ナイショの『内緒クラブ』
「起立! 気をつけ! さようなら!」
委員長の挨拶に倣い、生徒たちも、さようなら! と復唱する。そして各々、部活へ向かったり、家に帰ったりする。窓の外はまだ日が高い。外はやっと雪が溶けたが、まだまだ肌寒く、帰る生徒たちは冬用のコートを羽織っている。
あらかた生徒が帰った後、四人の生徒が残る。
「今日のクラブ活動も楽しみだな」
トモコはロングヘアーの女の子で、自分の机を持つと、移動を始める。他の生徒、眼鏡の男子生徒――タケオは、慎重に机を宝物のように丁寧に運ぶ。そして短い髪の活発そうな男子――チカラは、机を引きずって他の机にガンガンぶつける。そしてタケオの並べた机に乱暴に横付けする。そしてポニーテールのユウは、トモコの隣、チカラの向かいに机を並べる。
「ちょっとチカラ、机押しすぎだって! もっとそっち行って」
ユウはポニーテールを揺らしながらチカラを叱る。
「細けえなあ」
チカラは怠そうに机を動かす。それが終わると、チカラは挨拶もなしに話し始める。
「今日はとんでもない情報を持ってきたぜ」
そう言うと、チカラはいかにその情報を得るのに苦労したかを熱弁する。
「でな。給食を残しすぎると、給食センターの人が『ここのクラスはもう少しおかずを減らそう』って考えるんだって。それで、次からクラスに配られるおかずの量が減っちまうんだよ!」
チカラは両拳を机にドンッと叩きつけた。
「良いじゃない。多すぎたのが減るんだから」
トモコは、何が悪いの? と首をかしげる。
「トモコは小食だから、給食は少ない方が良いんだもんね」
ユウがトモコに微笑みかける。
「そういうこと」
トモコは笑い返した。
「こ、この話には問題があると思う」
タケオが控えめに言った。両手を机の上でモジモジさせている。
「問題? いい話だと思うけど」
トモコはまた首をかしげた。
「そうよ、そうよ。言ってみなさいよ!」
ユウがタケオの方に身を乗り出す。
「う、うん。あの、皆が好きなおかずが来たときが、問題なんだ」
タケオは自信なさげに答えた。
「そうか! 人気のおかずも減らされちゃうんだ」
ユウは驚いた顔をする。
「フルーツポンチとかも、減らされちまうかな」
チカラは眉をひそめた。
「そうだと思うよ」
タケオが返事をする。チカラは勢いよく立ち上がった。
「トモコ! お前今度から給食残すんじゃねえぞ!」
チカラはトモコをびしっと指さす。
「無理だよ! 食べれないよ……」
トモコは困ってしまう。
「トモコに無茶言わないで!」
ユウがチカラに向かって怒る。タケオは慌てていた。
「み、みんな落ち着いて……」
「お前もだタケオ! よく残してんじゃねえか。だめだからな! 次からは食えよ! 中学生のくせに食えないなんて。俺は明日、クラスの全員に『給食は残すな』って言う」
それを聞いたユウの頭から、湯気が出ているように、トモコには見えた。
「なんて横暴なの! そもそも誰も、チカラに「『内緒クラブ』に入っていいなんて言ってないわよ! 勝手に混ざって、乱暴なこと言って! 許せない!」
今現在、四人が話し合っていることこそ、『内緒クラブ』のクラブ活動だ。『内緒クラブ』はクラブの存在が内緒なのだ。活動内容は、秘密話をすること。チカラは偶然トモコたち三人が話しているところを見つけ、それからずっと活動に参加しているのだ。
「ユウちゃん落ち着いてぇ。私はチカラも『内緒クラブ』の仲間で良いと思うよ。入っちゃだめ、っていうのはなんか良くないよ……」
トモコは必死にユウを止めた。
「た、確かにそう思う」
タケオもうなずく。ユウはため息をついた。
「もう、二人は優しすぎなんだから」
「あのね、とんでもない話しを聞いちゃったのよ。ここだけの内緒ね」
ユウが話し出した。この話し始めは、『内緒クラブ』のお決まりの話し方。全員が身を乗り出して、ユウの話しを聞く。
「シンが家で虎を飼ってるらしいの」
シンというのは、同じクラスの生徒だ。授業をサボったりする不良生徒である。
「嘘!」
トモコは真っ先に叫んだ。だってトモコは子猫も触れないくらい動物が怖くて仕方が無い。それなのに虎! 冗談じゃないわ、とトモコは思った。
「本当よ、虎を拾っているところを見た人がいるんだって。えさは豚一匹丸ごとなんだって!」
「誰が見たんだよそんなの」
チカラが言った。
「それは知らないわ」
ユウはけろっとして言う。
「じゃあ嘘だと思う……だって、虎がこの町にいるわけないし」
タケオが言った。
「でもね! 委員長が、家の中に虎がいるのを見たって言ってるのよ」
ユウが勢いよく言った。トモコは驚く。
「委員長が! 委員長、嘘つくような人じゃないよね」
「でしょ! やっぱりいるのよ」
トモコたちのクラスの委員長は美人で、勉強も運動もできて、しかも優しいから人望がある。トモコも前にユウと、委員長みたいになりたいねと話したことがあった。
「トモコ、お前噂が本当か確かめてこいよ」
チカラが言う。トモコはぎょっとする。
「嫌だよぅ!」
「ビビリ!」
チカラがトモコに向かって大きな声で言った。ユウが机をバンッと叩く。
「ちょっと無茶言わないでよ! 虎よ! 怖いに決まってるじゃない」
ユウは今日何度目かの怒りモードになる。この怒りモードは、たいていトモコを守るときと、チカラを叱るときに発動するのだとトモコは知っている。
「トモコ! お前給食食べきれないからって、牛乳持って帰ってるだろ! 鞄に仕舞ってるの見たぞ。先生に言いつけるからな」
チカラがトモコに顔を近づけて言う。
「やめて!」
トモコは悲鳴を上げる。
「『内緒クラブ』が内緒をばらしてどうすんのよ!」
「方針に反するような……」
タケオも苦い顔をした。そして、ユウがきりっとした顔をする。
「それにね! トモコは勇気がある子なんだから! ビビりなんて言わないで!」
トモコ……そんな風に思ってくれてるなんて、嬉しい!
そのとき、トモコは立ち上がった。
「私、行くよ!」
「トモコ! いいのよ、行かなくて」
ユウが焦ったように止める。
「やっと行く気になったか。絶対いけよ! 見張ってるぞ」
チカラがトモコに向かって言う。
「一緒に来るの?」
トモコは少し笑顔になる。
「いや、家に帰って見張ってる。俺、どんな遠くでも見えるからな! 建物とか透視できるから」
「バカ言わないで、家の中から見えるわけ無いじゃない」
ユウがまた怒るのであった。
「そろそろ塾の時間だ」
タケオが立ち上がり、鞄を取る。
「そうね、じゃあ今日はこれまで。帰りましょ」
ユウも立ち上がる。それにならってトモコも立ち上がった。チカラもバックをリュックのように背負う。
「私、虎見てから帰る」
トモコは言った。
「本気にならなくていいのよ」
ユウが言ってくれる。
「おい、タケオ。お前シンの家の場所知ってるだろ。前プリント届けに行ってたじゃんか」
「うん……」
タケオは渋々、トモコに家の場所を教えてくれた。
「ありがとう! じゃあね!」
トモコはすぐに向かおうとした。日が暮れてしまったらもっと怖い。
「トモコ……本当に行っちゃうの」
「うん! 大丈夫。遠くから見るだけ」
「そっか……怖かったら止めて良いからね」
ユウはトモコに言い聞かせた。
「絶対止めるなよ! じゃあな」
チカラはそう言うと、雑に手を振って去っていく。
「じゃあね」
次いでタケオも二人に手を振ると帰って行った。
「トモコ、じゃあね」
ユウは眉を八の字にして言うと、名残惜しそうに後ろを振り返りながら帰った。トモコは一人になる。
そして学校帰りの生徒がちらほら見える住宅街まで来ると、突然トモコは立ち止まってしまった。歩道の真ん中に、首輪の付いた大きな犬が吠えているのだ。首輪に付いたリードは長く、一つの家から歩道まで出てしまっている。
トモコは少しだけ前に進む。
「動かないでよね……」
ガウガウ! と大きく犬が吠える。トモコは大きく飛び下がった。心臓のあたりを抑える。大きく心臓が跳ねている。息が切れ、目眩までしてきた。
「どうしよう」
トモコは、拳を握る。そして、また一歩だけ踏み出してみる。
「無理! 無理だよう」
トモコは立ち止まったまま、動けなく鳴ってしまった。そしてそのまま、ずうっと動かないのであった。
太陽が夕日に変わって西の空に落ちていく。トモコは犬とにらめっこを続けていた。
「トモコ。大丈夫?」
後ろから声をかけられて、トモコは振り返る。眼鏡を掛けた少年。タケオであった。見慣れないバックを肩にかけている。タケオはトモコの次に、犬を見て飛び跳ねる。
「うわあ! でかい!」
ずれてしまった眼鏡を直すタケオ。
「大丈夫じゃないよう」
トモコは泣きそうに言った。
「ちょっ、ちょっと待ってね」
タケオはそう言ってバックの中をかき混ぜ始める。そして取り出したのは、弁当だ。タケオはおかずのたこさんウインナーを指でつまむと、犬小屋がある庭の方に向かって投げる。犬はそれを追って家に入って行く。トモコは、犬が戻ってきやしないかとチラチラ犬の方を見ると、走って家の前を通る。
「渡れた! ありがとうタケオ!」
トモコは笑顔をタケオに向ける。
「うん、良かった」
タケオは照れくさそうに下を向く。
「だけど、なんでここにいるの?」
「塾がこっちの方向なんだ。いったん家に帰って、荷物取って行くから」
タケオはバックを掛けた肩を上げて見せる。
「ふーん。そうなんだ。タケオの塾にも助けられちゃったね」
「はは、そうだね」
そうして二人は、道が分かれるまで一緒に行くことになった。民家は少なくなり、路地に入っていくと、猫の集会に出くわす。トモコとタケオは、二人して止まってしまう。
「大丈夫?」
タケオはトモコに聞く。
「猫も怖いのよ」
トモコは震えながら答える。
「手握ろ」
タケオから差し出された手をトモコは握る。小刻みに震えていた。
沢山の猫が怖いのは、タケオも一緒だったのね。
「走るよ。せーの」
タケオが走り出すポーズを取る。
「えっ、ま、待って! きゃああああ」
タケオに手を引かれ、トモコは猫のいる路地裏を通り過ぎる。目の前に見える、猫、猫、猫。トモコは全身の毛が逆立つ。やっと猫の密集地帯を過ぎ去り、二人は立ち止まる。そして、肩で息をする。
「ごめん、無理に引っ張って。痛くない?」
タケオが申し訳なさそうにトモコの顔を覗く。
「大丈夫。タケオも怖かったよね。ありがとう」
トモコはタケオの顔を見て言う。
「じ、実は怖かったんだ。だけど、二人だから頑張れた」
「そうだね。二人だから怖くない」
トモコは自然と笑顔になった。そこから二人は、『秘密クラブ』を作ったときの話をしながら歩いた。
「私とユウが内緒話してたときに、クラブ活動にしよう! 秘密のね、っていう話になったの」
トモコは遠くの空を見ながら言う。タケオが、「そのとき俺はね」と話し出す。
「塾の時間までいつも残ってた俺は、いつも二人の内緒話を聞いてたんだよね。その日もクラブを作る話を聞いて、入るって言ったんだ」
「丸聞こえだったんだよね、恥ずかしい」
トモコは両頬を抑える。
「それで三人になって、チカラが入って四人って訳だよね」
と話すタケオに、トモコはうなずく。トモコは楽しくて、ずっとこの時間が続いてもいいと思った。
しかし、とうとう分かれ道が来てしまう。
「俺はこっち。じゃ、じゃあね。無理しないで」
「タケオ……うん。頑張る! じゃあね!」
「…………」
タケオが心配そうな顔をしているのが分かり、トモコは無理に笑顔を作ってみせた。
日はすっかり沈み、やっとのことでトモコはシンの家の前に立っていた。
「と、虎……!」
シンの家のカーテンに、大きな虎の影が映っている。トモコは、悲鳴が出るのをやっとのことでこらえる。
「噂は本当だったのね」
巨大な虎だ。カーテンいっぱいに映る、トモコの背より遙かに大きい虎。
トモコは、ユウのことを思い出す。トモコのことを、勇気があると言ってくれた。
「勇気を出さなきゃ! ユウの気持ちを裏切りたくない!」
トモコは植え込みに足を掛ける。そして植え込みを登る。
「よいしょっ! っと、……ゆっくりゆっくり……」
植え込みを越え終わると、雑草の茂った庭を通る。そして、カーテンの隙間から中を覗こうとする。
「……うーん、もうちょっと……んー見えないな」
トモコは歩き回ってあっちこっちのカーテンの隙間から覗こうとする。すると、飛び出ていた木の枝で腕を切ってしまう。
「痛い! うう……」
涙をこらえる。
「泣いちゃだめ……よし! 真実を確かめるわよ!」
「虎も怖いけど、不良のシンも怖い……」
いつも黙っていて、怒っているようにトモコには見えるのだ。トモコはゆっくりとチャイムに指を近づける。
「やっぱ無理!」
トモコはバッと指を離す。
「よう、トモコ!」
チカラの声だ。驚いて振り返ると、『内緒クラブ』の皆が立っていた。
「心配できちゃった」
「塾より、大事なことだと思うから……友達だし」
ユウがタケオの背中を叩く。
「良いこと言うじゃない! それからチカラったらね、本当は怖かったのよ! だからトモコのことが心配になっちゃったみたい。私たちね、皆怖かったけど、トモコを一人にしたくなかったんだ」
「俺が手伝ってやるよ」
チカラは、トモコがチャイムを押そうとしている手を上から押そうとする。
「いや、いい! 私が押したい!」
トモコは、勢いよくチャイムを押した。シンが出てくるのを、息をのんで待つ。
「――――はーい。あっ」
扉が開かれる。出てきたシンは、トモコたちを見て驚いた顔をする。
「何だよ」
トモコは焦る。
「あの、あのね! 虎を見せてほしいの!」
ユウが驚く。
「ちょっとトモコ! あのね、シン。いるかどうか教えてくれるだけでいいの! 見たくはない!」
「上がれよ」
シンは一言言うと、家の中に下がっていく。トモコたち四人は玄関を上がり、リビングに入る。
「あっ、猫」
虎は虎でも、虎柄の子猫がいる。
「茶トラだ。この猫しかこの家にはいない」
身じろぎをする子猫が電気に照らされ、カーテンに大きく映っている。
「あれが大きく見えてたんだ!」
トモコは叫ぶ。
「電気で照らされた猫だったのね」
ユウはほっとため息をつく。
「放課後、部活終わりの生徒が通ると、もう電気が付いてるだろうからね。そのときに見たんだよ、きっと」
そうタケオは説明する。
「なんだよー恐がり損じゃねえか」
チカラが言った。
「あら? 怖かったの認めるの?」
ユウがわざとらしくチカラに聞く。
「あー、今のはなし! 取り消し」
「この猫、拾ったんだ。俺、親が共働きだから、家に一人で……。この猫も、ひとりぼっちだったから」
「飼うことにしたんだね」
トモコは言葉を引き継いだ。
「ああ、だけど親には秘密なんだ。動物嫌いだから。食べさせるものにも困ってて。食べ物が減ってるのがバレたら、そこから猫飼ってるのバレるかもしれないだろ」
「いいのあるよ!」
トモコは鞄から牛乳のパックを出す。
「はい、これ。あげる。」
トモコが差し出した牛乳を、シンは受け取る。
「ありがとう……」
すると、タケオも鞄を漁り始める。そして、ぐちゃぐちゃのパンを取り出した。
「これも……あげる」
「鞄に直接入れてたのかよ! 汚ねえ!」
顔をしかめるチカラとは対照的に、シンは食べかけのパンを受け取る。
「ありがとうな。ほら、食え」
シンはパンを猫に差し出す。しなやかな動きで近寄ると、パンを囓る。
「ちょっと待ってな」
そう言うと、シンはキッチンへ行く。飲み物とおやつを持って出てくる。
「食ってけ」
トモコたちはお礼を言うとおやつを食べた。
「牛乳、毎日持ってくるね」
トモコが言う。
「俺も、パン残したら持ってくる」
タケオも言う。
「ちょっとはお前らも食えよ! まあ、お前らがそれ以外の残したら、俺が食ってやるよ」
そう、チカラはそっぽを向いて言う。トモコとタケオは顔を見合わせた。
ユウが皆を見て微笑む。
「なんか良い感じに話しが纏まって良かったわね」
そのとき、子猫とトモコの目が合った。まん丸の潤んだ目と、トモコのぱっちりとした目。子猫はしなやかな足取りで、トモコへ歩み寄る。トモコの肩がビクッと跳ねる。しかし、トモコは逃げない。ゆっくりと、トモコは手を伸ばす。そして、子猫の柔らかな毛をなでる。暖かい背中であった。
「うにゃー」
「わわっ」
子猫が、トモコの手を舐めた。嬉しそうな顔に見える。
「ふふ、くすぐったいよ。へへへ」
トモコは子猫の顎の下をくすぐる。ゴロゴロと声を出す猫はとても嬉しそうで、トモコまで嬉しくなった。しばらく、『内緒クラブ』の皆は茶トラの子猫と遊んだ。
「それでね、シンくん。私たちの、『内緒クラブ』に入らない? 皆でおしゃべりしたらその……寂しくないと思うよ」
トモコは居住まいを正す。
「……入る」
シンはトモコの方をちらっと見て返事をする。
「やった! メンバーが増えたね!」
ユウはガッツポーズをする。
「思ったより、シンって怖くないね。安心した……」
タケオがほっとため息をつく。
「もっと盛り上がるな!」
チカラは歯を見せて笑った。
「明日、学校に行くのが楽しみだね!」
トモコはそう言って笑う。皆のおかげで動物が怖くなくなった。それに、仲間がこんなに優しくて頼もしいってことも分かった。
それから『内緒クラブ』はトモコ、ユウ、チカラ、タケオ、そしてシンの五人になった。
「シン、学校サボることなくなったよね」
トモコが嬉しそうにシンに言う。今は放課後、五人が机をくっつけている。『内緒クラブ』のクラブ活動中だ。
「もったいないだろ、せっかく面白い話しが聞けるんだから」
あたりまえだろ、とシンは付け足した。
「それにシン、良くしゃべるようになったわよね。もちろん、良いことよ」
ユウも嬉しそうに言う。
「悪かったな」
シンはむすっとして顔を背ける。
「だから、良い意味だって言ってるじゃないのよー、チカラとは別の意味で面倒くさい!」
「「なんだと!」」
チカラとシンが同時に怒る。トモコとユウ、タケオから笑いが沸き起こった。
毎日学校に来るシンを先生や学校の皆は不思議がったけど、トモコたちは誰にも言わない。
だって、『内緒クラブ』なのだから。
「それでな、ここだけの話だぞ。なんと、この町で恐竜をこっそり飼ってる奴がいるらしい!」
シンが脅かす様に大きな声で言う。
「もう動物はこりごり!」
トモコは頭を抱えて叫んだ。
「なんだよ、克服したんじゃないのかよ!」
チカラが鬼の首を取ったように言う。
「子猫は触れるってだけ!」
トモコは弁解する。そこにユウが割って入る。
「ちょっと皆落ち着きなさい。恐竜がいるわけ無いじゃないのよ、この馬鹿シン!」
「チッ」
馬鹿、と言われたシンは舌打ちをする。
「さてはトモコを脅かすために適当に言ったわね! 許せない! チカラと一緒に破門よ、破門!」
ユウは腰に手を当てて、ドアを指さす。それをトモコが止める。
「待ってえ、三人になっちゃったら寂しいよう」
「ふ、二人も良い奴だと思う!」
トモコに続き、タケオも言う。
「もう、トモコとタケオは本当、優しすぎるんだから」
ユウはため息をつく。トモコとタケオは顔を見合わせて、笑い合った。日はまだ高い。まだまだ五人の、内緒話は続きそうである。