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14話 金髪の剣士

いけ好かない金髪のおかげで、俺たちに対してのブーイングは、すっかりと鳴りを潜めた。

だが、まだ油断はできない。

こいつが、どんな行動をするかわからないからな。

警戒しながらも、俺は、金髪の男に視線を向ける。


「この者たちは、キンゲル教皇様の客人である! 慈悲深いキンゲル教皇様は、このぐらいでは、罪には問われん。大人しくしていたまえ!」


「キンゲル教皇様がそうおっしゃっているのならば、きっと大丈夫ですわね!」

「うおーー!キンゲル教皇様万歳―――!」

「流石はキンゲル教皇様だ! なんて慈悲深いお方なんだ! やはり神は私達を見捨てては居ないのね!」


金髪のイケメンの一言で

辺りは教皇を称える住民たちの凄まじい声援が響き渡った。


「流石はこの国の教皇って言ったところか、影響力が凄すぎるぜ」

「いくら信仰されているからって、これじゃあねえ……」


そんな熱狂している信者達を無視しながら、幹部らしきイケメンはゆっくりと俺たちのほうへ向かった。

うむ、俺とは相いれない奴だな。

イケメンは、俺の敵だ!


「僕の名はラルアス。この神聖セリア教国で、剣聖の異名をもつほどの実力者さ」

「ほう……剣聖か。奇遇だな、俺も勇者の異名を持つ予定がある男だ!」

「あんたは、私が認めた勇者なんだから、既に勇者になっているじゃない!」

「全く知名度の無い勇者の何処が勇者だよ……」


なんだ? 一瞬、こいつは、俺に睨めつけてなかったか?

まさか、勇者の異名を持つ俺に嫉妬してしまったもしれない。

そのぐらいで、恨みを買うのはご勘弁して願いたいのだが……


「では、聖女様と勇者様には、我々の神殿へと向かってもらいます。ただし、勇者様は途中で聖女様と分かれてもらいます」

「なんでわかれる必要があるんだ?」

「キンゲル教皇様は、聖女様と会談をお望みになられておられる。勇者様は、及びではない」

「ふーん、私だけねえ……」


ジド目になっているルビアは明らかに、警戒している。

まあ、俺もキナ臭い感じがするけどな。

なんたって、ここまで洗脳されてしまった信者が多く住まう国だ。

よからぬ事を企んでいるに違いない。

まあ、キンゲル教皇も流石にルビアが本物の女神だとは思っていないだろ。

頼むから、ルビアを怒らせる事はしないでくれよ……


「勇者様、聖女様と分かれた後は、僕と手合せをお願いしたい」

「急にどうしたんだ、まさか、俺の知名度は知らない間に、この国でも広がっていたのか!」

「いえ、聖女様が認めるほどの使い手ならば、一度は戦ってみたいのです。僕は最強の戦士を目指していますので」

「そ、そうか」


俺に睨めつけていた理由は、戦いたかっただけのようだ。

日本で言えば、武士みたいなモノかな?

戦闘好きも困ったものである。

まあ、ルビアも戦闘が好きそうな奴だったな……

しかし……こんな洗脳された信者が多い神聖セリス教国で、こいつは洗脳されていないのだろうか?

そこが、俺にとって唯一の不安要素である。


「あらあら、最強を目指すのはいい事よ。だけど、道を踏み外す事はしないほうがいいわよ!」

「肝に銘じておくよ」


その表情はニヤリとほほ笑み、俺に対してもウインクをした。

女性ならまだ分かるが、同性にそれをやるのは、気持ち悪いからやめろって!


「では、聖女様はこちらの神官様が道を案内しますので、ここでお別れですね」

「そうね! カズキ! 負けるんじゃないわよ! 私が認めた勇者なんだから、絶対に負けるんじゃないわよ!」

「ああ! だけど、ルビアは俺の活躍が見れなくて、とても残念だ」


俺は、そう言ってルビアは手を振りながら遠くへと消えてしまった。


「さて、僕らも訓練場へ向かいますよ」

「おう!」


俺にとっても、この試合は、いい機会だ。

未だに俺は、魔術を唱えるのに、苦労をしている。

その中で、剣士で必須の魔術である強化魔術が何処まで俺に力を与えてくれるのかを調べるのにちょうどいい。

ある程度は強化魔術を部分的ではあるものの、一応は唱えれるようになったしな。


「あれ? 誰も居ない?」

「ここは、僕が管理している僕専用の訓練部屋だ。部外者は、退場させてもらった」


ほほう、審判は無しか。

しかもなんか真剣を使おうとしてらっしゃるんですが……


「質問してもいいかい?」

「なんだ?」

「君は、この神聖セリア教国をどう思っている?」


そう言って、深刻な表情で俺に問いかけるラルアス。

なんとも、答を出しにくい質問だ。

どうするか……ここで正直に話せば、彼を怒らせてしまう可能性がある。

いや、俺は、勇者だ。

嘘を付かずに正直に話したほうがいいだろう。


「正直に言うと、この国は不気味だ。違和感がありまくりの白装束といい、女神よりも教皇様に信仰する人々……俺には理解できないな」


どうだ……

俺の返答に、どう反応するだろうか。

圧倒的に教皇を信仰しているなら、このイケメンは怒りだすに違いないだろう。


「そうか、正直に答えてくれてよかったよ。そう……この国は異常だ。僕が疑問に思ってしまっても、周りが全く疑問に思っていないお蔭で、逆に僕だけが異常者とみなされる危険性があるほどだ。そして異常者となった人物は連行され、数日後には、教皇を信仰する信者へと変わってしまう有様なのさ」

「……異教徒は粛清されるって事か」

「そうさ、信用できるほどの仲間なんていない」


どうやら後者だったらしい。

彼はこの国の異常性に気づいていた一人だった。

しかも、洗脳まで施すほどの周到ぶり……


「僕は、キンゲル教皇様の第3聖女から産み落とされた神の子だ。そのお蔭で、僕は、かなりの優遇をさせて貰っている」

「血統主義って事か。なら、ラルアスが教皇になれば、変わる可能性があるんじゃないか?」

「それは、無理だ。僕の母は、キンゲル教皇様の愛人でしかない。僕が教皇になれる可能性は、限りなく低いね……それに女神教の組織が大きすぎる。とてもじゃないが、教皇になったとしても、僕ではどうすることもできないだろうね」


確かに女神教はかなりの規模がありそうだ。

教皇になったとしても、その流れを変えるのは至難の業だろう・


しかし……

一体、キンゲル教皇は、何人ものの愛人を囲っているんだよ

一夫多妻制主義なのか?

実にけしからん奴だ。

許してはおけん!


「けど、君には期待していたのに、随分とガッカリしてしまった……」

「なんだよ、今は期待してないって事か?」


ちょっとイラっとくるな。

俺の何処が期待外れなんだ?

まあ、思い当たる節はいっぱいあるな……


「君は、何故、聖女の元へ向かない? 勇者ならば、キンゲル教皇の命令を素直に従う必要はないはずだ! このままでは、彼女も洗脳されてしまうぞ!」


なるほどね。

キンゲル教皇は、洗脳する術を手に入れているようだ。

だけどな、俺の相棒は、お前たちが信仰している女神だ。

本物の女神様が、人間の洗脳術なんて効くはずがないだろ。


「フッ!その心配は、全くしていないさ」

「何故だ? 何故、彼女を心配しない!」

「彼女こそが、本物の女神様だからさ……」

「君は馬鹿か? 女神様が地上へ降り立つ事なんてある筈が無いだろう」

「ところがどっこい! 魔族の脅威から、人間達を助ける為に、俺たちが駆けつけて来たのさ!」

「馬鹿な……神話の時代で全滅した筈の魔族達が襲ってきたとでも言うつもりか!?」


幹部であるラルアスも知らないのか。

どうやら、この神聖セリア教国は全く魔族の脅威に気づいていないようだ。

この国は、とことん駄目だな。

やはり、ルビアがこの国へ駆けつけたのは、正解だったかもしれない。

後は、キンゲル教皇がルビアの怒りを買わない事を祈るばかりだがな……


「それよりさ、とっとと始めようぜ。俺は、ちゃっちゃと終わらせて、ルビアの元へ駆けつけに行かなければならない」

「そうだね。君の言う事が正しいのならば、ますます戦いが期待できそうだ」


剣を構えて、全身に魔力を秘めた相手は攻撃を仕掛ける!

強化魔術だ。

俺なんかよりもはるかに、強化されている。

これが本当の使い方なのだろう。

だが、俺だって負けてないぜ!


「遅い!」


足に強化魔術を施した俺は、ラルアスの斬撃を避ける。

その隙を、俺は見逃さない。

俺は、剣を仕舞い。

拳を大きく振りかぶって、殴りかかる


「がはっ!」


ラルアスは、大きく吹っ飛び、壁にヒビが割れるほどの衝突が襲った。

ヤバイな。ちょっとやりすぎたかも。


「だ、大丈夫か?」

「ふふ、大丈夫じゃないな。骨が一本折れてしまったよ。これが勇者か……この神殿で最強と言っても、所詮は、井の中の蛙だった訳か……」

「ま、まあ落ち込むなよ。俺が強すぎるだけだ。アンタも十分に強いぜ」

「勇者にそう言ってもらえるなんて、光栄だね。今は、有難く、その言葉を受けるよ」


燃え尽きたかのように、ラルアスは、そう微笑み続けている。

こいつは、孤独だったんだろうな。

おかしいと思っていても、周りは、その異常性に気づかない。

それどころか、ラルアスが異常者だと思われてしまう始末になってしまう。

上の命令には、逆らう事も出来ない。

決して、居心地は良くなかっただろう。


「それより、君は彼女の元へ向かった方がいい。既に彼女は、キンゲル教皇様と接触してしまっている筈だ」

「そうだな。俺もさっさと……って、うわ!」


突如として神殿が大きな爆音が響き渡り、床も大きく揺れだした。

大きな揺れにバランスを崩した俺はそのまま床にしがみつく。

まさに、大地震か噴火でも起きたかのような揺れだ。

俺は内心、諦めたかの表情で、呟くしかなかった。


「ルビアの奴……やっぱり我慢できなかったか」




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