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「起動《ON》! 迅雷の一撃《Lightning》!」
感情が爆発した龍泉地秋を横に、久遠静音は雷の魔術を放った。
「学習しませんね。私には当てられませんよ」
「そんなこと分かってるわ!」
彼女の雷撃は夏華羅に当たったように見えたが、しかしその実、当たってはいなかった。
防がれたのではない。当たっていないのだ。
魔術によるものだと、静音は瞬時に理解した。
敵は竜胆の魔術師。
日本の三大魔術派閥の一つ。
そこから送り込まれた刺客、それもよりによってもあの夏華羅だ。
静音は、夏華羅という名を以前に聞いたことがあった。かなりのやり手だと。
闇雲に打っても意味がない。
しかし、今回の攻撃は言わば牽制だった。
今の秋は悲しみのあまりに、外界の情報を完全に遮断している。
自己防衛も何もできない。
静音が一瞬の隙でも見せたら、秋は夏華羅の手によって、即座に連れていかれるだろう。
夏華羅を含む竜胆の魔術師の今回の狙いは、秋ただ一人なのだから。
秋の村を襲ったのも、全てそのための行動だ。
悍ましい、と静音は竜胆を貶す。
しかし、この場をどうやって逃げ切るか。静音の頭は戦略を無数に編み出していた。
「では、次は私の番ですかね」
思考の最中に、夏華羅は唱えた。
『|分解《The resolution》――|収束《Convergence》――|構築《Construction》――|凝縮――《condensation》――|形成《The formation》』
しかし、それが唱えられた後には何も起こらなかった。
せいぜい空気が揺らいだ程度だった。
「|大気の奏者《Atmospheric Marshal》」
静音が呟いたのは、夏華羅の異名だった。
「おや、おや十年に一人といわれる天才、雷の姫にまでその名を知られているとは、大変光栄ですね」
「大層な軽口ね」
「とんでもない。では行きますよ」
夏華羅は大気を操る魔術に長けた人物。
そして、先ほどの空気の揺らぎ。
目には見えないだけで、空気中の何かを操っているのは違いない。
先ほどの魔術は、おそらく英式と竜胆のを組み合わせているのだろう。
竜胆を含む多くの日本の魔術は、主に体のどこかに魔術式を埋め込むか、書き込むかして、体にあある魔術式を起動させるための詠唱によって発動させる。
魔術の行使の短縮のためだ。
そこに英語の詠唱を用いていた。
どこに英式を取り込んでいるのかは、静音には分からない。
しかし、確実に夏華羅オリジナルの魔術だろう。
詠唱は、分解から始まり、形成で終えていた。そこまで難しい魔術ではないだろう。
そして、空気の揺らぎだけし確認されない現象。
無味無臭。
難度が高くない。
素早く発動できる。
「――――窒素か!」
「ご明察。だがもう遅いですよ。|見えざる魔手《invisible hand》!」
そして、何かが静音に襲いかかった。
「起動! 業!!」
夏華羅の不可視の攻撃が静音を襲った。
次の瞬間、静音はその場から消えた。




