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召喚

ある日突然景色が変わった。


詩的な表現なんかじゃない。放課後の教室が突然中世ヨーロッパのような石造りの圧迫感を感じる景色に変わった。

あたりを見回すと他にも人がいるようで、全員状況が呑み込めずに困惑しているようだった。

よく見れば見た事のある同級生や先輩、教室もいれば全く見た事のない他校の生徒やサラリーマン、工事作業員、運転手のような姿をした人もいれば赤ん坊を抱いた女性まで様々な出で立ちの人もいた。


これが同じ学校の生徒だけならまだ言い訳の一つや二つ思いつけたかもしれないがこうも無作為に選ばれていると流石に結びつくイベントなんて祭り位だろう。

しかし残念ながら俺の記憶じゃ祭りの季節ではない。


とにかく情報だ。俺は再度周囲をくまなく観察する。

まずは俺達の周りを取り囲むように立つ鎧姿の連中とローブを深く被ったいかにもRPGの魔法使いみたいな姿をした連中、絵本の王様が着てるような無駄に豪華で悪趣味な服をきた連中が興味深そうに視線を送っている。対し俺達、同じ境遇にある面子を見ると同年代組の男子は状況が把握出来てきたのか夢だと暗示をかけている奴もいれば、異世界召喚だと浮かれてる奴もいる。

けどやはりいきなり見ず知らずの場所にほとんど裸一貫でそれも車みたいなよく知った移動手段でもない摩訶不思議な現象で、だ。不安と恐怖で女子はすすり泣いている。

こういう時に召喚だって浮かれてられる奴がある意味羨ましいよ。まあ俺もここは異世界だと言われなくても合点しちゃってるクチではあるけども。

教師陣は生徒をなんとか宥めようとしているイケメン教師が女子生徒に"だけ"(ココ重要)手当たり次第声をかけているようだった。


その他の大人組は仕事どうしようとか課長に電話したいのに圏外じゃないかとか俺がここにいるってことはバスは……とかこの状況より仕事や家事の心配をしているようだった。流石過労死大国日本、刷り込まれた仕事強迫観念恐るべし。というか運転手の人は……うん、深く考えちゃダメだ。



「よくぞ参られた勇者達よ。聞きたい事があるのは承知しているがその上でまずは私の話を聞いて欲しい。」



凛とした低めの声が響き渡りローブと鎧の集団が縦に割れて一際豪華な服を纏った一人の男が歩いてきた。

歳は五十代くらいだろうか。年相応に老けてはいるが同年代の一般人と比較して見ると身体付きは程よく筋肉質、色褪せた金髪のオールバックと彫りこそあれど整った顔立ちに思わず萎縮してしまいそうだ。多分推測無しに王様だろう。



「私はこの国、王都サルボルディアナの国王であり貴殿らの召喚主である!!」



案の定国王か。ファンタジーにおける王族は美男美女なんて定説はあながち間違いでは無いらしい。

そんな俺の勝手な感想は他所に国王はどんどん話を進めていく。


まとめるてここはよくある魔法と剣のファンタジー世界。そして今世界は魔王なる存在が現れ配下である魔族をけしかけて人類の滅亡を図っているとか。それを阻止するには異界に生まれた英雄の素質を持った者を喚び出し、闘う力を授けるとか。その力で魔王を討つと元の世界に帰れる方法が載せられた魔道書の鍵が開くとか。つまはらはその素質を俺達は持っているから力を貸してくれというのが大まかな内容だ。


話が終わったところで辺りを見回すと国王の話に感動したのか共感したのか、さっきまですすり泣いていた女子生徒までもがやる気に満ち溢れ、その場にいるほぼ全員が"魔王殺すべし、慈悲はない"と言いたげな空気が流れていた。


まるで洗脳的なカリスマ性、詐欺師との直接対決番組を見ていなければ俺もひっかかっていただろう。


なんでひっかからなかったかって?そんなの簡単だ。つい最近その番組を見ていたこともあるが国王の話は直々脱線していた。確かに犠牲はあったのだろう、だがその犠牲者達の名前を国王が全て覚えて涙ながらに語った瞬間違和感を覚えた。


騎士から果ては農民まで、全員本人なら大した国王だ。だが生憎俺達はこの世界にはついさっき強制的に連れてこられたばかり。つまり適当に浮かんだありもしない名前を並べても誰も疑わない。だって知らないから。

加えて国王は俺達に抗議の時間を与える間もなく身の上話を始めた。さっきの通り連れてこられた面子はその話を聞いて魔王討伐に纏まり出した。要は赤信号皆で渡れば怖くないの集団心理だ。

そして大半が賛成しているところにただ一人反対と言える人間はそういない。言おうものならたちまち四面楚歌だ。


抵抗する間もなく同情を誘い集団心理で反勢力も無理やり抱き込む。おまけに帰る方法は解らないから従うしかない。本当国王より詐欺師の方が向いてるんじゃないかってくらいのカリスマ性だよ。

いや、むしろこれくらいのカリスマ性がなきゃ国王なんてやってられないのだろう。


まあ無理に敵対して詰むのは避けたい。

とりあえず現段階での選択肢は無い。わざわざ力を開放すると言ってくれてるんだからそれをしてから先の事を考えればいい。



「それではこの中に手を入れてください。」



兵士の言葉に従い俺は目の前にある獅子の頭を模した像の口に手を入れた。


待つこと約一時間。召喚された人間はそれほど多くは無かったが一人あたりにそこそこ時間がかかりそれなりの待ち時間がかかってしまった。

儀式が終わった連中を見るとナイフや剣、ハンマーや槍に弓と様々なシルエットの武器を見せびらかせ合いながら談笑しているのが見える。男子高校生はやっぱりこういった展開が大好きなんだな。


そう思っていると入れていた手に何かを握るような感覚を感じた。俺専用の武器が生まれた瞬間だ。


そして俺はその手を引き抜いた。



「……え?」


「え?」



引き抜いた手に握られていた物を見て俺と兵士の間の時間が止まった。



ハサミのように二又の持ち手、それは柔らかいゴムのようグリップが巻かれ、持ち手の交点に取り付けられたバネ状の金具そしてハサミのような短い刃。


それは俺がよく使っている工具だった。





「……ニッパー?」


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