5話 女神様の魔族退治
私の名前は、ルビア。
神に選ばれて、この世界を管理する女神様よ!
ついに、私は人間界へ降りる事が許可された。
ふふふ……見てらっしゃい! 汚物は全て綺麗に消毒させるわ!
「さてと、辺りに汚物の反応はあるかな?」
人間界へ転移した私は、人影が全くない森の中で、辺りに汚物の気配を確かめる。
汚物の反応はあまり感じない。
まだ本格的に活動していないようだわね。
だけど、微かに汚物の気配が感じる……
ふむ、ここから、そう遠くないし、カズキを救助する前に寄り道しようかしら。
歩きながら、森を抜けた私の目前に広がっている城下町。
あの城の中に魔族の気配がビンビンしているわ!
さてと、市門を潜らなきゃいけないなんて、けっこう面倒くさそう。
そして、案の定、私は市門の警備をしている兵士に足止めをされてしまった。
「ちょっと!!? 早く私を通しなさいよ! 私を誰だと思っているの! 私は聖女様よ!」
「ちょっと、落ち着いてください……我が国の身分証明書が無ければ、ここへ通す事はできません!」
私は市門で足止めを食らってしまった。
なんてやっかいな国なの!
「いいわ!貴方か、ここを通さないなら、私が勝手に通させてもらうわ!」
「えっ?」
私はそのままテレキネスの魔術で空を飛び、そのまま市門を上空から通過した。
始めからこうすればよかったのよ。全く、私としたことが、とんだドジを踏んだものね。
パラミア王国の城下町へ着地した私は、そのまま王城へと目指す。
「王城に、魔族の気配がビンビンと感じるわ! これは、人間に化けている可能性も高そうだわね」
王城には、魔族の気配が微かに感じ取る事が出来る。
だけどおかしい。
魔族とは何かが違う。
魔族のようで魔族ではないような不思議な気配。
新種の汚物なのかしら?
「不法移民が侵入したぞー!」
私を追ってきた兵士達が一斉にわらわらと現れてきた。
か弱い女性なのに、ちょっと大げさすぎない?
「お嬢さん! ここは、城下町で居住するのを許可された国民と、一部の客人しか、入る事が出来ないのだよ、大人しくここから出て行ってもらおうか!」
「あら、私は王城に用があるのよ、それなら私は客人として許可されてもいいわね!」
「いや、そういう問題じゃないですから!」
おっさんや若い兵士達は私を取り押さえようと一斉に襲い掛かってきた。
「全く、もっと穏便に物事が進めないのかしら」
私は、襲い掛かって来る兵士から身を守る為に、水のベールを私の周りに創りだす。
水のベールを作りだした私は、その突撃した兵士達が何もできずに衝突していく様子をただただ、愚民どもを見る目で覗いている。
「私は聖女よ、誰も私を止める事は出来ないわ!」
「どうしよう、こんな失態が上司に知れ渡ったら、俺の給料がまた下がってしまうぞ……」
頭を抱える指揮官らしき兵士を無視しながら、私は王城へと進んで行った。
既に水のベールに衝突した兵士達は気絶してしまい、私の道を阻むモノは誰も居ない。
「待ってなさい! 私が綺麗に汚物を消毒してやるんだから!」
パラミア王国の城内。
ここには、国を統治する国王が治める城である。
今現在。この城では、大きな騒動が繰り広げていた。
「ぐわあああああああああああ!!!」
「ク、クロスダイン!」
「ふはははは! その程度で我を仕留めようとするとは、腹が痛いわ! この我の腹を痛めるほどに笑い倒す意味では、才能があっただろうがな」
王城で最大の戦闘力をもっていた巨漢の男であるクロスダイン。
その巨大な斧は、どんな魔物も一刀両断出来るほどの力を備わっていた。
だが、突如として、魔剣から魔族へと姿を変えたジラートによって、無様に倒れてしまう。
この魔剣は兵士が偶然にも拾った。
そのまま兵士は魔剣を拾ったのを王城で報告しようと向かったが、王城の中へ入ったそのとき。
突如として魔剣は、異様な姿を持つ魔族へと変貌していた。
遥か古に暴れていたと伝えられる伝承を持つ魔族。
過去の出来事は、すっかりと風化してしまい。
人間達は、魔族の事をすっかりと忘れていた。
「最高戦力もこの程度か、我一人でも十分にこの城を制圧出来るではないか! 弱すぎるぞ! 人間どもよ!」
黒い影が無数に広がり、それに触れただけで、身動きが取れなくなってしまっている。
まさに死の影だ。
人間の力ではどうする事も出来ないほどの力。
殺された者は、肉体を消し去ってしまうほどの魔族。
もはや王城の人々が虐殺されるのも、時間の問題である。
「貴様は何者なのだ!? 何故、我が国を襲う! 何の恨みがあると言うのだ!」
国王は顔を強張らせながらも、ジラートに問いかける。
ジラートはそんな国王の様子をケラケラと笑っていた。
「知れた事よ、我は、司令塔の人間を全て抹殺する為に、ここへ来たのだ。国を混乱させ、主戦力である仲間を楽に征圧させなければならぬからな。貴様は、この国を混乱させる為に死んでもらう!」
ジラートの目的は、パラミア王国を動乱へ巻き込むほどに混乱させる事。
魔族が知れ渡っていない今ならば、人間同士で争う事で、体力を消耗させたほうが、楽に支配出来る。
故に、パラミア王国の王族は、全て抹消しなければならない。
「助けてくれ……女神様……。どうかワシにお救いを……」
女神教をあまり信仰していなかったルース国王。
だが、絶望したこの状況では、もはや、女神に祈る事でしか出来なかった。
「ぐはははは!!! 女神だと!!? 笑わせてくれる! そのような祈りが通じる筈がなかろう! そんな都合の良い事は、起きる筈がないのだよ!」
ジラートは目を閉じてる国王にトドメを刺す為に、おのれの手を剣へと変化さた。
ゆっくりとルース国王に近づいて行く。
「貴様の祈る女神は、願いを聞き届けてくれなかったようだな。実に哀れな国王だ。絶望に満ちながら、我の生贄となるがいい!」
ジラートは、大きく黒い剣を振るい、ルース国王を斬りつける。
だが……
「汚物はやっぱり生意気ね!」
黒い剣を秘めた一撃が、突如に現れた青い髪の女に素手で受け止められた。
あまりにも、予想外の出来事に、思わずその場から後退してしまう。
あり得ない! 何故、我の一撃が効いてないのだ!?
しかも、我がこの小娘の気配を感じ取れなかっただと!
「貴様……何者だ!?」
その質問に女性はゆっくりと自信に満ちた表情で語りだす。
「私は女神の加護を授かった聖女……貴方達のような汚物を消毒する為に呼び寄せられたルビアよ!」
「馬鹿な!? 女神だと!? あり得ぬ……。まさか、国王の祈りが通じたとでも言うのか!?」
「おお……女神はワシを見捨ててはいなかった……女神教を信仰していなかったワシをお救いになされるとは、なんと慈悲深い女神様なのじゃ……」
国王は感激のあまりに、涙を流している。
絶望の中から突如に希望の光が降り注いでいた。
美しい女性は、ルース国王に、とっては、女神様である。
ルビアの余裕な表情を見るだけで、国王は、すっかりと落ち着きを取り戻し、安泰の表情を浮かべていた。
「あらあら、汚物かと思ったけど、貴方、もしかして魔剣でしょ?」
「ほう、良く気づいたな、聖女よ。そう、我こそは、魔界で唯一、魔剣から魔族へと進化した、上級魔族である! ふはははははははははは! どうだ、恐れ入ったか!!」
「汚物にしては、妙な雰囲気だったのよねえ……なるほど。やっぱり魔剣だったのね! 汚物に進化するなんて見苦しいわ! 魔剣は魔剣らしく、さっさと魔剣に戻りなさい!」
元々は魔剣だったジラート。
だが、多くの魂と魔力を吸収したお蔭で、大きく力を溜めた呪いの魔剣は、魔族へと変異するほどに、力が増大していた。
その力は、魔族では上位ランクである上級魔族。
幹部候補には及ばないものの、その戦力は凄まじい力を備わっている。
「我を侮辱するとは、許さん! 魔族に昇格できる事がどれほどに名誉な事なのかを、貴様には理解できないようだな!!」
「汚物に昇格する事が、既に不名誉な降格なのよ!汚物となってしまった貴方には、理解できないでしょうね!」
「それ以上、我を侮辱するなああああああああ!!!!」
黒い影が無数にルビアへと襲い掛かって来る。
影に触れたモノはどんな生物も動きを封じられ、身動きが取れなくなってしまう。
生意気な小娘がいくら、聖女だろうが、この影に抗う事は不可能だ。
だが……
「それで? この黒い影はなんなの? さっきから、邪魔でうっとうしいわね」
「馬鹿な! 我の影が、消滅しただと!?」
ルビアは軽く腕を振るっただけで、黒い影は飛散ししまった。
ジラートにとっては、想定外の出来事だ。
黒い影に抗う事が出来るのは、ジラートよりも強者である上級魔族。
しかも、抗う所か、この聖女は、影をかき消せるほどの強者である。
人間に、そのような力を持つなどとは聞いていない。
動揺を隠せない様子のジラートに、ルビアは不気味な笑いを微笑み始める。
「これが、貴方の能力なら、とんだお笑いモノね! この程度で私を仕留められると思っていたのなら、笑いに関しては才能があるわよ!汚物もどき!」
「貴様は何者だ! 人間如きで、この影を消し去るほどの力を持つなどあり得ぬ!」
「さっき自己紹介をしたでしょ! 私は聖女。 女神の力を備わった、神の使いよ!汚物もどきの力なんて、私には通用しないわ!」
ジラートは、聖女の力を過小評価しすぎていた。
人間ですらここまで力を増幅させる、女神の存在。
大魔王は、確かに女神には気を付けろと仰っていた。
不運にも、真っ先に、討伐の標的にされてしまったジラート。
影をかき消された事で、既に力の差は、圧倒的に逆転していた。
「人間の分際で、我を侮辱するなあああああああああ!!!!!」
無数の黒い剣を肉体から生やしたジラートは、そのままルビアに襲い掛かる。
だが、ルビアは、水のベールを出現させ、黒い剣は、このベールを貫く事が出来なかった。ルビアは、何事も無かったかのように、ジラートを見下している。
そして、ルビアは魔術で唱えられた光の呪縛を唱えて、無数の光の呪縛がジラートに絡められてしまい、すっかりと身動きが取れなくなってしまった。
もはや、どうする事も出来ない。
闇の影が光に敗北した瞬間である・
「捕まえたわよ……ふふふ、覚悟しなさい! 貴方の秘めている力は、全て消し去ってあげるわ!」
「やめろぉ! そんな事をされてしまったら、また我は魔剣に戻ってしまう! やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「この程度の処分で済んだ事を喜びなさい! 普通の汚物だったら、今頃は、屍になっているわ!」
ルビアは、容赦なく、ジラートの力の源を跡形もなく消し去っていく。
身動きが取れなくなったジラートは、そのまま徐々に、魔剣の姿へと変化していき、何もしゃべらない魔剣へと成り下がってしまった。
「これにて一件落着ね!」
ルビアは、光の呪縛で魔族だった魔剣は、そのまま放り投げて捨てられる。
床に落ちた黒い魔剣の姿は、微かに生命の息吹を感じるが、殆どの力は失われてしまっていた。
上機嫌なルビアに対して、ルース国王は、ゆっくりと聖女の元へと駆け寄る。
既に魔族の脅威は無くなっている。
倒れた兵士達もルビアが治療させて、死亡していない兵士の殆どは負傷した傷を回復させていた。
「ルビア様……我が国を救っていただき、ありがとうございます」
「ふふん、礼には、及ばないわ! 私は聖女として、当然の事をしたまでよ!」
「しかし、女神教の聖女は、全くの偽物だと思っていたのだが……ルビア様は、どうやらそれとは違うようですな」
「何よ? その女神教って?」
ルース国王は、ルビアが疑問に満ちた表情で女神教を知らない事に驚愕する。
女神教は、世界の殆どで信仰されているほどに、有名な宗教だ。
それを知らない、聖女。
正真正銘の聖女は、まさに、彼女なのでは、ないのかと、ルース国王は予想していた。
あの女神教は、どうもキナ臭いのだ。
「女神教は、その名の通り、女神様を信仰している教団です。神聖セリア教国が建国されるほどに、勢力を拡大しておるのじゃ。ルビア様が知らないとなると……やはり、女神教は、信用してはならぬのお」
「へえ……私を拝めている女神教ねえ……」
ルビアは女神を拝んでいる国に興味を示す。
未だに魔族の脅威に警戒していない人間達を、どうにかして、危機感を募らせなければならない。
信仰心を得る事も、女神としての務めだった事を、ルビアは今更になって、それを思い出し、実際に、どれほどに盛況なのかを確かめたい。
「ねえ、その国へ行くための許可書は無いの?」
「ああ、ワシの許可書があれば、入国は許してくれるだろう。聖女と名乗れば、嫌でも、あの教皇は飛びついて来るじゃろうな」
教皇は、複数の聖女に拝められながら、暮らしていると聞く。
魔族を倒せるほどの力を持つルビアならば、教皇が興味を持つのは、容易い。
「ふふふ……私の信仰心が何処まで広がっているのか、楽しみだわ!」
この時のルビアは、すっかりとカズキの事を忘れてしまっている。
忘れていたのを気づいたルビアが無人島へ救助しに行ったのは、これから後日後の事であった。