2話 第一島人の発見
「さて……そろそろ水浴びをしようかな」
俺は、身体の汚れを落とす為に、近場の泉へと向かった。
ルビアからの連絡が途絶えてからは、一週間ぐらいは経過し、未だに救助が来る気配がない。
故に俺は、今日もひたすら、救助が来る日まで待ち続ける。
「あれ? 泉に誰かが居るぞ?」
大型の魔物が水浴びでもしてる可能性もある。
魔物だったとしたら丁度いい。
今日の晩飯が向こうから来たようなモノだ。
ゆっくりと泉へと近づき……俺は獲物へと近づく。
「……えっ? 人間?」
2つの角が生えている綺麗な女性が優雅に水浴びをしている。
おいおい、無人島じゃなかったのかよ?
ふふ……俺にとっては運がいい。全裸の女性を生で見れるなんて、思わなかったぜ!
だが、全身に浸かっているせいで、隅々まで見れない。
俺は諦めない! せめて胸だけは、見せてもらうぞ!?
しかし、俺は勢い余って、地面にあった枝を思いっきり踏んでしまう。
枝の折れた音が聞こえ、俺の方へ振り向いく女性。
明らかに俺が覗いていたのがバレてしまった。
「曲者!?」
女性は真っ赤な球体の炎を複数に作り出し、隠れている俺に向けて発射させやがった。
ヤバイ! 相手は魔法使いだ!
「ひえーー!」
俺は咄嗟に水を念じる事で出現させた水を垂れ流す。
アカン、この水じゃ防げない!
「頼むから、俺を守ってくれー!」
祈りが通じたのか、垂れ流しす事しか出来なかった魔法が俺を守るように壁を作り出していた。
炎の弾は俺の水の壁に数回もわたって衝突し、なんとか防ぐ事が出来たようだ。
あぶねえ……あの炎が直撃してたら、やけどではすまなかったな。
「ふう、危ないところだったぜ!」
「……で、貴様は何者だ?」
「うわああああああああ!?」
水浴びをしていた女性は、俺のすぐ目の前に接近していた。
もう俺が覗いていたのは、バレバレである。
明らかに詰んでいる。
「あわわわ!」
「で、この私に何用だ?」
「……覗きをしていましたっ! すみません!」
その場で謝罪をする俺。
もはや言い逃れをしても無駄だと悟った。
なので、正直に話す事で少しでも、誤解を解こう!
「この下等生物が!?」
赤く染まった女性はそのまま手を広げて
動揺していた俺に、顔に思いっきり振り放ったビンタが襲いかかる。
回避する事も出来ずに食らってしまった。
そういえば、今も、全裸だったな……
あまりの激痛に、俺はその事を忘れてしまい、そのまま意識を失ってしまった。
「はっ!?」
目を覚ました俺は、警戒しながら辺りを見渡す。
人影の気配はない、やはりあれは夢だったようだ。
おしかった、後もう少しで女性の裸体を拝む事が出来たのに
「やっと目を覚ましたか」
「で、出たーーー!?」
森の影から、夢だと思っていた角の生えた女性が姿を現す。
やはり、あれは現実だったようだ。
幽霊が出たのかと思っちまったよ!
「そこまで驚かなくてもよかろう……これだから下等生物は嫌いだ」
そういって愚痴をこぼす女性。
下等生物とはいったいなんだろうか?
「なあ、下等生物ってなんだよ、俺は食物連鎖で最上位で位置する人間だぞ!」
そう理科の授業で、習ったような気がする。
「やれやれ、人間など力も知略も優れた私の贄でしかない、その意味が解るか? 人間よ」
真顔でそう話す女性。
待てよ、人間よりも強い種族となると……こいつはもしかして……
「あのー……もしかして魔族様ですか?」
「魔族が侵略した歴史は風化された筈なんだがな、よく知っているな。少しだけ見直したぞ」
俺の答えに少しだけ驚いているが
こっちだって驚いたわ!
なんだよ、ここには人間も魔族も居ないんじゃなかったのかよ
武器も攻撃魔法もない俺は、捕虜のような扱いを受けていて物凄いピンチになってんですが……。
あのルビアとか云う名の女神は、ちょっと無能すぎるだろ……。
なんで魔族が居るのさ、お前の汚物センサーは飾りか?
「な、なんだ! 俺を食ってもおいしくないぞ!?」
「私は人間を食う趣味なんぞ持ち合わせてはおらん。貴様には、ある質問をさせてもらう」
質問か。 なんだろう、人類の敵らしいから、拷問されるのかな?
俺ってこの世界に来てから、酷い目に遭う事が多すぎだろ……
そう思いながらも、俺は魔族の質問を答える準備をする。
俺だって命が惜しい。
「ここは、何処だ? なんという地名だ? 人間の姿が全く見当たらないのだが、一体どうなっている!?」
「……」
俺は口を開けながら唖然とした。
こいつ……俺と同じでこの島に閉じ込められてしまった魔族だ!
しかもルビアに無理やり無人島に放り込まれた俺と違って
魔族は、計画的に人間界へ侵入した筈だ。
見かけによらず、なんてドジな魔族なんだ……
「ここは、無人島だよ」
「はっ?」
女魔族が驚きの表情でこちらを睨めつけている。
そんなに、睨めつけても現実は変わらないぜ!
「しかも、とても大きな島の無人島だ。俺以外は、誰も住んでないぜ! なんたって、俺も遭難した一人だからな!」
「私は遭難などしていないわー!」
そう言って、俺に怒鳴りながら殴りかかってくる女魔族。
とっさに両手でパンチを受け止め、なんとか致命傷を防いだ。
ふう、勇者の力がなかったら死んでいたわ。
「まあ落ち着こうぜ! 俺たちは遭難した仲間だ、ここは一旦、停戦協定を結ぼう!」
武器もない俺は明らかに不利である。
ここは、協力し合って、この島から脱出する方法を考えるのが先決だ。
怒りを鎮める為に、俺はひたすら、女魔族を説得し続ける。
「……人間にしては、大した力を持っているな。確かに私一人では、この島を抜け出す事は出来ん。いいだろう、命が少しだけ長引いたな」
そう言って女魔族は、拳を引いてくれた。
危なかった、一つでも失言をしてしまったら、俺は殺されていただろう。
畜生……ルビアがもっと有能だったらこんな事には、ならなかったのに……
「そうか、解ってくれて助かったよ」
「ふむ、一時的に協力関係を結ぶならば、お互いに名を名乗ったおうがよさそうだな。私の名は、イーリス。魔界で代々に続く、鬼族の一族だ」
鬼族か、あの頭に生えてる角は日本でいえば鬼みたいなものか。
それにしても、角以外は人間の姿と変わらないなあ……
「俺の名はタナカ・カズキ、カズキと呼んでくれ!」
そういって俺は握手をしようと手を伸ばす。
だが、手をペチっと叩かれてしまい、イーリスの手を握る事は失敗してしまった。
「勘違いするな、私は人間と馴れ合うつもりはない。いいか、私が上司で貴様は捕虜となった奴隷だ。そのことを忘れるな? 決して対等となったと思うなよ」
そうだった。
俺は捕虜のようなご身分だったな。
まあ、死なないよりはマシさ、もっとポジティブで考えないとな! ははは……
そう思考しながら苦笑いする俺。
これからは、一体どうなってしまうのだろう……
内心では、不安が込み上げてくる。
早く助けに来てくれー! ルビアー!!!
そう心の中で俺は叫ぶ。
徐々に俺の待遇が悪化する現実を背ける事が出来ないまま、前へ進むしかなかった。