9話 護衛依頼
決闘に勝利した俺に、審判をしていた婆さんが駆けつけて、そのまま話しかけてきた。
ふむ、なんの用だろう?
「しかし、流石は魔族を倒したと言われる聖女じゃのう……配下までもが、これほどまでに規格外だったとは予想外じゃわい」
「あれ? ルビアってもう魔族を倒したのか?」
「ええ、そうよ。まあ、相手の魔族は雑魚だったけどね。それにしても……よく私が聖女だって分かったわね!」
そう言って老人はニッコリとほほ笑む。
「当たり前じゃ。魔術師ギルドは、全国に出店しておる。わしらの情報網を甘く見て貰ったら困るわい」
どうやら、ルビアが討伐した魔族は直ぐ様に魔術師ギルドに情報が伝達したようだ。
組織力が高いな。
素直に尊敬するよ。
敵にまわしたら、かなり恐ろしい存在になりそうだ。
「そうじゃわい、おぬしらにお勧めの依頼があるのじゃが……これとかどうじゃ?」
そう言って、老人は一枚のチラシを俺たちに配る。
なになに……って、読めない!!
当たり前のように意味不明な文字が書かれている。
あかん、言語には対応していたようだが、文字は対応していなかった。
「なになに? 護衛依頼? 行先は、フローゼス王国の首都か……へえーなかなかいい依頼ねえ。食糧もタダなんて、太っ腹じゃない!」
「そうじゃろう。ルビア様は、神聖セリア教国へ向かうのじゃろう?そこへ向かうついでの移動先としては、うってつけじゃ」
「神聖セリア教国? 何しにそこへ向かうんだよ」
「魔族の脅威を知らせる為よ、後は、女神教の信仰力がどれほどなのかを確かめないとね」
なるほど、魔族の脅威を知らせるなら、信者たちを利用するのも悪くない。
魔術師ギルドは、あくまで、魔術師限定の情報網だしな。
そのセリア教国は、この護衛依頼が向かう国に近い位置らしい。
実に都合がいいタイミングだ。
「目的地に向かうついでに、金ももらえるなら、言う事なしだな」
「そうね! この依頼、私達が受け取るわ!」
「そうかい、そうかい。いやーいいタイミングで来てくれたわい。この依頼は、ある程度は、信用できる人物に護衛させたかったのじゃ。聖女様なら、その心配もないじゃろう」
そう言って婆さんも満足したかのようにニヤニヤとしている。
信用できる人物か、照れるなあ
まあ、ルビアの威光を俺も少しだけ授かっているだけだがな。
勇者って、知名度が低すぎるだろ……
翌日、俺たちは護衛依頼の依頼人へと駆けつけた。
服装はボロボロの衣装じゃなくなっている。
あの婆さんが綺麗な衣装をタダで貰った。
実に太っ腹である。
婆さんの話によれば、これは先行投資で恩を売り、長いお付き合いにさせて貰うつもりらしい。
「あれが依頼人か」
馬車を一台所有している付き添いのメイドと貴族のような恰好をした若い男性が一人たたずんでいる。
おや? 決闘した時の女魔術師も居るな。
彼女も俺たちと同じ護衛を授かったのだろうか。
そう思考している間に、依頼者へ近寄った俺たちは、貴族の男性にあいさつをする。
「今回、護衛の依頼を授かったカズキです。短い間でしょうが、よろしくお願いします」
「私の名はルビアよ!護衛される事を光栄に思いなさい! どんな悪党が襲撃してきても、全て消毒させてあげるわ!」
そんな偉そうな態度で大丈夫なの?
いつもどおりの対応を取るルビアに、俺は、軽く焦ってしまう。
「これは、これは、……私も強くて美しい女性に護衛されるのなら、これほどうれしい事はない」
そう言ってルビアの発言にも気にせずニッコリとほほ笑んでいた。
なんか、俺だけハブられてるような気がするぞ?
多分、気のせいだよな、うん……。
「まさか貴方達も護衛の依頼を授かっていたなんて、知らなかったの」
そう言って俺たちに近づく女魔術師。
「護衛が揃ったようだし、自己紹介をしよう。私の名は、アルファンス。 フローゼス王国の第二王子だ」
「あたしは、王子様の愛人であるキャリーです!」
「こら! 勝手に愛人になるな!」
そう言って困惑している王子。
第二王子とか、凄いお偉いさんじゃないか……
「私は、クレリウスなの。よろしく」
杖を持った女魔術師がそう頭を下げて自己紹介をした。
「……一つ質問をよろしいでしょうか」
「む、なんだ? これからは、共に歩む仲間だ。好きなように質問をしても構わん」
「何故、アルファンス様には、護衛の騎士や兵士を連れていないのですか」
俺の疑問は、これだ。
いくら、有能な魔術師を複数も雇っていても、信頼の出来る自前の兵士達も居てもいい筈だ。
だが、実際はメイドと二人旅。
まさか護衛が要らないほどに強いのかな?
「疑問に思うのは、もっともだ。護衛が居ない理由……それは、全て全滅したからだ」
「全滅した!?」
「恐ろしい魔物たちがあたし達に襲ってきたの! 命からがらになって、この街に避難してきたのよ」
そう悲しみながら訴えるメイドさん。
どうやら、旅の途中で魔物に襲われたようだ。
それは、魔族の仕業なのだろうか?
また、厄介な騒動に巻き込まれたかもしれない。
「襲撃した魔物は、未だにアルファンス様を狙われている可能性が高い。十分に注意したほうがよさそうなの」
「汚物の気配がするわねえ……ふふん、相手から来てくれるなら手間が省けるわ!」
クレリウスは、真面目な表情で語っているが、ルビアは、逆に上機嫌だ。
こいつは、魔族をジェノサイドする事しか頭がないのか?
「そういう事だ……私はなんとしてでも、国へ帰らなければならない。どうか、護衛をよろしく頼む」
そう言って頭を下げる王子。
頭を下げるほどに、お願いされるとなると、王子もかなり必死なのだろう。
偉そうな王子様よりは、好感は持てる。
それに、王子様を護衛するのも、なんか、勇者っぽい仕事だし
かなりやる気が出てきたぞ!
「安心してくれ、俺たちは、必ずアルファンス様を国へ送り届けます。何故ならば、俺は勇者になる予定ですから」
「ははは、勇者とは、大きく出ましたね。勇者の名にふさわしいご活躍を期待させてもらうよ」
王子はそう言ってほほ笑んでくれた。
よし、場を和ませる事は出来たな。
暗いムードにならなくてよかったぜ。
自己紹介を終えた俺たちは、そのまま街から抜け出し
長い旅が始まった。




