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3話 共同のサバイバル生活

「せいや!」


俺は今回の獲物である、シカのような姿をした魔物の突進を避けながら

イーリスから貰った剣で首を思いっきり突き刺す。

うむ、素晴らしい切れ味だ。

血抜きも念入りにしなければ、血の匂いが肉にしみこんでしまう。

瀕死状態の魔物の首から血をドバドバと抜き取りながら

俺は血抜き作業に励んでいる。


「ふう、今日の食糧はとりあえず確保出来たな」


イーリスの食欲は思いのほかに俺よりも大食いだ。

あのスリムな体型の何処にそんな大量に胃袋を放り込めるんだ?

まあ、日本でも超早食いのスリムの女性が居たな。

別に不思議な事ではない。


俺は血を抜き取った魔物を背に抱えながら、仮設の家へ向かう。

今の俺には全く魔物の重さはは感じない。

勇者のチート万歳って奴だぜ!


「遅い!」


俺の帰りを待っていたイーリスをそう苛立ちながら木の実を食べていた。

ここは、イーリスの土の魔法で作られた丸い形をした土の家。

雨避けにもなれるし、俺が雨避けの時に住んでいた洞窟よりも快適だ。

保温性も優れ、夜の寒さからもある程度は気温が下がる事はない。



「まあまあ、今日は大物を仕留めたから落ち着いてくれ」

「ふむ、確かにおいしそうな魔物だ。いいだろう、今日は許してやる」


イーリスはそういって俺が仕留めた魔物を解体しながら、調理を始める。

素手でおいそうな香りが湧き出しながら肉を焼いている

まさに反則じみた肉体だ。

魔族だからこそ可能なのだろう。


「いいなー俺も炎の魔法が欲しいなー」

「魔法ではない、魔術と呼べ」


この世界では魔法ではなく、魔術と呼ばれているらしい。

確かに、RPGのゲームでも魔法や魔術や紋章術やらと、いろいろな種類の魔法があった。

ファンタジーは奥が深いぜ。


「まあ、貴様には適正が無かったという事だろう、素直に諦めるのだな」


そう言いながら土で固めた土台の中で燃やし続けているイーリス。

見ているだけで熱さが伝わる。


「はあ、炎があればカッコいい技とかが開発出来そうだったのになあ」

「人間の炎でいくら魔術を開発したところで私の敵ではない、ほら、出来上がったぞ」


そういってイーリスは

焼きあがった肉を岩で作られた机に置く。

うむ、実においしそうだ。


「いだだきまーす!」


素手で肉をガツガツと噛みしめながら食べまくる俺。

イーリスもおいしそうに食べている。

俺よりも食べる速度が速いな……流石は魔族!

ちなみに、味付けは塩だけだ。

俺が偶然にも見つけた岩塩のお蔭で、保存もばっちりである。

こんな乾燥もしていない場所で塩を発見できるなんて、最初は全く予想してなかったんだがな。

流石はファンタジー。

不思議な世界だわ


「不思議なものだな。まさかこの私が下等生物と共に生活を共にするなどとは」

「そうだな。俺だってここまで快適に生活できるとは思わなかったよ」


俺一人だけではこの自給自足のサバイバル生活はきつい

肉を焼くのも、光の魔術では時間がかかる。

土の家だって、俺には作り上げる事が出来ない。

土属性にも俺は適正がないらしいからね、まあ、この世界に来たばっかの俺では

適正があったとしても、簡単に作り上げる事が出来なかっただろう。

このイーリスから貰った剣も土魔術と炎の魔術を使って作り上げてくれた剣らしい

ちなみに、貰った時の現場はこんな感じだ。


「勘違いするなよ、素手では獲物を仕留めるのは大変だろうから、私が仕方なく剣を作ってやったのだ。有難く思え」

「すげえ……土の魔術で剣まで作れるなんて、イーリスって凄いな!」


プイっと背を向いて俺から離れていくイーリス。

あの時の心境は俺にもわからん。

ただうれしかったのは確かだ。

剣を受け取れるまでに俺を信用してくれているって事だしな。


……てっ、なんで俺は普通に魔族と友好に接しているんだよ!

勇者が魔族と仲良くしちゃったらダメでしょ!

まあ、今は俺が捕虜の身だ。

孤島の島で脱出も不可能。

一人でサバイバルをしていた時よりも待遇がいいし、甘んじて受け入れよう。

決して俺がイーリスに惚れたわけじゃない。

俺はそこまでチョロくねーからな!


「全く、君のだらしない姿を見ていると、私の警戒もすっかりと無くなってったよ」

「なんだ? 俺ってそんなにだらしない人間だったか」

「ああ、お前は本当にだらしない人間だ。魔族に恐怖を抱かずに、私に共に平気で暮らしている時点で普通の人間では、出来ない事だろう」


まあ、角の生えた人間は、この世界に居ないのだろう。

普通なら新種の魔物か化け物と思ってしまうだろうし、一斉に逃げられるか、討伐されるだろうな。

内心では、俺もビビっていた。

今の俺では魔族を倒せる力が無い。

非力な勇者なのは今までで散々に自覚している。

だけど、今はその不安もなくなり、すっかりとイーリスを信用している。

やはり、お互いに協力しながら自給自足の生活をしていれば、自然と許しあえる関係になったのだろう。

少なくとも俺はそう感じている。


「まあ、俺は普通に人間よりも特別で選ばれし人間だからな!」

「……そ、そうか」


おかしいな……

かっこよく決まったはずなのに。

イーリスが引いているような気がするのは気のせいか?


「なあ、イーリスの仲間はこの島に辿り着く事は出来そうなのか?」

「……無理だな。私の仲間からの連絡手段が無い。もしも仲間が出現した時は、私と同じく、この島へ転移してしまった魔族だろう」


ふむ、とりあえずは援軍を呼ばれる心配はない。

ルビアの話では、魔族が大量に人間界へ攻め滅ぼそうとしているらしい。

とてもじゃないが、イーリスの仲間である魔族との交渉は通じないだろう。

イーリスは、俺と利害が一致しただけの関係だ。

表面上は協力し合っているが、イーリスの仲間である魔族が、たった一人でも来てしまえば、俺に用は無くなり、殺されてしまう可能性が高い。

ヤバイな……早くルビアさん来てくれないかな……

このままじゃ、魔族に殺されそうですよ!


……だけど、イーリスと戦う事になれば、俺はどうすればいいのだろう

ルビアが救助に駆け付けてくれば

必然的に、敵対関係となり、俺は、戦わなければならなくなる。

俺に出来るのか?

そもそも、殺す覚悟なんて俺にはまだ備わっていない。

こんな友好的に接してくれる魔族を殺せるわけがないじゃないか!

くそ、本当にどうすればいいんだ。


「どうした? 顔色が悪いぞ?」

「あ、ああ。ちょっとお腹が痛んだだけだよ」


全く、黙々とおいしそうに肉を食いやがって

魔族は敵なんだ、いずれ戦わなければならない敵。

そうしないと……俺は、元の世界へ帰れない。

くそ、イーリスがもっと俺に敵対的ならこんな悩まずに済んだのに!


「そうだ、お前はこの島で暮らせ」

「なんだ? いきなりどうしたんだよ?」


真面目な顔で俺に見つめるイーリス。

その顔はいつもより、真剣な表情だ。


「私はとある理由で、人間の治める国を支配しなければならない。そのためには多くの人間が犠牲になるのは、間違いないだろう。だから……カズキはここで暮らせ」

「突然どうしたんだよ、まさか……本当に人間の国へ戦争を仕掛ける気なのか!?」

「そうだ」


俺にとっては、恐れていた事態だ。

イーリスが他の魔族と共に人間界へ攻めて来た中の一人だなんて

信じたくもなかった。

出来れば、誤って人間界へ転送された

迷子の魔族でいてほしかった。

だがその願いは打ち破られる。

俺はイーリスと敵対しなければならない。


「そうだな……俺も出来ればここで穏やかに暮らしたいな、だけど……それは出来ない」

「何故だ? これから、戦火の渦へと巻きこまれるであろう大陸に迎えば、カズキとて無事では済まんぞ」


「俺を待っている仲間が居る。だから、この島から脱出しなければならない」

「そうか、私と敵対しても構わないのだな?」

「……ああ」


俺は、威圧感を放つイーリスに怯まずに、ゆっくりと頷いた。

確かに、ここで暮らしたほうが平和だろう。

平和に学生として暮らしていた俺にとっては

戦場はまさに地獄に違いない。

でも、無人島生活のほうがもっと嫌だ。

それに、俺は女にモテモテになる為に来たんだしな。

そのためなら、どんな困難が待ち受けていようとも、前に進んでやる!


「少し、外で付き合ってもらうぞ」

「付き合う!? まさか……俺に惚れているのか!?」

「違うわ!?」


イーリスが唱えた炎の塊が俺に向かって襲い掛かる。

冗談が通じない奴め。

俺は、炎の塊を瞬時に反応して避ける。

床へと直撃した炎は、メラメラと燃えていた。

直撃したら、かなり危なかったな……


「さっさと外へ出るぞ!」

「はいはい」



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