6話 脱出
「はあ……一人だけの生活がここまで寂しいものだったとは」
共同生活が懐かしい。
なんとか生き延びた俺は、たった一人でサバイバル生活をしている。
今日も大量に実っていた木の実を食べるだけだ。
俺はイーリアに敗北してしまった反省として、もっと身体を鍛える事が多くなった。
まあ、あまり成果は無いんですけどね。
未だに水と光る魔術しか使えず、身体強化とか言っていた魔術も唱えられない。
独学で勉強するのは難しい。
そもそも、俺はそこまでテストの成績は、良くなかった。
まあ、魔術を教えてくれる師匠が居なければ、こんなものなのだろう。
そう考えていた俺に、急に大きな音が地鳴りのように響いてきた。
一体なんなんだ? 俺は不安になりながらも、その音が聞こえる方向へ振り向く。
「な、なんじゃこりゃー!」
巨大な水の塊だ。
まさに鉄砲水のような激流が、今、俺に襲い掛かろうとしている。
ヤバイ、あれに呑みこまれたら、ひとたまりもないぞ!
「に、逃げろーー!」
俺は必死になって逃げだすが、激流のほうが流れが早い。
このままでは、不味いって!
ああ、俺って、なんで酷いめばかり襲われるんだよ……
逃げる事を諦めて、俺は、目を瞑る。
せめてもの抵抗として、水の壁を作り上げで、激流の流れを身に任す構えだ。
来るならかかって来い!
只ではは死なんぞ。
……だが、大きな騒音は、突如として消え去り、不思議に思った俺が目を開いたときは、激流は、跡形もなく消え去っていた。
「あれ? 助かったのか?」
「やっと見つけたわよ!」
「うわあああああああ!!!!出たああああああああああ!」
「私を化け物のように叫ぶんじゃないわよ!」
「ぎゃあああああーーー!」
突如として現れた、水浸しの青髪の女性に、思わず悲鳴を上げた俺は、不機嫌になってしまった、女性に殴り飛ばされてしまった。
冷静に考えて見れば、あれは、どう見てもルビアだ。
水がポタポタとしずくを落としながら近寄ってきた、水浸しの女性だったから、恐ろしい水の妖怪か何かに勘違いしてしまったわ。
脅かせやがって……俺は繊細な生き物なのだ。
頼むから、もっとやさしくしてくれ!
倒れていた俺は、そのまま立ち上がり、水浸しのルビアに話しかける。
「なあ……なんで水浸しなんだ」
「これは、私の魔術である激流移動術の影響よ! 高速で移動できる利点はあるんだけど、水浸しになってしまうのが、難点ね」
「あの激流は、お前の仕業だったのかよ」
「そうよ!」
なんとも人騒がせな女神である。
あんな巨大な水を纏いながら移動しているけど、下手をしたら、激流に巻き込まれて死人が出るって……
そこのところは大丈夫なんだろうな?
「で、魔族は、討伐したの?」
「なんで、無人島の島で、魔族が隠れ住んでいると思うんだよ、大体さ、ルビアさんは、ここに人の気配が無いって公言していたじゃん!」
「あら、そういえばそうだったわね。……所で、その剣は何処で手に入ったの?」
ルビアめ、意外と鋭いツッコミを仕掛けてきやがったな。
「えっと、……そう! 島で拾ったんだよ! いやー結構切れ味が良くて、サバイバル生活で役に立ったんだよー」
「ふーん……その剣に汚物の匂いがしたから、てっきり、魔族が住み着いていたのかと思ったけど……どうやら私の気のせいだったのかしら」
疑念に満ちた表情で俺を疑っている。
当然さ、ルビアの予想は当たっているしな。
俺は魔族と戦った事をルビアに話さない。
話せば、絶対に、イーリスを殺しに向かう筈だ。
俺は、彼女を殺すのは、未だに躊躇してしまうチキンだ。
当分は、遭遇しない事を祈るしかない。
「しかし……てっきり、船か何かで来るかと思ったけど、手ぶらだったとはな」
「ふふん、船なんて必要ないわ! 高速で移動できる術をもっている私には、あんなガラクタなんて要らないのよ!」
まてよ、船が無いって事は、俺ってどうやってこの島を脱出するのさ。
ルビアは、あの激流移動術で、この島に辿り着いたようだが、まさかな……
嫌な予感がしてきたぞ
「なあ、船が無いならさ。俺をどやってこの島から脱出させるつもりなんだ?」
「何を言っているのよ、カズキも見たでしょ、私の激流移動術があるじゃない!」
「……マジですか」
相も変わらず、ドヤ顔でむかつく表情を浮かべているルビアは、俺が命の危機に晒される危険性を危惧していない。
どうみても、溺死します。本当に有難うございました。
「なあ……あんな激流に呑みこまれたら、俺、絶対に死ぬと思うのだが、本当に大丈夫なのか……?」
「大丈夫よ! 私が居住を認めたモノは、死ぬ心配はないわ!」
「あんな鉄砲水のような水の中でもか?」
「安心しなさい! カズキも、激流移動術の素晴らしさがきっと理解できるわ!」
どうしても俺を水の中へ呑みこませる気が満々のようだ。
だが、俺にも背に腹は代えられない。
このままでは、俺は永遠に無人島生活をさせられてしまう。
それだけは、ご勘弁を願いたい。
「わかったよ、信じてやるよ……死んだら、ルビアを恨んでやるからな!」
「全く、カズキは大げさよ。水如きで死ぬはずがないじゃない!」
「いや、溺れたら死ぬって!」
何故ルビアは、溺れ死ぬ事を危惧しないのか……
こいつが人外の女神様だからか?
この世界を管理している女神様なんだろ?
頼むから、貧弱な人間の能力ぐらいは、把握してくれよ。
「わがまま言っちゃ駄目よ! さっさと、この島から抜け出すさないと! カズキ、準備はいい?」
「いや、準備は全くでき……」
「よし、行くわよー」
「話を聞けー!!」
俺の願いも虚しく、辺りは水の中に呑みこまれてしまい、俺はなすすべなく溺れてしまい、意識を失ってしまった。