代から一緒にバイトしていた久視さんに店を任せる事も多いが、3人しかいないメンバーで店主の俺が休んでられる訳もなく今日もカフェ時間で店にたっている。
「なぁ哲平、そろそろ彼女の一人でも作らいないのか?」
準備も終え手持ちぶさたになった久視さんがご自慢の髪をスマホで確認しながらセットしつつ話しかけてきた。
「またそれですか... 今は仕事が恋人ですよ」
「はぁ~、寂しいな。常連さんにかなり声かけられてるだろ。顔もいいのにもったいない。だから一哉との関係噂されたりするんだよ」
「もう、またそれですか。勘弁してくださいよ。第一お客様とそんな関係になるのは」
「はいはい、お堅いですね。なら相手なんかしなきゃいいのに、ホントお人よしというか、なんというか、八方美人も度が過ぎるとなぁ。ホントそれ良くないよ」
その言葉にむっとしつつ言葉を返してやろうとしたときお客様がご来店なされた。
ギィ~ カランコロン♪
「「いらっしゃいませ」」
その後は、普段はそこまでお客の多くないこの店も、最近久視さんが考案した、SNS映えするパンケーキを求めるお客様と、春休み期間である事が相まって、13時を過ぎるまでは、慌ただしい時間が続いた。
「ふぅ、ようやく落ち着いてきたな。今日は人多いな」
「久視さん、落ち着いてきたので、今のうちに休憩入ってくださいよ」
「りょーかい。じゃあ遠慮なく」
ようやく客足も落ち着いた所で久視さんには休憩に入ってもらう。
さすがに今日のお客様の多さには驚いたな。
ギィ~ カランコロン♪
「いらっしゃいませ」
「あ、お兄さんだ!こんにちは」
「土御門さん、こんにちは~」
ご来店なされたのは近所で花屋を営んでいらっしゃる三津谷さん親子。
小学校3年生の花ちゃんと母親の三枝さん。
親子と軽く談笑をしながら注文を取ると、注文を受けたサンドイッチとお子様ランチをつくり始める。
すると厨房で料理を進めていると花ちゃんが入ってきた。
「わたしも料理したい!!!」
「お、花ちゃん料理できるのかい? でも危ないからお母さんの所に戻ってようね」
「う~ん、わかった!」
「その代わりにこのオレンジジュースあげるね」
「ありがとうお兄さん」
う~ん、やっぱり子供は素直で可愛いなぁ
俺も将来、結婚したら娘がほしいぁ
「あ~、てっぺーが小学生相手にいやらしー顔してる。いけないだ~」
「美沙、おまえなぁ… それより、勝手に裏口から入ってくるなと何度言えば」
「へぇ~小学生が勝手に厨房に入ってきてもいいのに、私はダメなんだ~ ふ~ん」
いきなり現れたこいつは、幼馴染の美沙。
茶色がかった髪色で軽やかなエアリーボブで赤い眼鏡が特徴で、黙っていればどこに出しても恥ずかしくない程の美人さん。
しかしこいつには厄介な所があって...
「あ、でも。将来の私たちの子供は女の子がいいよね~」
はい、まさにこんな所。
「はいはい、またそれですか。いい加減そんなのはやめてちゃんと彼氏をつくりなさい」
「え?彼氏ならいるよ~」
「なんと、ついに! おめでとう!!」
「へ?何言ってんの?彼氏っていうか旦那? 私の目の前に」
「はぁ、だから~ それ!そういうの!」
「え?将来まで誓いあったにあれは嘘だったの?」
「って、それ幼稚園児の頃だろ? そんなの時効だろ」
む~、なんて言いいながらこっちを睨んでいる美沙を横目に、出来上がった品を三津谷さん親子に運ぶ。
「ふ~ん、てっぺーはそういう態度取っちゃうんだ。 なら~!!!」
何かを後ろで言っている美沙を無視して三津谷さん親子が待つホールに出て品を運ぶ。
「え?ちょ! ん!?ん、ん!」
「ごちそー様です。旦那様♪」
急に美沙が目の前まで、飛び出てきたと思うと、一瞬の隙にあろう事か、他のお客さんや、三津谷さん親子のいる前で、いきなりキスをしてきやがった!?
「ちょ!美沙!!!何してるんだ!」
「何したって?キスだけど? 減るもんじゃないし、いいじゃん。じゃーねー」
と、ダッシュで店を逃げた...
「お、哲平。モテモテだな。しかしお客の前でとは美沙ちゃんも大胆だな」
いつの間にか、休憩を上がっていた久視さんが笑いながらそんな事を言っている。
そして店内を見渡すと
花ちゃんは無言で顔を赤らめながら、興味深々とばかりにじっとこちらを見てるし...
三枝さんは娘の前で何をしてるんだといわんばかりにこちらを睨んでいるし...
他のお客様も、最近の若いもんは場所も考えず、とこちらを睨んでいる。
え?何?これは俺が悪いの??
「だから言っただろ。いい顔しすぎると良くないって。ま、べんきょーべんきょー」
いい顔って、あいつにはむしろその逆だし…
というかマズイよこの状況。
嘘だろ! 夢じゃないよね?
なんて厄日なんだ...
大事に培ってきたお客様との信頼が...
放心状態だった俺はその後の記憶はほとんどない。
お客様へのフォローは久視さんがきっちりしたとか。
はあ、災難だ...
なんて災難なんだ…