20話 お買いもの
俺たちは、レンガや石創りが続く街並みの見ながら、目的地の魔道具屋へ向かう。
しかし、ここらへんは、木造の建物が少ないないな。
やっぱり田畑と草原だらけで、森が少ない影響か?
そうこうしている間に、俺たちは、目的地へと到達する。
「おや、いらっしゃい……今日はいい品が揃っているよ」
店に居たのは、黒装束の婆さん……って、あの時の婆さんじゃねえか!
「なあ、店員さん。魔術師ギルドでお会いしましたよね?」
「その人は、ワシの従姉妹じゃ。」
「従姉妹かい!」
まぎわらしい。
顔も姿も似ているから、同一人物かと思っちまったぜ。
「この程度の区別もわからないなんて、まだまだ半人前なの」
「そうね。まだまだ勇者になれる日は、遠いわ!」
「お前ら、ここぞとばかりに俺を責めてないか?」
俺の白けた視線に、にやにやと笑っている。
くそ、絶対に楽しんでやがるな。
まったく、さっさと杖を買って用事をすませてくれよ。
まあ、せっかく魔道具店に来たのだから、俺も魔道具の品を観察しますか。
ふむ……指輪や、マント、ロープ、杖など、いろいろとあるな。
俺でも魔力が宿っているのがわかるアイテムまであるぞ。
魔道具と云う響きだけで、非常にロマンを感じる。
金さえあれば、俺も何か一つぐらいは、買いたかったな……
「……なんだい、坊主。何かほしいのかい?」
「いや、俺は、金が無いのでただ見ているだけですよははは……」
「こら、カズキ、無一文なんて人前に言っちゃ駄目よ! 私達が冷やかしと思われちゃうじゃない!」
「全財産を無くしたこの二人と一緒にしてほしくないの……」
ちくしょう、やらかしたルビアに言われたくないぞ!
いいさ、俺は、魔道具を見ているだけで満足だ。
欲を出しちゃいかんのだ。
「決めたの、この杖にします」
クレリアスが指した方向には、白く光っている、立派な杖が置かれていた。
見るからに高そうだな。
金は大丈夫なのか?
「ほほう、お目が高い。それは、今では作りだす事が出来ない古代に作られた杖じゃ。
穴が開いている場所に、魔力結晶をはめ込めば、この杖の強度も上がり、術者の詠唱時間を大幅に短縮できる優れものじゃ。もちろん、普通の杖よりも補助機能の効果が高いぞい」
「ふーん、まだ、この杖が残っていたとはねえ……こんなのを売って大丈夫なの?」
「ほっほっほ、なあに、わしが、地下迷宮で発掘した杖じゃ。昔は、愛用しておったが、今は、売り物にすぎん。ただし、買えればだがのお……」
「いくらなの」
「5000万ゼニーじゃ」
「ぼったくりじゃねーか!」
俺だって桁外れな値段なのがわかる。
一億は、かなりの大金じゃないか。
「……これでどう?」
そう言って大量の金貨や銀貨が入っている袋を取り上げて、婆さんが一枚一間確認しながら、お金を数えていた。
そして、数え終わった婆さんは、そっとため息を吐く。
「うーん……あと金貨一枚たりないねえ……」
「そんな……」
どうやら、金が足りないようだ。
どうしよう。
俺たちは、無一文だから、金を貸してやれないぞ!?
「何よ! たった金貨一枚ぐらい、サービスしなさいよ!」
「値下げをおねだりするにしても、もうちょっと、言い方があるっしょ、ルビアさん」
「ふむ、場合によっては、今これをサービスとして、金貨一枚抜きで、買ってもいいぞい。ただし、地下迷宮に眠る魔力結晶を出来るだけ取ってきてほしいのじゃ。最近は、魔力結晶が不足していて困っておってのお」
地下迷宮か。
ロマンのある響きだ。
だが、クレリアスは、納得していない様子だ。
「魔力結晶? 地下迷宮に潜っている探究者がたくさん取ってきている筈なの。私が出向く必要なんてない」
「ところが、最近になって、探究者の死者が急激に増加しておる。明らかに、迷宮に住まう、魔物たちの質が凶暴化しているのじゃ。お蔭で、魔力結晶の供給が殆どなくなり、すっかりと高騰してしまったわい」
「その地下迷宮って何処にあるんだ?」
「この首都じゃよ」
「えっ?」
「ここは、地下迷宮で貴重な魔力結晶を発掘し、質の良い魔族から抜き取った素材がたくさん集まる国。この国の経済を支えているといって過言でもないの」
どうやら、このフローゼス王国は、首都そのものが、魔物が住まう迷宮が存在しているって事か。
かなり危ない場所に首都を置いてないか?
下手したら、魔物が迷宮から飛び出すと思うんだがなあ……
「どうじゃ?これは、先行投資じゃ。地下迷宮から、入手した魔力結晶は、高く買い取ってやるぞい」
「うーん、地下迷宮は、魔術師には、向いてないから嫌なの」
「なんで魔術師に向いてないのさ?」
「カズキは馬鹿ねえ……狭い迷宮の中じゃ、大規模な魔術なんて唱える事が出来ないじゃない!そんなのを唱えてしまったら、崩落する危険性だってあるのよ!」
なるほどね。
確かにそれは、一理ある。
俺も力を制御しなかったら、坑道を一気に崩壊させてしまいそうだ。
「おぬしらの活躍を聞いておるぞい、聖女様」
「あら、私の事を知っているの?」
「最近の魔術師ギルドで話題になっているからのぉ。なんでも、魔族を退治する為に旅を出ているとか」
「へーよく知っているな」
どうやら、俺たちの知名度は、かなり有名になったようだ。
まあ、隣国の神聖セリア教国なんて、街が滅ぶほどの大参事だったしな。
今は、その話題で持ちきりだろうよ。
「そこでじゃ、その地下迷宮には、魔族が潜んでいる噂があるのじゃ」
「うーん、でも私の汚物センサーには、引っかかってないわねえ……」
「その汚物センサーとは、何かは知らぬが、地下迷宮の奥深くに、凶悪な魔力を持つ人型が数人も発見された報告がある。彼らのパーティは、一人を残して全滅してしまったがのお」
「あれ? じゃあ、地下迷宮の魔物が凶暴化したのって?」
「十中八九、魔族の仕業ってことになるわね! 私のセンサーをかいくぐるなんて生意気ね! 準備が出来たら、さっさと迷宮に潜るわよ!」
ルビアはすっかりと、餌に釣られてしまったようだ。
魔族の事となると、いつもこれだな。
まあ、これで、俺たちが地下迷宮へ挑む理由が出来た。
資金調達にもちょうどいいし、一石二鳥だな。
「……仕方ない。魔力結晶をたくさん取って来るの!」
クレリアスも重い腰を上げて、地下迷宮へ潜る事を決意したようだ。
まあ、俺たちという、強力なボディーガードが居るからね。
これほど心強い味方は、居ないな。
……だけど、クレリアスが地下迷宮に潜らないといけない原因になったのは、俺ですけどね……




