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7話 脳筋勇者

「はっ!!」


ガバっと目を覚ました俺は、辺りを見渡す。

見の前には仁王立ちしたルビアの後ろ姿が映っている。


「ふう、なんとか生き延びる事が出来たか……」

「あら、やっと目を覚ましたのね!」


俺が目を覚ましたのを気づいたルビアは、そのまま俺へと振り向きながら、にっこりとほほ笑む。


「ああ、お蔭様で大変な目に遭いましたよ」

「全く、あの程度で気絶するなんて、本当にだらしないわね! もっと鍛えないといけないわ!」

「いや、あんな巨大な水に飲みこまれたら、誰だって、気絶するって!」

「そう? 私には理解できないわ!」

「理解しろよ! お前は女神だろ! 管理されている人の能力ぐらいは、把握しとけよ!」

「そんなのメンドクサイわ」

「そうですか……」


あかん、この女神は、明らかに人選ミスでしょ。

もっと、マシな女神は、居なかったんか。


「なあ、俺を鍛えるならさあ、身体強化魔術って言うのを教えてくれよ」

「なんでこの世界に無知な貴方がその魔術を知っているのよ?」


いちいち的確なツッコミを入れてくるルビア。

こういう事は鋭い洞察力を発揮していやがる。

実にやっかいだ。


「そんな魔術がやっぱりあったのか、カマをかけてみて正解だったぜ!」

「適当に言っただけか……はあー期待して損しちゃった」


ため息を吐きながら、ルビアは、俺を残念な子を見るように眺めている。


「あるなら、教えてくれ」

「いいわ、勇者なら、この程度の魔術は、会得させないといけないわ!」


こうして、ルビアによる指導の下で、厳しい修業が始まった。


「もっと、ガーッと魔力を籠めなさいよ! 魔力が漏れ出しているでしょ、しっかりしなさいよ!」

「そんな事を言われてもさあ……全く上手くいかないよ」


ガミガミと怒鳴っているルビアに、俺は、身体強化魔術を会得できずに、すっかりと意気消沈してしまった。

何故だ。俺は選ばれし勇者ではなかったのか!・

……まあ、ルビアが適当に俺を選んだだけの存在ですけどね。


「身体強化魔術は、誰でも備わっている無属性だから、ユウトでも扱えるはずよ!ここまで修行しても、全く会得できないなんて……才能が無いかもしれないわね……」


そんな悲しい目で俺を見るなよ。

俺が可哀そうな存在だと思ってしまうじゃないか!

くそ、何故だ、華麗に勇者として大活躍する予定だったのに!

歯を噛みしめながら、俺に内蔵されている魔力をひたすら籠める。

だが、上手くいかない。

いったい何が足りないって言うんだ!


「なあ……無属性って、本当に俺にあるんだよな?」

「あるわよ。女神の私が断言させてあげるわ!」


うーん、俺って、才能が無いのかな。

アカン、こんなマイナス思考では、下手をすれば鬱病に掛かってしまう。

もっとポジティブに考えないと!


「とりあえず、今日のところはこれで終了よ! これ以上続ければ、日が暮れてしまうわ!」

「そうだな。さっさと、宿をとってゆっくりと休みたいぜ」

「休む前に、ユウキの場合は、服を買わないといけないわね、もう服がボロボロになっているじゃない」

「そういえばそうだったな。 ……でもさ、服を買う金って持っているの?」

「……無い」

「駄目じゃん!」


服を買う金が無い、つまり……宿も泊まれないって事だ。

今日も野宿は確定か……


「そうねえ……臨時で雇える仕事を探したほうがよさそうだわね」

「そろそろ日が暮れる時間帯でどうやって、雇えと」

「馬鹿ねえ、明日から、依頼を受けるのよ。今日は魔術師ギルドに登録を済ませましょう!」

「野宿は確定か……」


がっくりと肩を落としながら、俺は近場の街へと向かった。


「やっと街だ……長かった……」


久しぶりに、人の姿が大勢いる街へと辿り着いた俺は、感動しながら涙を流す。

やはり、一人ぼっちは、寂しい。


「街に辿り着いただけで、涙を流すなんて……あんた、大丈夫なの?」


ルビアには、心配されてしまう始末である。

俺の気持ちなんて分からないだろう。

地獄のサバイバル生活を生き抜いた苦しみなんて、絶対にルビアには分からないさ。


「さあ、辿り着いたわよ!」


石造りで作られた立派な建物。

ここが、魔術師ギルドのようだ。

ふふ、ここから俺の新しい冒険が始まるのだ!


扉を開いた俺たちは、登録の受付広場へと向かう。


「えー……新規に登録する方ですか」

「そうよ! 私とこいつでペアを組んでいる二人組のコンビよ! さっさと登録カードを寄越しなさい!」

「ルビアさん、そんな高圧的な態度で大丈夫なの?」

「こういう世界はね、舐められたら終わりなのよ!」

「お、おう」


ひとまずは、納得する。

まあ、こういう力が正義の世界なら、舐められたら確かに不味いな。

イジメのターゲットにされるようなものだ。

あまり調子にのっても駄目なような気がするのは、多分、気のせいだろう。


「では、新規の方なので、魔力審査を行います。こちらへ来てください」


そう言って、受付の女性に、別室へ案内される。

ふむ、試験みたいなものでも始まるのだろうか

別室に案内された場所は、黒装束の老人と机の上に丸い水晶が置かれているだけの寂しい部屋であった。

老人は、俺たちの姿を見つめながら、驚いた顔をしている。

何かやらかしてしまったかな?


「ほう……こりゃあ、凄いのお、ここからでも、水晶から魔力の反応が響き渡っておるぞい、おぬし、かなりの魔力を所有しておるな?」

「当たり前よ! 私は聖女よ!」

「ほほう、聖女と来たか、あの国の聖女は、魔力が低い奴らばかりの噂じゃったのだがのう」

「なあ、俺の魔力は、どうなのよ?」

「この水晶に触れてみよ、そしたら、おぬしの魔力がどれほどなのかを測れるぞい」


ほほう、それは凄い機能だな。

俺の魔力は、どれほどだろうか

勇者になったんだから、きっと凄い魔力に違いないな。

俺は水晶に手を触れて、水晶は青白く輝きだした。


「おや? 魔力が殆どないのう……」

「なん……だと……!?」


あまりにも絶望的な宣告に、俺は茫然としてしまう。

まさか強化魔術が唱えられなかった原因は、魔力不足なのか!?


「青白い光は、強力な魔力抵抗が宿っている可能性が高い。魔力が殆ど無いのは、これが原因じゃろうな」

「つまり……どういう事だよ……」

「君には、かなりの魔力を秘めているとわしは、感じておるが、強い魔力抵抗に相殺されているせいで、おぬしは魔術を唱える事が殆ど出来ないと言う事じゃ。」

「あら、それが強化魔術を唱えられなかった原因ね」


ルビアはそう納得して、両手で手をポンっと叩いていた。

なんてこった。

俺は魔術を唱えるのが絶望的に無理だって事じゃん

どうりで、唯一唱えられた、光と水が弱い訳だ。

そうだ、俺には、思い当たる節があった。

イーリスが唱えた、あの巨大な炎を食らっても、俺は、何故かやけどが殆ど負わなかった。

あれも、魔力抵抗が高かったお蔭で命拾いしたのだろう。

いくら土の中へ隠れたとしても、あの高温の中じゃ、無事では済まなかった筈だ。

しかし、本当にどうしよう。

どうにかして、この魔力抵抗をどうにか出来ないのか?




「なあ、もしかして、俺って強化魔術は諦めたほうがいいって事?」

「……努力すればきっと出来るわ!」

「そこは、断言してくれよ!」


参ったな、魔力抵抗が高いのは、メリットにもなるが、同時に魔術を唱える事が難しくなるデリメットがあるわけか。

とことん俺って前衛の戦士タイプだな……

接近戦は、命を失う危険性が高いから好きじゃない。

遠距離からなら、楽に始末出来るから、とても羨ましいよ。


「じゃあ、次は私の番ね!」


ルビアはそのまま近づき、水晶に触れる。

すると、水晶はそのまま亀裂音と共に、真っ二つに割れてしまった。


「……ど、どうやら、私の魔力に耐えられなかったようだわね!」

「……やってしまったってレベルじゃねーぞ!」

「わしも、水晶を割るほどの魔力を秘めた人物は、初めて見たぞい、これは最上級ランクに値するわい」


最上級ランクか、まあ、ルビアなら当然の事だな。

女神様だし、そりゃあ異常な魔力を秘めているよな。

あれ?ルビア一人でも、十分に魔族を対処できそうじゃね?

ヤバイ、俺の影がどんどん薄くなってしまう!


「なあ、俺の魔力のランクはどのくらいなんよ」

「測定不能じゃ」

「……それって、ランク外って事だよな……」

「そうじゃ」

「…………」


なんだよ、強い魔力を秘めていたのは、嘘だったのかよ!

あれか? 魔力抵抗が高いおかげで、上手く測る事が出来ないって事か?

ちくしょう……ますます俺にとっては、向かい風じゃないか。



「ま、まあ落ち込まないでよ!勇者のお蔭で、カズキの身体能力は、凄く強いのよ!強化魔術が無くったって、きっとなんとかなるわ!」


ルビアは、そう言って俺を励ます。

その一言は、俺に胸を突き刺さるほどの精神的ダメージが来たんですけど……

逆に考えよう……そう、強化魔術さえ会得できれば、俺の身体能力は超人レベルまで強くなるって事だ。

そうだ、もっとプラス思考で考えよう!

そう元気に振る舞いながら、俺は次の審査へと向かった。



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