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君のためなら  作者: 細雪
13/18

魔力の行方

ルーマが何者だろうと関係ない。彼が何者だろうと、幼い頃からユウと一緒にいてくれた事実も、ユウが彼を好きだと思うことに変わりはない。

カトリは部屋に戻ったユウに謝りたそうだったが、ユウはそれを止めて自分の態度を謝った。


翌朝、五人は朝食をとりながらこれからのことを話し合った。

「ルーマ殿は、結界を消すことではなく宝珠を壊すことだと言っていました。ということは、結界を作っていない残りのひとつも壊す気でしょう」

フェルディがソーセージにフォークを突き刺しながら言う。彼の隣でユウはパンケーキを切っていた。

「残りのひとつはどこにあるんだろう……やっぱりお城かな」

「でもそれなら、最初にそれを壊した方が良かったよな。今からあいつが城に入るのは大変だぞ」

パンをちぎるロベルトの髪は寝癖がついている。

「どうして彼は宝珠を壊したいのでしょうか……」

そう言うカトリは、パンケーキにハチミツをたっぷりかけている。パンにベーコンエッグを載せていたバルトが眉をひそめた。

「宝珠を結界として使い始めたのはいつだ?……つーか、カトリも姫もよく朝からそんな甘いもん食うな」

ユウはカトリと顔を見合わせる。

「おいしいのに」

「ねえ。バルトもひとくちいかがですか」

「絶対要らねえ」

「甘いものは脳にいいんじゃねえの?」

「そうですけど、私も朝からは無理ですねぇ。苦いコーヒーの方がいいかな」

「このおいしさがわからないなんて」

「人生、随分損してますわ」

ユウとカトリはくすくす笑う。

バルトは顔をしかめていたが、微かに頬を緩めた。しかし、それに気づいたのはフェルディだけだった。




朝食を終えると、もう一度魔術史と歴史の本を開くことにした。宝珠に関する記述を探すためだ。魔術史の方はフェルディとカトリに任せ、ユウはバルトと歴史書を見る。ロベルトは、以前作ったメモ書きをめくっていた。二三枚めくって、眉をひそめる。

「あいつ、今さら魔力の供給について調べたのか?魔術師の間じゃ普通のことなんだろ?」

「ええ。それ、何ページですか?」

「百二十四ページ」

フェルディがぺらぺらページをめくる。

「本当ですね。何でこんな基本情報を……あれ、でも詠唱の文言が一ヶ所違いますね。古い本だからでしょうか」

「これは……」

カトリのほっそりした指が、本の記述をなぞる。

「この最後の文言、制約の呪いではありませんか?」

「何だ、そりゃあ」

バルトが眉をひそめる。

「術者が被術者を限定する、一種の呪術ですわ。この呪いは、世代が変わっても継承されます。ですから、術者の魔力が途絶えない限り永久的に作用するもので……」

「……つまり?」

バルトはフェルディの方を向いた。

「例えば、カトリ様が私に制約の呪いを用いて、私から魔力を吸収する術をかけたとします。そうすると、カトリ様が死ぬまで私は魔力を吸いとられ続けます。私が死ぬと、次は私の子孫から魔力が吸いとられます。私に子どもがいなければ、最も魔力の波動が似ている血縁が対象となるでしょうね」

顔をしかめたロベルトが吐き捨てる。

「そりゃまたえげつない術だな」

「ええ。ですから、この術は禁忌とされています。それに、これだけの術ですから術をかけるのに力も時間も要ります。かけようと思っても、簡単にはかかりません」

フェルディの説明を聞き、バルトがユウに視線を向けた。

「あの魔術師がこれを調べていたってことは、この術をかけようとしていたってことか?」

「ルーマが?彼、もともと魔力は多いからわざわざ集めなくてもいい気がするけど……」

「解こうとしているのかもしれませんわ」

カトリがいつもより大きな声をあげた。

「ユウ、あなたこの呪いをかけられているのではありませんか?」

「まさか」

ユウは思わず即座に否定したが、フェルディが真剣な目で振り向いたので、続きは言えなかった。

「ユウの魔力が何者かに吸収されているのは、おそらく間違いない……そうか。確かに、考えられます」

「だって私、そんな術かけられた覚えない……」

「フェルディ殿が仰ったでしょう。この呪いは世代が変わっても継承されます。しかも、術者が際限なく魔力を吸収すれば被術者は生命力まで奪われ、死んでしまいます」

カトリが言うなり、魔術師二人は立ち上がって何やら詠唱を始めた。

バルトがこちらを見る。

「おまえの両親は?」

「二人とも、病気で亡くなったよ。でも、まさか……」

ロベルトが腕を組んで考える体勢になった。

「前国王陛下は心臓の病気だったよな。女王陛下は……」

ユウはロベルトと顔を見合わせた。

ロベルトの青い目が見開かれると同時に、ユウもはっとした。

「……原因、わからなかった。ずっと体調崩してて、それで……」

言葉は続かなかった。背中がぞわりと粟立つ。

フェルディとカトリの詠唱によって、ユウの周辺に魔術の紋様が浮かび上がる。しかし、二人とも顔をしかめている。

「……わかりませんわね。普通の魔術なら術がかけられているかどうかわかるのですが……」

「やっぱり普通の術じゃないからでしょうか」

フェルディとカトリが悔しそうに言って術を解く。

ソファに身体を沈めていたバルトが僅かに首を傾げた。

「それで、その術と宝珠を壊すこと、何か関係あるのか?」

はた、とフェルディとカトリが動きを止めて彼を見た。ロベルトは腕を組んだまま唸っている。

「あと、おまえの母上の前は誰が被術者だったんだ」

「おじいさまとおばあさまが何で亡くなったかは知らないなぁ。物心ついた頃には二人ともいなかったから」

ユウは歴史書に手を伸ばし、ぱらぱらめくった。たしか、祖父の代までの記録はあったはずだ。

「……お祖父様は、胸の病気だったみたい。お祖母様に関する記述はないわ」

「おまえが生まれた時にはもういなかったのか?」

「うん」

「その前は?」

「曾お祖父様は戦死。曾お祖母様は……ああ、老衰じゃないかな。大往生だったみたい」

ロベルトがユウの後ろにまわり、本を覗きこんだ。

「ユウの曾お祖父様が戦死されたことで結界が作られたんだよな。それは俺も騎士団で習ったのを覚えてる」

「そうだね。それは私も家庭教師に習った」

何かがひっかかり、ユウは首を傾げた。

曾祖父が戦死し、それを嘆いた祖父が戦をなくそうと結界を作り出した。その伴侶である祖母は短命だった。

ユウがぶつぶつ言っているのを聞いて、カトリが首を傾げた。

「ですが、アストレア王国は男系ですわよね?お母様は、お祖母様と血縁関係にないのではありませんか?」

その質問には、フェルディが答えた。

「それが……先々代はお子に恵まれず、ユウのお母様は一人娘だったんです。王位を継いだのは先代の陛下ですが、彼は形としては婿入りだったんですよ」

「なるほど。それならば、お祖母様、お母様で術が継承された可能性がありますね」

祖母から母へ術が継承された。曾祖父と曾祖母は、術をかけられていた様子はない。となると、祖父母の代からという線が濃厚になる。

「繋がったな」

バルトが低い声で言った。

「魔力を吸収する術と、宝珠ですね」

彼の言わんとすることを理解したらしく、フェルディが頷いた。

ユウがついていけていないのを見て、バルトが口を開く。

「術が発動した時期と、宝珠で結界を作り出した時期は重なる」

「ああ、そういうことか」

ロベルトが相槌をうった。ユウも、バルトの言いたいことは理解した。

「でも、じゃあ術をかけたのは誰?私の力を今吸収しているのは…..」

「それと、ルーマ殿が宝珠を壊す理由ですわね」

カトリはそう言って、本をぺらぺらめくっている。

とんとんと指でこめかみを叩きながら、フェルディが口を開く。

「ルーマ殿は、ユウに術がかけられていたのを知っていました。宝珠を壊すことが、ユウの術を解くことと関係しているとしたら?」

一瞬、間があった。

「……力を吸収しているのは、宝珠?」

ロベルトの呟いた言葉に、誰も返事をしなかった。

そんなことがあるのか。有り得ないだろう。

そう思いつつ、その考えが一番しっくりきてしまったからだった。



昼食後、フェルディとカトリは魔術史の本を広げて議論を始めた。時々実際に詠唱をしたり、それを慌てて取り消したりしているようだ。

その隣の部屋で歴史書を膝にのせ、ユウは考え事をしていた。社でのできごとについてである。

彼は、ユウを助けてくれた。ユウに魔力を分けてくれた。あの時のどこか痛そうな顔は、何だったのかーー……。

ユウは本を閉じて立ち上がった。


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