21話 地下迷宮
窓から覗くと、辺りは、すっかりと日が暮れていた。
まあ、買い物も済んだ事だし、そろそろ寝る準備をしないとな。
久々に柔らかいベッドだ。
しかし、なんでベッドが5台もあるんだ?
たった一人しかいない屋敷なのに、多すぎだろ……。
「んーむにゃむにゃ」
ルビアは、すっかりと熟睡している。
俺もさっさと寝ようかな。
しかし、クレリアスはここで寝てないんだな。まあ、俺たちは、客人みたいなものだ。かわいい寝姿を拝めなくて残念だぜ。
そう残念に思いながら、俺は深い眠りについたのであった。
「起きなさいー!」
俺は、頭に激痛をしながら目を覚ます。
くそ、ルビアの攻撃力を甘く見ていたぜ。
「痛いじゃないか……」
「カズキが全く起きないから、私が起こさせてあげたのよ!感謝しなさい!」
そう腕を組んでドヤ顔されても、反応に困るんですが……。
「ふわあああ……あーだるい」
眠気がまだ残っている俺では、あるが、さっさと支度の準備を済ます
迷宮に潜るなら、非常食が必要だ。
だが、俺の鞄には、木の実が少々入っているだけ。
ルビアは、もちろん手ぶらだ。
金が無いから、食糧はこれだけ。
……うん、クレリアスに期待しよう。
「じゃあ、さっさと出発するわよ!」
ルビアは、元気だな。
俺も、さっさとテンションを上げますか。
リビングに辿り着いた俺とルビアに、待ち受けていたのは、既に魔術師の服装を着ていた。
昨日、杖を買ったやつも既に彼女の横へと置かれている。
よく見ると聖石をはめ込んでいるな。
魔力結晶じゃなくても大丈夫なのだろうか?
クレリアスがお茶を飲みながら、ソファーに座っていた。
机にコップを置いて、こっちへと視線を送る。
「おはよう。やっと、カズキがおきたの? 待ちくたびれた」
どうやら、俺だけ寝坊していたようだ。
なんだよ、なら早く起こしてくれ。
でも俺って、ルビアの打撃を食らわないと目を覚まさないほどに爆睡していたのかな?
「おはよう、クレリアスは、もう支度は済んだのか?」
「あの姿を見ればわかるじゃない!ちなみに、私が一番早く目を覚ましたわよ!」
「私より、先に起きているとは、思わなかったの」
「ふふん、私は、常に完璧な女よ!」
「そ、そうか」
そうだな。
ルビアみたいな、完璧超人は、きっと誰もいないよ。
それは、断言してもいい。
こうして、俺ら3人で、地下迷宮へと潜る為に、入口へと向かった。
入口へ向かう広場は、戦士系の魔術師が多い。
まあ、地下迷宮は、普通の魔術師には、相性が悪いらしいしなあ。
仕方のない事だろう。
となれば、唯一戦士系の俺が今回で一番の重要な仕事をさせられるって事だ。
かなりの重労働になりそうだぜ。
「ふーん、あれが地下迷宮の入口?」
「そうなの。入場料金が取られるから、今回は、私がおごってやるの」
「入場料金を取るのかよ、金に汚い国だな」
地下迷宮の入口には、確かに、戦士系の魔術師のPTが金を払いながら、地下迷宮へと巡りこんでいるのがうかがえる。
あの入口に佇む役員さんと兵士も、国の関係者なのだろう。
「国が管理しないと、地下迷宮は、荒らされるし、魔物が地上へと溢れるかもしれない。その維持費の為なら、仕方ない事なの、それと、帰還の結晶は、買っておくべき。これがあれば、地下迷宮から、瞬時に脱出する事が可能」
「随分と詳しいな」
この国で、屋敷を買ったクレリアスは、どうやら、現地である程度の情報収集をしていたらしい。
つくづく有能だな。
だが……あのデカい屋敷を買ったのは、失敗だと思うぜ?
「私も一度は、地下迷宮に興味を持った。だけど、私には、不向きだったから、潜るのは、断念したの」
「なるほどね、まあ、魔物が地上へ姿を現したら、入口を崩落させれば簡単に解決できるわね!」
「でも、そんな事をしたら、魔力結晶の供給が断たれてしまうんだろ? けっこう、危ない橋を渡っているよな」
「そうなるわね。 まあ、今は、そんな事を気にしている場合じゃないわ!」
「そうなの。さっさと出発しよう」
二人とも楽観的な奴らだな。
こういう時は、最悪の想定もするものだぜ?
策士は、何通りもの事態を予想する。
どんなアクシデントが発生しても、冷静に対応しないといけない。
……まあ、今の俺は、そこまで冷静に対応できていない未熟者ですけどね。
「ここが地下一階か。なんか穴だらけだな」
壁やら、地面やら、大小の様々な穴が無数に存在していた。
実に不気味な洞窟だ。
「ここは、人の出入りが多く、魔物もあまり住みついていない、安全地帯なの。だから、魔力結晶だけを取って帰っていく人が多いの」
「へえー、じゃあ、非戦闘員でも地下一階なら、安全って事なのか」
「たしかに魔物の気配がしないわね……」
「だけど、地下一階で入手できる魔力結晶は、とても質が悪い。それに、もう地下一階の魔力結晶は、掘りつくされてしまっているの」
資源の枯渇か。
やはり魔力結晶も有限なんだな。
地下迷宮だから、自然に生えてくるもんかと思ったぜ。
「じゃあ、さっさと、もっと深い地下へ潜るわよ!」
ルビアをすたすたと先頭を歩きながら、前へ進む。
魔物が居ないので、俺たちも警戒心はすっかりと、解かれていた。
さらに俺たちは、迷宮深くへと潜る。
地下3階からは、ちらほらと魔物が見かけるようになる。
だが、俺たちの敵ではない。
ただの雑魚だ。
倒した魔物の遺体は、そのまま放置している。
流石にこんな所で素材を剥いだところで、これからさらに深いところを潜る俺たちとっては、只の荷物になってしまう。
もっと良いお値段がする魔物を探したほうがいい。
だが、地下4階になっても、宝物どころか、魔力結晶も見つかっていない。
「探究者との擦れ違いが随分と減ってきたな」
「地下5階からが本番。ここから、死亡者が急増したエリアらしいの」
「確かに、強い魔物の気配がするわねえ……並の人間じゃ太刀打ちは出来無さそう」
そう、人間らしき人物のサーチは殆どなくなり、今は、魔物ばっかりが反応している。
マジで、魔物が多いって。
階層が一つ違うだけで、ここまで変わるものなのか?
「カズキ! 左に魔物が来るわよ!」
「あいよ!」
横から飛び出して来た、ガイコツ……いや、スケルトン的な魔物を俺は、体をひねりならがスケルトンの攻撃を回避して、そのまま一発をお見舞する。
骨だけあって、堅い。
まあ、なんとかなる相手だ。
こんどは、スライムのような液体も飛び出してくる。
「スライムは、こんがりと蒸発させるのが一番なの」
そう言って、クレリアスは、光だした杖と共に、短時間で光の弾を作り出して。
スライムへ向けて、発射されていた。
見事にそれに直撃したスライムは、消滅させていた。
「やっぱりこの杖は、便利」
にやにやと笑いながら、新しく買った杖の性能を確かめているようだ。
俺には、わからんが、かなりの性能なのだろう。
しかも魔力結晶ではなく、聖石を取り付けている。
相当な効力がありそうだ。
「あらあら、私が出る幕じゃなかったわね」
少し残念そうにそう呟いているが、これからジャンジャンと魔物が現れるから安心しろ。
こんなに大量に出現されたら、俺の体力が先に尽きそうである。
まあ、なんだかんだで、魔物の襲撃は、楽に全滅させたんですけどね。
そして、俺たちは、どんどんと地下へ潜る。
途中で、ルビアの話ではそろそろ日が暮れるらしいので
迷宮の中で野宿をする羽目になった。
まあ、女神様の貼った結界が凄すぎて安心して寝れたけどね。
ある階層まで進むと、迷宮の構造が変わった。
何かの遺跡のような建造物になっている。
こんな深くに潜ったのに、魔力結晶は、まだ数個しか発見していない。
もう枯渇しているんじゃないか?
そんな事を考えているうちに、ルビアは、何かを見つけたようだ。
よく見ると、スイッチらしき物体が設置されていた。
「あら、この怪しげなスイッチみたいなものは、なにかしら?」
「おいおい、勝手にスイッチを押すなよ? 何かが起こった後だと、もう遅いからな!」
「ごめん、もう押しちゃった」
「おいいいいいい!」
すると、何かが亀裂音と主に地鳴りが起きる。
気がつけば、俺は、ルビア達の視界から消えてしまい、重力に従いながら、下へと、落下していた。
「大変なの! 床が、抜け落ちて来てるの!」
「あら、やっぱり罠だったわね!」
気が付けば、床には、大きな穴が空いている。
二人は、テレキネスの魔術で空を飛べるお蔭で、落とし穴から落下するのを回避できていた。
だが……
「ねえ、カズキが何処にも居ないの」
「そ、そうね……」
動揺をしながらも、ルビアは、穴が広がるのを止める為に、スイッチを再び押す。
スイッチを再び押した事で、元通りに穴は、塞がれた。
だが、慌ててスイッチを力いっぱいに押し付けてしまったため、ルビアは、そのスイッチを壊してしまってしまう。
「どうしよう……スイッチが壊れちゃった……」
「……カズキの犠牲は無駄にしないの」
自力で再び、穴をあけるのは、自殺行為だ。
もはやカズキを救うには……二人がさらに迷宮の奥深くへ潜って、救出へと向かうしかない。




