11話 大襲撃
ここは、魔族が隠れ住んでいる、洞窟。
二人の魔族が今、新たな魔物を完成させようとしていた。
「……で、魔物の出来はどうなっている?」
「クライス様が納得するほどの出来で御座いますよ」
不気味にそう話す、二人の魔族。
彼らは、人間界に侵入した第一陣の部隊であり、その一団を指揮していた別動隊だ。
まだ、魔族が表に表すのは、時期が早すぎる。
クライスは、本格的な進行が始まるまでは、魔物を積極的に強化させる研究に明け暮れていた。
そして、その実験結果の相手をしてもらうのが、暗殺対象であるアルファンス第二王子。
すでにフローゼス王国は、多くの有力者が謎の死を遂げてしまい、残る有力者は、アルファンス王子だけとなってしまっている。
フローゼス王国で巻き起こっている謎の死は、女神教の資金を寄越さなかった原因で引き起こされた。女神の裁きが授かったと伝えられる始末だ。
この二人によって、暗殺された事に気づいてすらいない。
実に愚かな人間である。
「今回は、俺が直々にお出まししてやるか」
「クライス様が出る幕は、無いと思いますが」
「いや、実験結果の様子を観察したい。アルファンス第二王子は、人間で最高のランクである大魔術師が護衛に雇われている情報がある。人間の最高戦力がどれほどなのかを、確かめるのに、丁度いい」
そう、大魔術師は、人間で、最大の戦力だと言う噂を聞いている。
まだ、クライスは、大魔術師と戦ったことが無い。
しかも、アルファンス第二王子には、雑魚の魔術師一人を除いて、二人も大魔導師が護衛をしているらしい。
まさに、相手にとって不足なしの人間だ。
故に戦ってみたい。
おいしい餌を逃しては、ライバルに先を越される。
「なるほど、確かに、下等生物の最大戦力が、どれ程の者なのかを確かめなければなりませんな」
「精々期待させて貰おうか、俺の最高傑作の魔物に敗れるようでは、全く歯ごたえがないからな……フハハハハハハハハハハハ!!!!」
そう高笑いをしながら、クライスは、部下の魔族を引き連れて、
アルファンス第二王子の元へ向かう。
魔族と魔物による襲撃が始まる。
最大の危機が、カズキ達に着々と襲い掛かろうとしていたのであった。
今は、夜だ。
一人ずつ交代制で夜盗や魔族の襲撃を知らせる為に
護衛の登板である俺は、ひたすら辺りを見渡していた。
チートである勇者のお蔭で
警戒していれば、物陰の音や気配なども敏感になれる。
サーチ能力が備わっている気分だぜ。
そして、俺は、そのサーチ能力で、なにかとてつもない群れの気配を感じ取る。
なんだこれ? ひい、ふう、みい……途中であまりにも増大な数だったので、俺は、数えるのをあきらめる。
しかも、その数えきれないほどの魔物の群れが俺たちに近づいてきているじゃないか……!
いかん、早くみんなを起こさないと!
慌てながら、俺は、眠っているみんなを起こしに向かう
「みんな! 大変だ! 魔物の群れがこっちへ向かってきている!」
「もーなによー気持ちよく眠ってたのに……迷惑な汚物ね!」
「それは本当なのか? カズキ」
王子は真面目な顔で俺に見つめている。
本当だとも。
マジで凄い数だから……
「ああ、数えきれないほどの群れだ」
俺に起こされたクレリアスも慌てて、暗闇の夜に広がる草原を見渡し、そのあまりの数に動揺も隠し切れない様子だ。
「凄い数なの……」
それは、王子も、メイドも変わらない。
約一名だけは、魔物をジェノサイドしたそうにウズウズしているけどな……。
「あたし達が襲われた時は、あんなに数は、居なかった……。フレリアス王国に住んでいた王族達も、急に大勢も亡くなってしまったし、やっぱり女神様の天罰なのかな……」
「馬鹿を言うな! あれは、詐欺教団だ!天罰とぬかす奴らの戯言を信じるな!」
そう言ってアルファンス王子は、涙を流したキャリーに抱き着いている。
なるほどね、フローゼス王国の王族は、謎の死を遂げている。
俺は、イーリスが、有力者を暗殺しようとしているのを、燃え盛る炎の中から聞こえていた。
既に魔族の本格的な活動は始まっている。
王子様も、きっと暗殺対象にされてしまったのだろう。
俺も歯を食いしばらなければならない。
初めての死闘が始まるのだから……
だが、ただ一人だけ、全く緊張感が無い。
深刻な表情を浮かべているアルファンス王子たちとは、逆に、興奮してきていると言ってもいいだろう。
「うふふふ……凄い数だわ! あんなにたくさんの汚物を消毒できるなんて、なんて幸せなの! しかも魔族の気配までするわ! わざわざ死にに来てくれるなんて、なんて愚かな連中なのかしら!」
ご覧のありさまである。
お蔭で、俺は、命の危険性を全く感じていない。
ルビアの望みは、魔族を殺す事。
俺もそれは、同じだ。
勇者である俺がヘタレになってしまっては、いけないしな。
だから今回は、本気でいかせてもらうぜ!
「どうして、ルビアは、そんなに笑っていられるの? あの魔物の数だと、倒しきれずに、殺される可能性が高いし、倒しきれずに魔力が切れが起きてしまうの」
「じゃあ、魔力切れが起る危険性があるなら、これを使いなさい!」
そう言って、ルビアは、両手で握りしめながら、手の中から光だし、その両手から突如に出現した、光る石をクレリウスに渡す。
「これは、なんなの!? 魔力結晶とも違う……なのに、魔力が増幅しているようなのが、感じる!」
「それは聖石よ! 真の聖女だけしか、創りだす事が出来ない伝説の石。貴方なら使いこなす事が出来るから、特別に一つだけあげるわ!」
「それって、俺にも効果があるのか?」
「魔力抵抗が強すぎるから、効果は無いわね……」
「そんな事だろうと思ったよ!」
とことん、俺は脳筋勇者の道へ歩んでいるようだ。
いいさ、魔法が全く使えないわけじゃない。
MPが0の勇者よりはマシさ……
「カズキには、大切な役割があるから大丈夫よ!」
「そうなの。魔力抵抗が強力な前衛の剣士だなんて、こんなに最適な人はいないの!」
「どうしたんだ? 二人とも、そんなに目を輝かせて……」
「メイン盾は、任せたわ! 私達は援護射撃をするから、貴方は魔物の群れに突撃するのよ!」
「俺を殺す気か……」
「心配しないで! カズキなら、きっと大丈夫よ!」
「きっとってなんだよ! そこは、絶対って言ってくれよ!」
「カズキの犠牲は、無駄にしないの。だから、心配しないでいいの」
「勝手に殺すなよー!」
そうさ、この程度の試練など、勇者である俺にはどうとでもない雑魚の敵さ。
そうに決まっている。
俺はやれば出来る男だ!
魔物の群れなんて、俺の一振りで殲滅させてやる!
「分かったよ……やってやるよ!」
「その意気よ! それでこそ勇者だわ!」
「もうなにも怖くないの」
俺は、彼女たちの声援を聞きながら、魔物の群れへ突撃する。
こんな数えきれないほどの群れに突撃する俺は、無策に突っ込む自殺願望者と言った所だ。
だが、俺は死ぬ気ではない。
この戦いで生き残ってみせる!
今回は、強化魔術は、足に集中させている。
逃げ足が速くないと、はめ殺される危険性があるしな。
早く、全身に強化魔術を施せるようになりたいぜ。
横から飛び出して来た様々な動物が融合しているかのような魔物を、透かさずに、俺は、持っていた剣で両断させる。
うむ、やはりこの剣は凄いな。
普通なら、直ぐにポッキリと折れそうなんだがな。
魔族の製鉄技術力は、流石といった所か。
一斉に魔物が襲い掛かるが、光線を浴びて、一気に蒸発してしまう。
援護射撃だ。
ちゃんと俺を助けているな。
頼むから、俺には被弾させないでくれよ
大量に襲い掛かって来る魔物を、俺は、何度も回避する。
無人島で何度も魔物とは、戦った。
お前らの行動パターンはお見通しだぜ!
ふふ、魔物たちがスローモーションのように見える。
効率よく、俺は、徐々に魔物を始末していっている。
熊のような力強い一撃も、俺には通用しない。
蜘蛛のような素早い敵も、難なく捉える事が出来る。
デカい魔物も小さい魔物も、既に俺の敵ではない。
もうなにも怖くない。
数十分の間、ひたすら魔物を始末するのに集中していた。
既に、殆どの魔物を全滅してる。
まさか、俺一人と複数の援護射撃だけで、ここまで殲滅できるとは、思わなかっよ。
だが、まだ戦いは終わっていない。
大きな騒音の音が鳴り響く。
また、新たな魔物が現れたか!
「……なんだ、あれ?」
俺の目の前には、巨大なゴーレムのようなデカい魔物が姿を現していた。
デカすぎる……あれって、斬れるのか?
しかも、よく見れば、様々な骨が集まった、スケルトンみたいな魔物じゃないか!
「うわ、こっちに来やがる!」
巨大なゴーレムは一斉に分離した。
無数に分離して、骨となった物体が俺に襲い掛かる。
なんてデタラメな攻撃だ。
しかもファンネルのように不規則に移動している。
数が多すぎて仕留めきれない!
「うわああああああ!!!」
俺はなすすべなく骨の海へと沈んでいく
なんて重圧だ。
このままでは押しつぶされる。
早くなんとかしないと!
あれ? なんか急に水があふれてきたぞ!
ヤバイ、重圧で死ぬ前に溺れ死ぬって、やめろーーー
「いつまで苦しんでいるのよ! さっさとこの目障りな骨を始末させるわよ!」
気が付けばルビアが俺の元へ駆けつけていた。
骨もいつの間にか分解されている。
また、不規則に骨は、回りをぐるぐるとまわり始めていた。
「流石のカズキも、まだ、あれは消毒できそうにないわねえ……」
「うん、あれは、無理ッス」
「仕方ないわね。私が一気に片付けてあげるわ!」
そう言って、ルビアは、動き回る骨に大量の水の塊を出現させる。
その量は、かなりの水量を秘めていた。
「水圧で砕けなさい!」
水に飲みこまれた骨は次々と砕かれてしまっている。
すげえ……あんなのを真面に食らえば、殆どの生物は死んでしまうな。
ルビアは、一つも残さずに、きれいさっぱりと、骨を粉々に砕かれた。
「ふう……これで終わりか。つらい戦いだったぜ」
「いえ、まだ戦いは、終わってないわよ!」
ルビアは、まだ警戒を解いていない。
そうか、魔物の襲撃を仕掛けた、黒幕が居るって事だな。
そして、その予想は、正しかった。
一部始終を覗いていた魔族らしき人物が森の影から二人も姿を現した。




