12話 瞬殺
ニヤニヤと笑いながら近づいてくる二人組。
彼らは、異様な姿をしている。
片方の翼だけを持ち、6本もの腕を持っていた。
明らかに魔族だ。
知性を感じなかった魔物とは違う。
「ふむ、大魔導師の戦力は、なかなか侮れないようだな」
「そうですね。人間の分際にしては、そこそこの力をもっているようですな」
なんだ、こいつら、俺たちの力にビビっていないぞ?
あれだけ俺が無双していたのにな。
魔族からしたら、あの魔物の軍勢も雑魚だったのか?
「ついに姿を現したわね!」
ビシっと魔族に向けて指を指すルビア。
元気だな。
俺は、テンションタダ下がりだよ……
体を動かし過ぎて、もうヘロヘロ。
「元気のいい娘だ。 フフフ……大魔術師の女を実験材料にするのも悪くないな。さらなる強力な魔物が作れるかもしれない」
「それは、いい考えですな」
完全に、こいつらは、俺たちを油断している。
まあ、俺は満身創痍で、あの女魔術師も、王子を護衛しなきゃいけないから、その場で待機していて、動けない。
戦えるのは、ルビアだけだ。
普通の人間なら、絶望的な状況だろう。
まあ、普通の人間だったらだけどな。
「言いたいことはそれだけ? そろそろ消毒してもいい? 目障りになってきたわ!」
「口のきき方に気を付けろ! この方を誰っ!!!!」
気が付けば魔族の一人の首が引きちぎられていた。
何をやったんだ?
俺でも見えなかったぞ!
「口のきき方に気を付けるのは、そっちでしょ……汚物如きが調子にのるなあああああ!」
「ぐ、貴様、よくも、俺の部下を!」
戦いが、始まった。
一方的ともいえる戦いだ。
無数の水柱と、光線が入り乱れながら、魔族に襲い。
避けきれずにまともに食らってしまう。
反撃ですら、させてもらってない。
どうやら、ルビアは、体力を温存しながら、戦っていたようだ。
まあ、魔族が居るのを知っていたなら、手の内を見せるのは失策になるしな。
くそ! 俺は、まだ力不足って事かよ!
ルビアは、今までにないほどの魔力を溜める。
どうやらトドメを刺すようだ。
空を覆い尽くすかのような、無数に出現した、水の刃
まさに圧倒的である。
「馬鹿な……人間如きがこの俺があああああああ!!!!」
「汚物の敗因は一つ! 私の前に姿を現した事よ!」
無数の水の刃に斬り裂かれながら、魔族は、絶命してしまった。
ルビアさんは、相変らず容赦がない。
流石は、汚物と暴言を吐くだけは、あるな。
……あれ? 俺の出番は無し?
その後、魔物の襲撃は、すっかりと無くなり。
俺たちは、無事に、フローゼス王国の首都へ辿り着く。
王城へと案内された俺たちは、家臣からも歓迎されている。
「君たちに護衛を頼んで本当によかった。お蔭で、無事に祖国へ辿り着く事が出来たよ」
「本当にありがとう! この恩は忘れません。何か困った事があれば、あたし達に相談して下さいね!」
「キャリー……君は、まだ私の専属メイドだろう。頼むから、自重してくれ」
もうこいつら爆発しろよ。
完全に出来ているだろ。
くそ! うらやましい奴め!
「では、これが、今回の報酬だ。受け取ってくれ。」
「ありがたく受け取ってやるわ!」
家臣らしきおっさんの人物に、袋詰みにされていた、大量の金貨を受け取った。
これだけ資金があれば、当分は、無一文にならずに済むな。
……この世界の相場は知らんけどな!
「これだけのお金があれば、当分は依頼をサボれるの」
とんがり帽子を被った女魔術師もニヤニヤとお金が入った袋を見つめていた。
やはり、かなりの大金のようだ。
金貨を受け取った後、俺たちは、家臣たちに敬礼されながら王城を後にした。
うむ、英雄になった気分を一時的に味わえたぜ!
「なあ、クレリウスは、これからどうするんだ?」
「当分は、この首都を拠点として活動するの。」
「この国を拠点にするのは、悪くない選択ね」
「じゃあ、ここでお前とは、お別れか」
「うん、貴方達が仲間じゃなかったら、私は、死んでいたの。ありがとう。」
そう言ってペコっと頭を下げる。
見かけによらず、礼儀正しい人だな。
「あ……聖石を返すのを忘れていたの」
そう言って慌てながら、ガサゴソと聖石を袋の中から取り出す。
「返さなくてもいいわ! これは、貴女が持つべき物よ。貴女も、あの魔族を見たでしょ? これからは、あの集団が軍勢となって襲って来るわ! それは、保険として取っておきなさい!」
「確かに、この石が無いと、戦うのは、厳しいの。魔族なんて、神話の話だと思っていたに……」
タダで貰って、喜ぶかと思えば、しょんぼりと落ち込むクレリウス
神話の時代か。
今までは魔族が全く居なかったって事だよな?
なんで、頻繁に侵略してこなかったんだろ?
謎が深まるばかりだぜ。
「カズキ! そろそろ、私達も行くわよ!」
「おう!」
「じゃあ、またどこかで会うの。その時は、立派な聖女と勇者になっているのを期待してあげる」
そう言ってニッコリとほほ笑んでいる。
ふふ、そんなに期待されちゃったら、プレッシャーで押しつぶされちゃうよ……
期待に応えなくてはいけないのは、辛い。
まあ、出来る限りは、期待に応えてやらないとな。
「ああ! かっこいい勇者になってやるぜ!」
そう手を振りながら、俺は、クレリウスと別れて、ルビアと一緒に目的地である神聖セリア教国へと向かう。




