0話 プロローグ
あれ?
ここは何処だ?
俺はその場で立ち上がり、辺りをキョロキョロと見渡したが、真っ白な世界で何もない。
まるで、夢のような世界だ。
「夢か」
不思議な夢を見たものだ。
そう納得して、俺は再び寝転んで目を瞑り、夢の中で二度寝する。
ふう、夢の中でも眠れるなんて……流石は俺だな!
「こらー! 寝るんじゃないわよ!」
ぐっすりと眠っていた俺に、突如として、頭に拳が叩きつけられたかのような激痛が襲う。
あまりの痛さにゴロゴロと寝転びながらうずくまる。
どうやら誰かが俺の頭を殴ったらしい。
とっさに目を開き、俺を殴った不届きものの姿を眺める。
俺を殴った相手は、見たことのない衣装を着ている、青髪の女性のようだ。
「なんだ? 夢の世界で俺を怒らせていいと思ってるのか? その気になれば、お前は、一瞬で消えてしまうぜ!」
「夢じゃないわよ!ここは現実よ!」
ドヤ顔でそう話す女性。
なんだ、どうやら俺の頭を殴った相手は電波女の不思議ちゃんだったようだ。
変な夢だな。
「こんな真っ白な場所のどこが現実なんだよ」
「ここは私が創りだした世界よ。この程度の創造なら朝飯前だわ!」
そんな事を言ってドヤ顔でかます女性。
どう見ても頭が可哀そうな人物である。
新手の宗教勧誘かなにかか?
俺の友人がその手の詐欺に引っかかって大変な目にあったらしいが
その手の詐欺は、俺には引っかからないぞ!
「なあ……一度だけ、診察をしに行った方がいいぞ」
「私は病気になってないわよ!」
そう怒鳴った女性は拳を握り、俺の腹を突如として腹パンしてきやがった。
あまりの速度に反応できない。腹は鈍い痛みを襲いながら、俺はその場で倒れてしまう。
「痛ってー!」
「大体ねえ……夢が痛みを感じる筈がないでしょう。」
確かに夢で痛みを感じるのは聞いたことも無い。
まさか本当にこのキナ臭い場所は、現実なのか?
未だに腹を痛んでいる俺はその場で立ち上がり、座り込んでいる。
「仮に現実だったとしても、俺を呼び寄せた理由ってなんだよ」
女性を見上げながら俺は質問をする。
俺はちょっとだけ運動神経がいい、只の高校生だ。
きっと、何か隠された力が俺に宿っていたとでもいうのか……!?
厨二病は厨房の頃に卒業した筈なんだがな……
「貴方は勇者になってもらうわ! 人間界に侵入した魔族を皆殺しにしなさい!」
「はっ?」
あまりにも唐突にファンタジーのような話をする女性の言葉に、思わず開いた口がふさがらない。
やべえよ……こんな非現実的な話をされても俺が困るんですが。
「あのー……それは、強制なのですかねー?」
「別に強制って訳じゃないわ。でも勇者になれば、最強の力を与えてやるわ!」
最強の力……ほしいなあ……って、いかん!
明らかにキナ臭い話に思わず釣られてしまう所だったぜ!
危なかった……
「フッ……俺に最強の力なんていらないよ。今の平凡な生活が一番さ」
座り込んでいた俺は、痛みを我慢しながらここぞとばかりにかっこよく立ち上がり、決め台詞を喋った。
今の言葉は決まったな。流石は俺だぜ!
ふふ……流石に俺のお断りは、少しばかり効いていたようだ。
女性の顔がジド目になりながら、こちらを見つめている。
そんなに見つめても、俺は撤回しないぞ!
「勇者になれば周りからチヤホヤされて、女性からモテモテになれるわよ!」
「勇者になります!」
やるしかい。
俺を救いに求める人達が居るなら、助けにいくのが善人としての務めだ!
望む所だ……!
俺は魔族を全滅させてやるぜ!
これが勇者としての務めだ!
「じゃあ契約成立ね!」
そう言って女性は俺に近づき、まさかの口づけをした。
あまりの出来事に俺の顔は真っ赤にそまっている。
ヤバイ、女性にキスされるなんて初めての体験だ。
まさか、この女は俺に惚れていたのか!?
「はあ……なんで私の契約の証が口づけなのよ……神に恨んでやるわ!」
そう言ってキスをした女性は、不機嫌になりながら後ずさりしていた。
どうやら、契約に必須の事だったらしく、嫌々で俺をキスしたらしい。
一気に俺の繊細な心は冷え切ってしまった。
「これで貴方は勇者としての能力を備わったわ! 後から私も駆けつけてやるから、それまでに死ぬんじゃないわよ!」
「あのーちなみに、魔族はどのくらい居るんですかね?」
不安げに質問してみたが
俺の疑問はそれだ。
人間界とやらに侵略した魔族がどれほどの規模なのかを把握したい。
「わからないわ!」
「えっ!?」
そんな馬鹿な……そんな状態で俺を異世界へ放り込む気なのかよ……
とんでもないブラック企業に入社した気分になってきたんだが
本当に大丈夫なのだろうか?
「大魔王は、魔界で待機しているようだけど、その魔王の部下が、人間界に侵入しだしたのは確かよ。 私の汚物センサーがビンビンと感じたからね!」
「なんだよ……その汚物センサーって……」
「汚くて見ているだけで不愉快になる魔族の事よ!」
そう言い放った彼女はふふんと、自信に満ちた表情で、はビシっと指をさしながら俺にかざした。
随分と酷いあだ名を付けられているな……
まあ、人類の敵のようだし仕方ないか。
「そうそう、魔族が多く潜伏してそうな大陸に放りだすけど、そろそろ準備はいい?」
「その前に、貴女の名前を教えてくれ。せめてナビゲータ的な意味で色々と助言が欲しいのだが」
「私の名は聖女ルビアよ。この世界を管理している女神と云った所ね!」
聖女と女神のどっちなんだよ……
まあいい、もう俺の覚悟は決まった。
なんだかんだでワクワクしてきたぜ!
どうせ夢なんだしパーっと楽しまないとな!
だが、そんなわくわくしている俺に突如として白い穴に吸い込まれながら落ちて行った。
「ぎゃあああああああああああ!!!」
「それじゃーがんばって汚物を消毒するのよー!」
俺は、身もふたの無いルビアの言葉を聞きながら、そのまま意識を失ってしまった。