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君のためなら  作者: 細雪
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頑なな心

社が見えて来た時、フェルディが「気を付けて下さい」と言った。

「魔力の気配がします。一人ではなく、複数の」

「複数?」

聞き返したユウの身体に、急に倦怠感がまとわりついた。がくりと身体を折ったユウに、慌ててロベルトが馬を寄せる。

「おい、どうした?」

「わからない……」

目眩がする。ロベルトが自分の馬に移るように言った。馬を引き取ったフェルディが、ユウを見て怪訝な顔をする。

「魔力が……減ってる……?」

「何だって?」

「ユウの魔力が減っています。だから体調がおかしくなったんじゃないかと思いますが……」

「でも、ユウ何もしてねえだろ?」

ロベルトの腰に掴まって頷くと、ロベルトとフェルディが顔を見合わせた。

「行こう。私、大丈夫だから」

二人を急かし、ロベルトの背中で目を閉じる。よくわからない不安感が襲ってきたが、それを何とか振り払った。

「おい、あれ社の奴らか?」

ロベルトが何かを見つけたのか、驚いた声をあげて馬を止めた。

「魔術で眠らされているようですね。ユウ、着きましたよ。おりられますか?」

フェルディに声をかけられて目を開けると、数人の社人と警備の兵が倒れていた。

ロベルトに抱えられるようにして馬からおり、社のなかへ向かう。

台座の上に赤く輝く宝珠がのっており、そのまわりを何かの紋様が取り囲んでいた。その前には二人の人物がいて、片方はよく知った背中だった。

「ルーマ!」

「しつこいな」

ルーマの声音はぞっとするほど冷たかった。

「何……してるの?」

ルーマは振り返らず、隣の人物に何事か囁いた。すると、その人物はフードをとって振り返った。灰色の髪と青い瞳の娘だ。

「お帰り下さい」

彼女の声はとても澄んでいた。

「ルーマに話があるから、話すまで帰れない」

「お帰り頂けないなら、手荒な真似を致しますよ」

「ちょっとだけだから、話聞いて!」

「……忠告は致しました」

冷たい声で、彼女は短い詠唱をした。はっとしたようにフェルディがユウとロベルトの前に出て、何かを呟いた。

彼女が氷の矢を降らせるのと、フェルディが防護壁を出すのが同時だった。矢は壁に弾かれたが、彼女はもう一度詠唱して持っていたロッドを振った。フェルディは壁を維持していたが、今度は氷の矢ではなかった。突風が吹き、壁は意味をなさずに三人の身体を吹き飛ばす。社の壁に叩きつけられ、痛みで一瞬息が止まった。

「何しやがる」

ロベルトが立ち上がって剣を抜く。

「ルーマてめえ!言いたいことは口で言え!」

ルーマがちらりとこちらを見た。

「言ったよ、帰れって。帰ってくれないなら、力ずくで排除する」

「ルーマ……」

ユウが呼ぶと、彼はまた宝珠の方を向いてしまった。倦怠感が強くなる。

宝珠のまわりの紋様がぐるぐる回りだした。宝珠はどんどん赤く輝きだす。

「リア」

ルーマの呼び掛けに、ロッドを構えたままの娘が返事をした。彼女はリアという名前なのかとぼんやり思った。

「その人たち、押さえておいて」

「はい」

リアが詠唱とともにロッドをこちらに向けると、身体が動かなくなった。起き上がっていたロベルトも、見えない力で壁に押さえつけられている。

社中に赤い光が満ちた。パリンという軽い音とともに、宝珠が砕け散る。フェルディが息を呑むのが聞こえた。

やっと振り向いたルーマが、無表情で歩み寄ってくる。

「これ以上、僕の邪魔をしないでくれるかな」

彼は冷たい目でユウを見下ろした。

「忠告はした。次は手加減しないよ」

そう言って、ルーマは踵を返す。

「帰るよ、リア」

「はい」

待って、という言葉は出てこなかった。ルーマ、と名前を呼ぶこともできなかった。

ルーマとリアが社から出ていったあとも、リアの術はしばらく解けず身体を動かすことはできなかった。ユウがルーマを呼び止められなかったのは、その術とは関係なかったが。




「お帰りなさい」

「間に合わなかったみてえだな」

宿に帰ると、カトリとバルトが迎えてくれた。バルトの率直な言葉にロベルトが舌打ちする。

「よくご存知で」

「結界が消えたって街中大騒ぎだからな。アストレア騎士団のお偉いさんが出てきたぞ。夜襲をかけられると思っているらしい」

「今更慌てても無駄でしょうに。シルヴィアにその気があれば、今のアストレアはあっという間にやられていますよ」

軍の状態に不満を感じていたフェルディが投げやりに言って、ユウの腕に手をおいた。はっとして顔をあげると、彼はカトリの方を見ていた。

「申し訳ありませんが、今日は休ませて頂きますね。明日、お話しできることはお話し致します」

「はい。お休みなさいませ」

カトリに頭を下げると、フェルディはユウの腕を引いた。彼らしくない強引さで。彼に引っ張られるままに二階へあがるとロベルトも後ろからついてくる。部屋に入った時、身体がふらついた。後ろにいたロベルトがすぐに支えてくれる。

「ありがとう……」

「いや、疲れたんだろ。ゆっくり休めよ」

ロベルトは、まるで騎士が姫にするようにユウをベッドまで連れて行ってくれた。何を大げさな、と思ったが、きっと自分の顔色がそれほどひどいのだろうと思い至る。

ベッドに座ったユウに歩み寄ったフェルディが、ユウの額に指を当てた。

「よく眠れるように、おまじないです」

触れられた額が、温かくなる。きっと何かの魔術だろう。

幼子にするように、ロベルトがユウを寝かせて毛布をかけた。

「今日は何も考えずに寝ろ。おやすみ」

そう言われると、瞼が急に重たくなった。視界は真っ暗になり、直後にユウは意識を手放した。



はっとして目を覚ますと、外は明るくなっていた。昨夜は夢もみず、泥のように眠ったらしい。身体を流して顔を洗うと、少し意識がしゃきっとした。

昨夜のできごとを思い出し、胸がずきんと疼く。ルーマは、ユウの言うことにまったく耳を貸してくれなかった。それはユウにとって誤算だった。ルーマはなんだかんだで、自分の話を聞いてくれると思っていた。これは思い上がりだ。自分はルーマにとって特別だと、勝手に思い込んでいた。


部屋を出て下におりると、カトリがいた。おはようございます、と微笑まれて挨拶を返す。

「護衛……バルトさんは?」

「まだ上におりますわ。コーヒー、いかがですか?」

カトリの向かいに座り、いれて貰ったコーヒーをすする。

「ユウ様……」

「あ、ユウでいいですよ」

「でしたら、私のこともカトリとお呼び下さいね。敬語も結構ですから」

カトリはにっこり笑った。つられてユウの頬も緩む。

「昨日はごめんなさい。バルトがいろいろと失礼な態度をとって。いつも言い聞かせてはいるんですけれど、彼は基本的に人の言うことを聞きませんの」

「……私の幼なじみと一緒」

そう言うと、カトリは目を丸くした。

「まあ、あんな人がこの世に二人といるなんて。ユウの幼なじみはどんな方なのですか?お顔はやっぱり怖い?」

「怖いっていうか、無愛想かな。顔のつくり自体は綺麗だから、笑ったら格好良いって侍女が言ってたけど……でも、いつもむすっとしてるから……」

「口調もぞんざいですわ」

「うん、一緒。発言の七割は皮肉と嫌味」

「よく怒りますの?」

「怒ることはあんまりないよ。本気で怒ったら怖いけど」

「まあ。ぶっきらぼうで、無愛想で……でも、肝心な時はお優しいんですね」

「……わかるの?バルトさんがそうだから?」

カトリはふるふると首を横に振った。

「あなたがここまで追いかけて来たからですわ。その方でしょう?」

「あ、うん……でも、全然話できなかった」

「……頑ななんですわ、きっと。バルトもそうですもの。あなたの幼なじみさんには、幼なじみさんなりの理由があるんですわ。簡単にお話しになれない理由も、きっと」

カトリの手が、テーブルの上で握り締めていた拳の上に重ねられた。

「ユウ、めげないで下さい。彼があなたに対して頑ななら、きっと彼の心に触れられるのもあなただけです」

「…………うん」

心の奥の靄が少し晴れた気がした。


「カトリ」

すべて聞いていたようなタイミングで、食堂の入り口から低い声がした。

「あら、バルト。おはようございます」

「ああ。俺たちは退くようにと通達が来ているぞ」

「あら……そうですか」

にっこりと微笑んで頷いたカトリを見て、バルトは遠慮なく舌打ちする。

「おまえ、面倒臭えことに首突っ込む気だろ」

「相変わらず、素晴らしい勘ですわね」

カトリがユウに視線を移す。

「ユウは、これからどうなさいますの?」

「南の社であいつを捕まえる」

「それにご一緒してもよろしいかしら。シルヴィアは、南の宝珠を狙っていると思いますわ。私は、それを止めようと思います」

「……いいのかよ。それ、捉えようによっては反逆罪だぞ」

壁にもたれたバルトが忠告する。

「かまいません。宝珠は、簡単に手を出していいものではないとわかりました。ねえ、フェルディ殿」

バルトの奥から、フェルディがひょっこり顔を覗かせた。その後ろにはロベルトもいる。

「昨日の夜、フェルディ殿が教えて下さいました。宝珠を使うことで、何を得て何を失うか」

「そう……。でも、バルトさんが言ったように立場が悪くならない?」

「なるかもしれませんね。ですが、昨夜おそらく宝珠が壊された時、ものすごい魔力の波動を感じました。あれは、私たちの手におえるものではありませんわ。それを知ったのですから、止めなければ。バルト、あなたは軍の皆さんと一緒に戻って下さいな」

バルトは眉間にしわを寄せた。

「それ、本気で言ってるのかよ」

「ええ。撤兵の命が出ているのでしょう?」

バルトは壁から背中をはなし、カトリの横まで歩いて来た。赤みがかった茶色の瞳が、座っているカトリを見つめる。

「俺の主はシルヴィアじゃなくおまえだ、カトリ」

「……仕方ありませんわね」

カトリは息をついて、ユウに視線を戻した。

「かまいませんか、ユウ。もちろん、私たちがおかしな真似をした時は遠慮なくお斬り下さいな」

最後は、難しい顔をしているロベルトに向かっての発言のようだった。

ユウはロベルトをちらりと見て、彼の表情を確認してから頷いた。

「わかった。カトリを信じるよ」

「ありがとうございます」

カトリはもう一度、ユウの手に自分の手を重ねた。

「ひとつ、気になることがあります」

「何?」

「この国、近頃天候がおかしいでしょう?特に東部は雨が多く、洪水が多発していると聞いています」

「ああ、うん。その通りだけど……」

「それが、シルヴィアではそのようなことはないのです。雨が降っているのは結界の中だけだという話も聞きました」

何だそれ、とロベルトが眉をひそめた。

「宝珠の魔力が、天候におかしな影響を与えているのではと思ったのですが……」

ユウはロベルトやフェルディと顔を見合わせた。二人とも、難しい顔をして何も言わなかった。

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