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13話 神聖セリア教国

「あの関所を潜れば、神聖セリア教国に行けるわよ」

「なあ、そんなにすんなりと、入国できるのか?」


女神教の総本山である神聖セリア教国。

その国土はかなり小さい。

俺が住んでいた無人島のほうが土地は広かった。

いや、あの無人島はデカすぎるな……

だが、そんな小さな国でも、周辺国に及ぼす影響力は凄まじい。


「私が聖女と名乗れば、直ぐに関所を開いてくれるわ! それに、パラミア王国からの許可書も貰っているし、堂々と入国できるわよ!」


「だといいんだけどなあ……」


宗教はいつだってキナ臭い。

ぼったくりの壺を何度も買わされた友人の両親。

友人は金の底が尽きてしまい、すっかりと貧層な生活を強いられてしまってしまった。

変り果てた友人の姿を見ただけに俺は全く宗教を信用していない。

しかも、そんな生活を強いられているのに、未だに洗脳が解かれていない恐ろしさ。

友人は洗脳から目を覚ましたが、両親は手遅れとなってしまっている。



ここは、神聖セリア教国の聖地である神殿。

数多くの信者が訪れる聖地でもある。



「……なにぃ? 聖女と名乗る女性がこちらへ向かっているだと!」

「はい。パラミア王国に出現した魔族の脅威から救った聖女らしく、キンゲル教皇様と会談をしたいらしいです」


女神教には、既に複数の聖女がこの神聖セリア教国に住まわせている。

そのどれもが美しく、美貌に優れた女性で、光属性の適正は、あまり備わっていないお粗末なモノである。

聖女は、キンゲル教皇に捧げられる愛人でしかない。

既に、神聖セリア教国の腐敗は、取り返しのつかない所まで進んでいた。


「その、聖女と名乗る女性は美しい女か?醜い女ならば、追い出すのだ!」

「今まで見たこともない美貌でしたよ。キンゲル教皇様もきっとお喜びになられます」

「ほう、それは、興味深い」


不気味に微笑むキンゲル教皇は、ルビアの到着を歓迎する気になったようだ。

既に教皇は、ルビアがここへ向かった目的なんぞ、どうでもよいと考えている。

目的はルビアを洗脳させる事。

信者からかき集めた資金はたっぷりとある。

魔族を倒すほどの魔力を持つ実力だろうと、教皇が会得した禁断の秘術は防ぐことは不可能。

数々の反抗的な女性や男性を無力化させてしまう、恐ろしい秘術だ。

彼女を洗脳すれば、さらに神聖セリア教国は勢力を拡大できるだろう。

魔族を封じるほどの実力者は、是非とも手駒に欲しい。

美しい女性ならば、私の愛人にしてやろう。

うむ、それがいい。


「あれを使う準備をするぞ、ふふふ、楽しみだ。綺麗な女性が私に屈服する姿を見るのは、いつも、ぞくぞくさせてくれる」

「はっ、わかりました!」


女神教は、教皇に捧げる事こそが、最大の至福と教えられている。

信者達に金も女も全てキンゲル教皇の物。

女神の信仰を行っているが、女神の加護を授かったのは、キンゲル教皇だけとなっている。

そして聖女たちは、キンゲル教皇に選ばれた、女性だ。

初代から、代々受け継がれていくごとに腐敗していく女神教。

だが、このキンゲル教皇は知らない。

初代から信仰されるほどに、恐れられていた女神が、今ここへ訪れている事実を……



しっかし、辺り一面は建物も石も真っ白で、なんか不気味だわー、本当に宗教の総本山って感じがするぜ」

「女神教を信仰している筈なのに、全く私に信仰が授かっている気配がしないわ!これは異常事態よ!きっと魔族が潜んでいるに違いないわ!」

「ああ、きっとカルト教団に変貌してしまったんじゃないか?」

「何よ! そのカルト教団って言うのは?」


ルビアはカルト教団の恐ろしさを全く知らないないようだ。

暴走した信者達は地下鉄で毒ガスをまき散らすほどに凶暴なんだぜ?

あの教団が潰れても、また新たなカルト教団が現れる。

まさに、キリが無い状態である。


「カルト教団って言うのはなあ……信者達を洗脳して、お金を頂いたり、逆らうモノは粛清させたりと、人を騙す能力に優れた恐ろしい一団なんだぜ」


俺の話を聞いたルビアはポカーンとしている。

ふふ……あまりにも恐ろしすぎたようだな。


「それが、この女神教でも人を騙す事をしているのならば、見過ごす訳にはかかないわね!

汚物は消毒させないといけないわ!」

「いや、あの、あくまでも、女神教が腐敗していたらの話だよ!もしかしたら、全く問題のない宗教かもしれないじゃん!」


腕をぶんぶんと振りながら、恐ろしい発言をしたルビアに、俺は慌てて説得をする。

こんな場所で女神の怒りを買ったら、絶対にここに住む住民達は只じゃすまん。

ルビアは、平気で人も殺せる。

何故ならば、ルビアこそが俺をこの世界に呼び寄せ、神の名を持つ女神なのだ。

暴走したらマジでヤバイって!


「そうね、まだ灰色といった所だわ……黒なら消毒しないとね!」

「頼むから物騒な事は勘弁してくれよ!」


しかし、本当にこの神聖セリア教国って言うのはキナ臭い。

神聖セリア教国から遠く離れたパラミア王国にも知れ渡るほどに有名な女神教らしいのに。

女神である筈のルビアは、あまり信仰していないらしい。

この街に住む住民の殆どは白装束を着る人だらけで、俺たちの衣装は明らかに浮いている。

なので、常に視線を感じるほどに、俺たちを覗いている住民達がうろついていた。


「ねえ、貴方達は、外国の人なの?」


一人の小さな少年が疑問に満ちた表情で俺たちに話しかけてきた。

子どもだけあって、俺たちに興味津々だったのだろう。


「ああ、そうだよ。ちょっと神聖セリア教国に用があるんだ。直ぐにこの国から出るから、心配しなくても大丈夫だぜ」

「そうね、私を信仰しない偽物の女神教なんて、用が済んだら、さっさとこの国から抜け出すわ!」

「あ、こら!いらん事を言うな、馬鹿!」


ルビアは悪そびれた様子もなく、この国の悪口を言い放った。

その表情はドヤ顔で、信者達に刺激しそうなほどに堂々としている。

アカン、信者達にケンカを売る事はしちゃいかんよ!

下手をすれば暴徒となって俺たちに……


「この人達は異教徒よー!」


別の若い女性がそう叫んで、辺りはさらにざわざわとした雰囲気に変わっている。

ちょっと、これは、ヤバイ雰囲気かも知れない。

気が付けば、俺たちは白装束を着た信者達に取り囲まれている。

入国して早々に、住民達を敵にまわしてしまった。

どうしよう……


「何よ! 私を誰だと思っているの! 私は聖女よ! 異教徒なんてふざけた事を言うなら、ぶっ殺してやるわ!」

「おい、やめろ、馬鹿!これ以上、信者達を挑発させるなって!」


俺の必死の説得も虚しく、辺りはさらにヒートアップしていった。

もはや俺では、この騒ぎを止める事が不可能になってしまう。

そして、白装束を着た信者達は、俺たちを憎悪に満ちた表情で、罵倒し始めた。


「異教徒が聖女だと!? 貴様は女神教を侮辱しているな! 女神様の神罰が下るぞー!」

「いいえ、あの女は、私達を救ってくださるキンゲル教皇様が処罰してくれるわ! 女神様が出る幕じゃないわ!」

「異教徒の分際で偉そうに言うなー!」

「異教徒からどうか私をお救い下さい……キンゲル教皇様……」


状況は、悪化の一途を辿り、すっかりと信者達のブーイングの嵐である。

気分は大勢の人達に糾弾をされた状態だ。

ヤバイ、精神的なダメージがかなり来るぞ。

これが信者の力なのか。

だけどさ、本物の女神様にケンカを売って大丈夫なの?

ルビアさんの顔色が徐々に不機嫌になりながら、怒りを込み上げているのを感じてくる。

このままでは、非常にまずい。

 


「ふふふ……もう我慢できないわ! こんな国、さっさと滅べばいいのよ!」

「お、落ち着いてくれ! ルビア! せめてこのキンゲル教皇の話だけでも!」


「そこまでだ!」


偉そうな白い衣装を着た一団がその発言を放っただけど、辺りは静まりかえってしまった。

どうやら、本当に幹部らしき人物が登場したらしい。

ルビアも、突如に湧いてきた男に、きつく睨みつけている。

いかにも、女性にモテそうな、このいけ好かない金髪のイケメンは、いったい何者なのだろうか?



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