あんたの世界が終わるまで
「自分で言うのもなんだけど、」
流れ落ちた前髪を掻き上げ、聞こえてきた言葉を鼻で笑い飛ばす。
「私ってバリバリのキャリアウーマンでお金もたくさん稼いでるし、美人でスタイルだって悪くないからこれからも男に困らないし、ポジティブ思考でくよくよしないから、あんたなんかあっという間に忘れるわよ」
言いたいことを言ったらすっきりして、鞄に突っ込んだままの缶コーヒーを取り出して一気に煽った。
自販機で微糖と間違えて買ったブラックコーヒーは思いの外苦く、刺激に驚いた空っぽな胃袋が拒否反応を起こす。
飲まなきゃよかったと後悔しても遅い。ムカムカと込み上げてきた吐き気を無理矢理呑み込んで、別れを切り出した男を見下ろす。
いつだって見下ろされるばかりだったから、逆転した立場は何だか新鮮だった。
告白されて、色んなことを共に乗り越えて、結婚まで考えていたその人は今、消毒液の匂いに満ちた白い部屋の、気が狂いそうになるほど白いベッドの上で苦笑している。
青ざめた顔からはかつての快活さが失せてしまっているけれど、目尻をくしゃくしゃにして笑う笑顔は昔と変わらないまま。
胸を張って、口角を上げる。
友人に大絶賛された悪女の笑みを浮かべながら、感覚から切りされてゆく両足に力を込めて踏ん張る。
「病人の世話とか面倒くさいけどさ、長くてもあと何ヵ月なんでしょ。今までのよしみで付き合ってやるわ」
***
私は、強い。
高飛車で、誰よりも自分に忠実な強い女。
あんたの前では、最期まで弱音を吐いたりなんてしない。
三流小説のようにみっともなくすがり付いたりするもんか。
世界が終わるまで、ずっとずっと側に居座ってやるわ。