19話 自宅警備員
俺たちは再び、フローゼス王国の首都へ訪れていた。
相変わらずの賑わいを見せている街だ。
しかし、俺たちには、ある問題が浮上してしまっている。
「なあ……本当に資金を何処に置き忘れてしまったのか?」
「……置き忘れちゃった、テヘ!」
「テヘ!じゃないから! 俺たちの全財産を速攻で無くすなよ!」
そう、莫大な資金は、あの神聖セリア教国のどこかで無くしてしまったのである。
お蔭で、また無一文の旅だ。
しかも、このままじゃ、宿に泊まれない!
どうしてこうなった。
「どうするんだよ、このままじゃ、また野宿は、確定的だぞ!」
「いや、まだ野宿と決まった訳ではないわ! そう、ここには、素敵な仲間がいるじゃない!」
「仲間って誰だよ?」
「クレリアスよ!」
「……それで、私の屋敷に訪れたって事なの?」
「そうよ! 貴女に聖石を渡して正解だったわ! お蔭で、楽に貴女の住まいを見つけられたわよ」
クレリアスが住まう洋式の屋敷を、簡単に発見した原因は、ルビア渡した聖石である。
聖石には、発信機みたいなものが内蔵されているらしい。
恐ろしい罠である。
つまり……常に、ルビアから監視されているようなものだ。
頼むから、そういう重要な事は、始めから言っておきましょうよ、ルビアさん。
「はあ……ルビアには、恩があるし、仕方ないの。少しの間だけは、住まわせてあげる」
そう、諦めた表情で、俺たちに入室許可をしてくれた。
今は、綺麗なリビングらしき場所に居る。
ソファーに座った俺とルビアは、机の先に居るクレリアスと対面しながら、会話をしている。
だけどさ、あきらかに、俺たちを邪魔者のように見ていただろ?
まあ、事実ですけどね……
「でもよ、宿じゃなくて、まさか、屋敷を買っていたとはなあ。ここを拠点にして活動する気なのか?」
「そうなの。いい加減に、長旅は疲れたし、沢山の資金も入手したから、ここで羽を休む事に決めた」
なるほどね。
まあ、夢のマイホームを買える資金が溜まったなら
買うっきゃないよな。
けどさ、この屋敷は、たった一人の住まいにしては、広すぎだろ。
いくら資金がたくさんあるからって、ここまでデカい屋敷は、要らないと思うんだ……
「ふーん、じゃあ当分は、ここを私達の拠点でいいかもしれないわね!」
「ルビアさん……。勝手に他人の屋敷を拠点にしても大丈夫なの?」
「大丈夫よ! ねえ、いいでしょ! クレリアスちゃん!」
おねだりするかのように、要求しているな。
まあ、俺もせめて一日だけは、泊まらせてほしい。
野宿は嫌だ。
「……仕方ないわね。この屋敷は、私には、広すぎたの。だから、仕方なく困った仲間を住まわせてあげるだけなの」
「なんだ、只のツンデレか」
「ぶっ殺してやるの!」
突如として激怒したクレリアスは、杖を持って、俺に襲い掛かってくる。
しまった! 完全に怒らせてしまった。
「ちょっ、暴力反対!」
おもいっきり叩かれた俺は、なすすべなく、この攻撃を受け入れていた。
ふふ、この程度の暴力など、俺には効かんのだよ!
俺は、全くのノーダメージである。
だが、クレリアスは、強く俺を叩きすぎた影響なのか、杖が、そのまま亀裂音とともに、ヒビが入ってしまい、ポッキリと折れてしまった。
「あっ……! 私の杖が!」
クレリアスは、そう呟いて、しょんぼりと座り込んで落ち込んでしまった。
「カズキ……見損なったわよ! か弱い少女の大切な杖を叩き折るなんて最低な行いよ!」
「あの、俺は叩かれただけなんですけど」
「そ、そうだけど、カズキも悪いわ! うん、そうよ、喧嘩両成敗だわね!」
俺の突っ込みに、透かさず、論点を変えた。
相変わらず、臨機応変にコロコロと変わるなあ……
「はあ……師匠から貰った杖が折れちゃった……」
「あらまあ……そんなに貴重な杖だったのね」
ヤバイな、大切な品を壊したのなら
俺も出来る限りは、謝らないといけないぞ。
「すまん、俺が余計な事を言って怒らせたのが原因だよな。何か賠償出来る者があるなら、なんでも言ってくれ」
「いいの。この杖は、もう使い古されていて限界だった。買い変えるのにいい機会だったの」
落ち込んでいるかと思えば、直ぐに、普段の顔へと変わっていた。
強い女だな。
俺なら、貴重なレアカードを破かれたら、発狂しそうでは、あるが
クレリアスは、そこまで、心が弱くないって事だ。
「ルビアは、武具とか作れないのか? 聖石とか創れるなら、武具も出来そうだよな」
「無理よ、私は、そこまで万能じゃないわ!」
「魔術で武具を作りだすのは、とても難しいの。殆どは、素材を使った手作業で行っているの。」
「じゃあ、武具は、買うしかないのか」
なるほどね。
となると、あの女魔族である、イーリスは、かなりの熟練者って事か。
まあ、素材も無しに、土魔術と炎魔術であんなに頑丈な剣を作り上げていたんだから、やっぱり、イーリスは、異常なレベルで、凄い奴だったんだな。
「じゃあ、杖を買う為に魔道具屋へ行きましょう!」
ルビアは、ソファーから立ち上がり、今にも行きたそうに、ウズウズとしている。
「うん。護衛はまかせたの」
「大魔術師なんだから、流石に護衛は、必要ないんじゃないか?」
「馬鹿ね。大魔術師だろうが、油断すれば一瞬で死ぬのよ! 厳重に護衛をしたほうがいいわ! 私達は、クレリアスちゃんに雇われたボディーガードよ!」
「タダで屋敷に泊まるなら、ちゃんと護衛ぐらいは、しろって事か。まあ、ヒモ生活は、流石にまずいな……」
このままでは、クレリアスに申し訳ない。
まあ、資金調達は、もっと後からでも遅くないな。
「じゃあ、さっさと出発するの!」
こうして、俺たちは、杖を買う為に、魔導具の店へと向かった。




