最終話
東京に戻った新九郎は柄ではないと承知の上だったが、千菊を諭しておこうと考えた。
「お千、お前はまだ高校生だ。新十郎を婿にとるとらない、は別として、せめて大学だけは出ておけよ」
「ふむ、新九郎殿はわらわとの婚儀の話を無かったことにしようというのじゃな。この才色兼備のわらわを選ばんとは、御主も見る眼がないのう」
千菊は自分の婿候補と決められた新十郎が近江に帰ってしまって気楽になったせいか、あるいは一旦は嫁になると宣言した新九郎への気遣いからか、そんな風に強がって見せた。だが、ここは譲る訳にいかない。
「いいか?お千、ひとつ教えておいてやろう。お前は以前麻美を側室呼ばわりしたが、麻美は日本の最高学府と呼ばれる大学で、全教科でA+の成績を取り、しかも学年トップの座を守り続けている才媛だぞ。剣道の腕も一流だったろう?才色兼備とは麻美のような女のことをいうんだ」
「まあ、麻美は胸はないがの。しかし全教科でA+?なんじゃそれは」
「胸の話は麻美の前ではするな。オールA+は日本語で言えば、全教科優より上の成績だということだ。お前の学校の通知表のトップがオール五なら、麻美はそれより上ということさ」
「なんと、麻美殿は賢い女子よの。胸はわらわに負けるが」
「胸々と上から目線で言ってんじゃねえよ。俺は無駄ボインのお前より、麻美の控えめな胸のほうが好きだ。それよりお千、お前が将来新十郎を婿に迎え、その正室の座を欲するというなら、麻美以上の成績を取らなくてどうする?」
「ううむ、相変わらず新九郎は厳しいのう」
「まあ、麻美よりいい成績を取るのは無理としても、せめて大学くらいは出ておけと言うことだ。お前は伊達の宗家を継ぐ可能性がもっとも高い女だ。経験はともかく、部下になる者より知識も学歴も積まなくてはなるまい」
「あい分かった。ではわらわも京極殿の下宿に住まいして、東京の大学を目指すことにしよう」
「おいおい、結局それじゃあ、今までと何も変わらねえじゃないか」
千菊と新九郎のやり取りを観ていた麻美が横から助け舟をだす。
「いいよ千菊ちゃん、勉強ならボクがいくらでも教えてあげるから」
「うむ、麻美殿かたじけない。これからもよろしく頼むぞ」
結局、千菊は麻美と一緒に新九郎と暮らし、やがて上京してきた新十郎とともに東京の大学に通う事となるが、それは別の物語として語るべきだろう。
いずれにしても、彼らは新九郎の一族となり、これからも浅井家と伊達家を盛り立てて行くことになる。それは麻美の養い親である定近と亜理須が目指してきた、この世界の再生にも繋がっていくことになるのだ。
参考資料:二天一流「武蔵会」の剣道二刀流技術書
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