15話 女神の裁き
私の名はルビア!
人間界を管理している女神よ!
今、私はキンゲル教皇に遭う為に、一人でその場所へ向かっている。
汚物の気配はない。
どうやら、魔族はこの神聖セリア教国には、居ないようね。
なのに、女神を信仰している筈なのに
私への信仰心が全く感じとれない。
一体どうなっているのよ!
それを確かめる為に、私はこの神聖せりア教会で一番の責任者である、キンゲル教皇へと向かう。
煌びやかな真っ白い大神殿に待ち受けていたのは、複数の神官と、キンゲル教皇。
こんな歳のとったおっさんが、私を信仰している管理者だなんて、背筋が寒くなってしまうわ!
まあ、仕方ないわね。
この程度は容認してあげないと
女神としての務めは、果たせないからね。
「ようこそ来ていただきありがとうございます。貴女をご活躍は聞いておりますよ。聖女様」
「御託はいいわ! さっさと本題を話しましょう!」
「貴様! 誰に向かって口をきいていると思っているのだ!」
「よい、私も早く本題に入りたかったところだった」
キンゲル教皇は腕をスっと伸ばし、神官の口を閉ざす。
見た目は、普通の教皇様って感じね。
この程度で怒りだすなんて、神官の器が小さすぎるわね。
女神教の教育がなっていないんじゃないの?
「キンゲル教皇様は、魔族の脅威を感じているの?」
「魔族? そのような、太古の昔に絶滅していた生物など、全く脅威に感じませぬな」
「魔族が人間界へ侵入した事実を聞いても、そんな事が言える訳?」
そういうと、キンゲル教皇は、険しい表情で私を見つめている。
辺りもざわざわ騒ぎ始めているわね。
全く。あんたたちは、魔族を舐めすぎよ!
「そのようなホラを信じているのかね?」
「私の言う事がホラだって言うの!? パラミア王国で私が魔族を倒したのは、ご存じでしょ!」
「女神教を信仰していない、異教徒の国を信じるのが間違いなのです。 大丈夫。貴女も私がお救いして差し上げましょう」
だめだ、こいつ……話にならない。
所詮はカズキが話していたカルト教団だった訳か。
私の真実に、まったく耳を貸さないなんて、期待して損したわ!
「では、これより浄化を開始する!」
そう言い放った、キンゲル教皇は、杖を床へ叩く。
そして、いつの間にか、私の足元から大きな魔法陣を一瞬にして出現させていた。
何よこれ! 身動きが取れないじゃない!
あまりにも、強力な、封印系統の魔術に、私は思わず膝をつく。
こんな巨大な魔法陣が人間如きが、短時間で唱えられる筈がない。
だとすれば、私を捕える為に、始めから念入りに準備してたって事になる。
どういうこと?
私は、嵌められたって事!?
だとすれば、だまし討ちをするような、愚かな行いをしたこいつらは
ぜったいに許すわけには、いかない!
「ぐっ! これはどういうつもり! こんな事をして、タダで済むと思っているの!」
キンゲル教皇は、今までの表情が嘘のように、不気味な顔をしながら笑い始める。
他の神官も同じだ。
この私に向かって、その態度……
まるで、私を汚物なのかを見るような目つきになっている。
許せない……。
あの光景を再び見せられているかのような気分だ。
……あの光景? いったいいつの光景だったっけ?
「ダダで済む? ダダで済むさ。 私は教皇だ。どのような行動も、全ては女神様がお許しになられる。 この魔法陣は古から開発されていた古代魔術……ここを拠点としていたのも、この魔法陣を発見したからだ……ククク」
「古代魔術……!!」
頭痛がする。
その魔術は、遥か昔に、確かにあった。
でも思い出せない。
何か、とても大事なことを私は、忘れている。
「遥か昔に、魔族の魔力を全て奪う事を成功させ、凶悪な魔族の集落を滅ぼしたと伝えられていた、伝説の古代魔術だ。貴様が大魔術師だろうが、この魔法陣から抜け出す事は出来ん! 大人しく私にひれ伏せよ、さすれば、女神の祝福を授かる事が出来るであろう!」
魔族……汚物? 違う。
あれは汚物じゃない。
じゃあいったい何?
思い出そうとしただけで
激しい頭痛が襲われる。
だけど一つだけ思い出す。
これは、私にとって、非常に不愉快な出来事だったって事よ……!
「許さない……この私を、よくもここまでコケにしてくれたわね……」
「足掻いても無駄だ。魔族ですら、封じられる力を持つ魔法陣に、貴様が解ける筈が無い!」
愚かな汚物達。
誰にケンカを売ったのか理解できていない様子だわ。
女神教を信仰しされているほどに拝められていたのは、誰?
私でしょ?
なら、貴方達には、女神の鉄槌を食らわせてあげる。
これは、裁きだ。
私の逆鱗に触れたことを後悔させてやる!
「……ふふふ、私の目前に佇む目障りな汚物は、早く消毒させないと」
私は、床に展開されていた魔法陣を、逆に私の魔力を一斉に注ぎこむ。
汚物如きが開発させた魔術なんて、私に敵う筈がない。
注ぎ込まれた魔法陣は、そのまま魔力を吸いきれなくなり、私を中心に燃えさかる勢いで爆発した。
「ぐわああああ!!! 何事だ! 何が起こった!」
「大変です!魔法陣があの女の魔力に耐えきれずにオーバーヒートしてしまいました!」
「なんだと!」
転げ落ちた教皇が立ち上がり、爆発した場所を見つめた先には、無傷で佇みながら、冷たい目線を覗かせているルビアだ。
キンゲル教皇にしてみれば、想定外の事だ。
大魔術師だろうが、この魔法陣には逃れる事が出来ずに、キンゲル教皇に服従された。
だが、古代魔術の魔法陣は、ルビアの魔力に耐えきれずに爆発し、その爆風の中心に居た、彼女は平然と立っている。
「いい気味ね。これから、女神に裁かれる気分はどう? 貴方達は、楽には殺させないわ……!」
「女神だと! 何を訳のわからない事を言っておる! そのような人物など、この世界に降臨している筈がなかろう!」
「……女神の怒りを買ってしまった事実が分からないなんて……哀れな汚物ね」
ルビアは、教皇の周りに魔法陣を敷く。
さっきの古代魔術と全く同じ術式。
これを敷くにには、莫大な時間がかかると言うのに
ルビアはたった数秒で古代魔術の魔法陣を完成させていた。
「ぐわああああ!! 馬鹿な! 何故、あの小娘に古代魔術が使えるのだ!」
キンゲル教皇と神官達は、もはや、身動きする事も出来ない。
既に彼らは、逃げる事すら不可能になっていた。
「いい事を思いついたわ。この神聖セリス教国は、ドラゴンに消毒させて貰おう。そうね……私が手を汚さずに消毒できるし、それがいいわ!」
そう言ってゆっくりと、ルビアは、キンゲル教皇へと近づく。
「私が悪かった……だから許してくれ! これは、女神様の指示だったのだ! どうかご慈悲を!」
「私の指示……? 戯言を言ってんじゃないわよ!!」
「ぐはァァ!」
ルビアは、倒れたキンゲル教皇を手加減なしで踏む付ける。
床にも亀裂が入るほどの一撃。
内蔵が飛び散るほどに、キンゲル教皇は腹に風穴を開けてしまった。
「私としたことが、汚い汚物に触れてしまうなんて、なんてヘマをしたのかしら」
返り血を浴びて汚れてしまった血を、ルビアは、早々に水の魔術で洗い流す。
キンゲル教皇にも、治療魔術を施して、すっかりと元通りの体になっていた。
「はあ、はあ……た、助けてくれえ!」
「駄目よ。貴方は、大事なドラゴンの生贄なのよ。キンゲル教皇は、私に何度も半殺しにされながら、死ね」
容赦のない、無慈悲な宣告が言い渡される。
彼らは知らなかった。
彼女が女神だった事を。
キンゲル教皇は、知らなかった。
古代魔術がルビアを怒らせた原因だったのだと。
もう彼らは、手遅れだ。
女神の裁きが、今始まる。




