1杯目
「さて、今日もオープンとしますか」
学生時代からバイトでお世話になっていたカフェ&バーCEREZO。
先代マスターが海外放浪の旅へ出るにあたり、店を譲っていただき早1年。
自分がモットーとする「八方美人」という生き方・立ち振る舞いのお陰か、今までの常連さんはもちろん、自分がマスターを初めてからの新規のお客さんも自分を慕って来店いただきとなんとか1年ここまでやってこれた。
の、だが、ここ最近はなかなかどうしていろいろと問題が...
ギィ~ カランコロン♪
建付けの悪いドアが開くと共に、吊り下げベルの小気味いい音が店内に響く。
「一番ノリ~ 今日オープン早いね!!!」
「ちょっと、実歩。いきなり大声だして、あんたは...」
オープンしてすぐ、OL二人組が入ってきた。
彼女たちは常連さんで仕事終わりに大概毎日こられる。
開口一番大声で入ってきたのは実歩さん。
スタイル抜群で、髪形はラウンドバングでマッシュボブ。ぱっちりとした目が特徴で童顔。
スーツに着られているような感じ、実年齢よりかなり低く見えるが正真正銘の30歳。
いつもこの調子で入ってこられる元気な方。
もう一人は同僚の沙那さん。
眼鏡をかけた奥にはキリっとした目付き、綺麗なロングヘヤーでスーツもバシッと決まる、THE仕事のできる女という風格を持っていらっしゃる方。
「いらっしゃいませ。今日は早い時間ですね。しかし店主の俺が言うのもなんですが毎度飽きないですね」
「今日は早く終わったからね! しかし、それをてっちゃんが言っちゃう? 私達が毎日来てる理由わかってる癖に~ ねぇ沙那?」
ちょっと不満げな表情を浮かべながら沙那さんに話を振る実歩さん。
「う~ん、まあテツマスターのそういう所も含めて好きなんで、目をつむりますけど。ただあまりにも振り向いてくれないなら実力行使も...」
と、沙那さんが不気味な笑みを浮かべながらそんな事を言いだした。
「沙那さん怖いです(笑) 二人ともからかうのは辞めてくださいよ~ それより何を頼みます?」
この二人は、いつもこうやって冗談か本気かわからいような形で、俺に好意を示してくる。
しかし他のお客さんへの気遣いの為。
俺のモットーを貫き、話そこそこにはぐらかしている。
なんとか話題は逸らせたのか二人はメニューを確認して話している。
「おーい、一哉。お二人の注文聞いてくれ」
「はーい、マスター」
俺が声をかけると、バイトで入ってもらっている一哉がバックヤードから出てきて、二人の傍に行き注文を取り始めた。
「一哉君、ヤッホー!しかしホント可愛いよね~ こんな妹欲しいよ。お姉さん毎度ほれぼれしちゃう」
「確かに、実歩の言う通り妹に欲しいぐらいです。ただ、マスターがここの女性客の猛烈なアピールに靡かないのは一夜さんが関係してるかもなんて、常連の杉さんが言ってたから…」
「え!マスター、僕のことっ///」
や、やばい。なんか不穏な空気になってきたぞ。
「ちょっと待ってください! 杉さんなんて事言ってるんだよ。断じて、俺に男色の趣味はないです!」
「で、ですよね... 僕みたいなのは気持ち悪いですよね。すみません…」
一夜が涙ぐみながら唇を噛みしめ下を向いた。
「あ~、てっちゃんが一夜君を泣かしたー」
「ちょ、ま。一夜、お前が嫌いとかそういう事ではなくて。むしろ好きだから」
「ま、マスター。好きって///」
一夜が目を潤ませながらぱっと表情が明るくなった。
なんか言葉の意味とり違えてない? しかし男にしとくのはもったいない逸材だよな。
本人的には女の子らいしが。
「やはり、テツマスターは男色の趣味があるから、私たちのアプローチに... こうなればやはり実力行使しか…」
「確かにその状況はピンチだよね。じゃあ、この胸を使って女の子の魅力を知って貰おうかな。そっち側に回って、てっちゃんを! えいっ!」
ちょ、実歩さん。胸押し付けないで...
てっ、え?何、沙那さんその手錠なに?
なんでゆっくり近づいくるの?
おい一夜助けてくれ!
って惚けて自分の世界に入ってるし え? え?
ギィ~ カランコロン♪
「ありゃ、今日はずいぶんと賑やかだね哲平君。お取込み中だし出直したほういいかな?」
「ちょ、杉さん~!!!!!!」
今日はいつも以上に疲れた営業日でした....