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4話 別れ

外は既に真っ暗だ。

少し肌寒いが、ボロボロの私服でもまだ大丈夫……ではないな。

やっぱり寒いわ。


「お前に一つだけ嘘を言った」

「なんの嘘だよ」


俺は、イーリスをまっすぐ見据えて息を整える。

嘘か、嫌な予感がしてくるな。

心臓に悪い話だけはしないでくれ

こう見えても俺は繊細な生き物なんでね



「実は、既に仲間が私の元へ駆けつけて来てしまったのだ。」

「えっ!?」


仲間が駆けつけに来た!?

冗談じゃないぞ……今の俺じゃ、とてもじゃないが、複数の魔族を相手にするのは無理だ。


「故に私はお前を始末しなければならない」

「……そうか」


やはりこうなったか、協力関係が崩れれば俺は、用の無い存在になってしまった。

人間を情け容赦なく殺す魔族。

俺の存在なんて只の道具だったのだろうな。


「やけに落ち着いているな、ショックは受けないのか?今から殺されるのだぞ?」

「こうなるのは、俺だって予想していたぜ」

「そうか、すまない」

「なんで謝る必要があるんだよ、上からの命令は逆らえないんだろ? なら、そうするしかないだろ……。だけどな、俺は簡単には死なないぜ!」


そう言って俺はニヤリとしながら微笑む

そうさ、これは、予想していた事だ。

俺は勇者だ。絶対に生き延びてみせる!


「ふふ……そうか、確かに簡単には殺せそうにもないな」

「俺を生かした事を後悔しても遅いぞ、俺は強い」

「そうだな。もっと早く殺せばよかった、せめてもの情けだ。私一人の力で楽に殺してやる!」


イーリスが魔術を唱え始めた。

辺りの土の中から現れた大量の石を浮遊させる。

なるほど、あれを弾丸のように俺に襲い掛かって来るって訳か……

あれ?それってかなりヤバイよな?

そんな動揺している俺を無視しながら大量の石が俺に襲い掛かる

慌てた俺は光を照らして暗闇の中から現れる石を避ける。

弾丸と違って目で追えるし、素手で弾く事もできた。

よし、大丈夫だ。

俺でも避けられる速度だ!

石を避けながら、俺はイーリスへ接近する


「全く、強化魔術を使わずにその速度を出せるとは……つくづく貴様は人間離れをしすぎているな」

「言っただろう、俺は選ばれた特別な人間だってな!」


そのまま接近して俺は、攻撃を仕掛ける。

だが、振り下ろした剣はイーリスが唱えた土の壁に防がれてしまった。


「ちい!」

「残念だったな。お前の負けだ」


やわらかい感触だった、土は予想以上に頑丈だ。

いや、衝撃が吸収されてしまったんだ!

おかげで、俺の威力がかなり半減されてしまった。


「とっておきだ、受けるが良い!」


イーリスは両手をあげながら、巨大な炎の塊を作り出す

詠唱時間は殆どない。

なんでイーリスはあんな素早く魔術を唱えられるんだ!

少しばかりは隙を作れよ!

容赦のない炎の塊が俺に襲いかかる。

避けようとしたものの、気がついた時には、地面が泥によって足場が捉えられて身動きが取れない。

まさに絶体絶命


「水よ! 俺を守れー!」


念じられた魔力は水の壁へと変化して、俺の身を守る

果たしてあの巨大な炎を防ぎきれるのか?

弱気になっては駄目だ、こんな所で死ぬ訳にはいかない!

水の壁に直撃した巨大な炎は相殺しきれていない

未だにじわじわと水の壁を蒸発させながら

俺に接近している。

こんな事では、俺は倒れない!

水の壁をさらに補強させながら、俺は巨大な炎を押し出す

だが……俺の苦労は水の泡となる。


「おいおい……嘘だろ……」


イーリスにはさらに3つもの巨大な炎を出現させていた。

一つだけでも、防ぐだけで精いっぱいなのに

3つの炎……とてもじゃないが、防ぎきる事が出来そうにない……



「貴様との休息の時間は悪くなかったぞ。だが……私は、任務を遂行しなければならない、お前を殺して、私は前に進む!」


3つの炎の塊は一つへと融合し、巨大な太陽のように輝いていた。

へへ、真っ白に燃え尽きる心境は、こんな感じだったんだろうな。

まあ、焼き焦げてしまうんですけどね。

最後ぐらいは笑おう。

全く、ほんと、俺ってツイてないな……



地獄の炎はカズキを焼き尽くしている

その燃え盛る炎はまさに地獄だ。


「随分と手間取ったな。お前らしくもない」


暗闇の空から姿を現した魔族。

彼は人間界へ侵攻したイーリスの仲間である。

その大きな翼は、簡単に空を飛ぶことを可能にしている。


「まあな、なかなか手ごわい人間だった。」


イーリスは、燃え盛る炎は冷たい表情で見つめている。

相手を殺す為に手段を選ばない冷酷な魔族。

それが本来の姿でもある。


「全く、貴様は油断しすぎだ。人間如きに後れを取るから、貴様の国は大魔王様に滅ぼされたのさ」


イーリスの国は大魔王との戦争に敗れ、その責任として魔王は処刑され、大魔王の植民地になっていた。

支配される側となった事で鬼族は大幅に数を減らし、衰退の一途をだどっていた。


「……それ以上言うと、貴様を焼き尽くしてやるぞ……!?」

「おお、怖い怖い、これだからお姫様はおっかねえぜ」


そうケラケラと笑う魔族。

明らかに、イーリスをからかいながら笑っている。

拳を握り、歯を噛みしめながら、怒りを収める。


「それで……島からはどうやって脱出するのだ?」

「俺が空を飛びながら、テレキネスの魔術でお前を空へ浮かせながら送ってやるよ、俺にお姫様抱っこされるのは嫌だろ?」

「落としたら……只じゃおかないぞ……!?」

「心配するなって、無事に人間界へ侵入出来た貴重な戦力を無駄にするわけ無いっしょ」


魔界から人間界へ向かう境界線は狭い。

そのために、少数で少しづつ魔族を送り続けなくてはならない。

故に、永遠に異空間へ彷徨ってしまう事故も当然のように起こってしまう。

それほどまでに、人間界へ侵入するのは困難な道のりだ。

故に、人間界で魔族同士の争いを行う事は禁忌となっている。


「ふん、わかっているさ。無駄な争いをしている暇は、ない事ぐらいはな」

「そうそう、まあ、当分は、魔族がさらに集まるまでは暴れる事は出来ん、精々、人間の王様や領主を暗殺して、国を混乱させるぐらいしか出来ないだろうな。俺たちが一気に侵攻するのは、まだ準備が足りない。」


そう長々と話していた魔族は、空へ飛び、闇の中へと消えてしまった。


「行ったか……土の中に隠れたおかげで助かったぜ……」


魔族達は、カズキが燃え盛る炎の下で密かに生きていた事を気づいていない。

土の中に咄嗟に隠れたカズキは、燃えさかる炎の熱に耐えながら、ただじっと魔族達が居なくなるのを待っていたのである。


無事に生き残ったはいいものの

問題は山積みである。

ルビアが、カズキを無人島から救助しに来るのかが、未だに未定だ。

故にまた一人で自給自足の生活をしなければならない。

そんな現状にも挫けずに、カズキは今日も生き続ける。


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