第1話 アバターメイク
戦いは大詰めを迎えていた。
睨み合う騎士と魔女はどちらも満身創痍。
互いに機を狙い間合いを取り合い、そうして先に動いたのは騎士だった。
白銀の甲冑が風を切る。疾風を纏いながら迫る騎士を、漆黒の魔女が迎え打つ。
曇天の闇を照らす金の長髪と、背に生えた漆黒の翼がぐるりと翻る。
魔女の鼻先を騎士の剣が掠める。騎士の激しい猛攻に曝され、防戦一方の魔女。
振るわれた騎士の大剣が魔女を両断するその瞬間、魔女の前方に展開される魔方陣。
あらゆる敵を一斬の下に斬り捨ててきた騎士の大剣は、超常の神秘に阻まれ火花を散らす。
接近戦での不利を悟った魔女は両翼をはためかせて飛翔する。
だがそれを見過ごす騎士ではない。残りの魔力を全て費やしての奥義・《疾風斬》を発動させる。宝剣に集った全ての風を刃へ変えて放つ必殺の一撃。
魔女へ迫る《疾風斬》。だがそれこそが魔女の罠だった。
《疾風斬》が魔女へと届くその刹那の間に、魔女の周囲の空間がグニャリと歪む。そして次の瞬間には魔女は騎士の眼前へと姿を現した。
これぞ魔女の有する空間転移魔法・《テレポーテーション》。
奥義の使用によって硬直状態から抜け出せない騎士へ、魔女が引導の一撃を繰り出す。
『これで終わりじゃ!』
現れた魔方陣が騎士を吸い寄せ、そのまま磔にする。
魔方陣と共に遥か上空へと浮き上がり、全身の自由を奪われた騎士はそのとき、周囲を覆う無数の光の球体を視界に入れる。
それらは一つ一つが強力な魔力を帯び、バチバチと紫電を迸らせていた。
『闇夜に抱かれて逝くがよい。《ライトニング・カタストロフィ》!』
魔女の声に呼応して、光の球体は金色に輝く雷の槍へと姿を変える。
雷鳴を響かせ騎士へと迫るその姿はさながら猛獣。魔女の使役する獰猛な獣に他ならない。
爆音を轟かせながら、全ての雷の槍が騎士へと直撃する。
闇を散らす雷に彩られながら、騎士はその命を散らしたのだった。
大気をどよもす歓声が会場に響き渡った。
多くの観客が椅子から立ち上がり惜しみない喝采を送る。
会場に設置された巨大モニターには、決め台詞と共にポーズをとる魔女の姿が映し出され、それを称えるかのように表示される『WIN』の文字。
第四回『メイキングファイター』全国大会を制したプレイヤーが歓喜に震えながら拳を天に突き上げる。
司会者が興奮しながら壇上へ上り、優勝者へとマイクを向ける。
優勝者が感極まって嗚咽を漏らしながら今の気持ちを語るその姿を、一人の少年が観客席から羨望の眼差しで見つめていた。
興奮覚めやらぬ会場の熱気に包まれながら、少年の心もまた確かな熱を宿していた。
いつか僕もあんな風に――。
夢見るような心地でそう呟いた少年は未だ歓声の鳴りやまぬ会場からそっと抜け出し、すぐさま最寄のゲームショップへと向かって駆け出した。
――二○二○年に発売された一つのゲーム機が、新たなるゲーム時代の幕開けを告げた。
そのゲーム機の名は、『アバターメイク』。
その名の通り好きなアバターを自在に作成できるゲーム機だが、最も特筆すべき点はこれを他のゲーム機に接続することで、既存のゲームソフト内にそのキャラクターを登場させて動かすことができる、というものだ。
例えばRPGソフトをセットした状態でアバターメイクをゲーム機に接続すると、そのRPGの主人公がアバターメイクのキャラクターへと変わり、そのままゲームを進められるのだ。
発売前から話題になっていた当機だったが、当初はゲーム機というよりも、ただのMOD導入デバイスという認識が強く、ゲームメーカーからも厳しい批判が続いていた。
発売当初もほとんどのゲーム機に非対応であったためその機能を活かしきれていなかったアバターメイクであったが、ある日、まだ設立したての小さなゲーム会社がアバターメイクと完全提携を表明。
その会社が発売した全てのソフトがアバターメイクに対応しており、口コミからアバターメイクの人気が爆発。一気にその知名度を上昇させた。
そのあまりの人気ぶりに、他のゲーム会社も慌ててアバターメイクに対応した新機種を続々と製作する始末だった。
そして二○三○年現在、アバターメイクは未だ衰えない人気で一世を風靡し続けていた。