学校
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それから・・は随分と早かった。
あれから役場の職員に提案された話を概ね受ける形になって――
一般常識云々が全く分からない自分に無償で教育の場を提供してくれ、一人だけで女性と言うのもあり、同じ”迷い人”出身の男性、”エルンスト”を遠縁として紹介してくれた。何歳か年上の先輩で(19才って聞いた)学院でも常にトップクラスの成績を誇っているエリートみたいで、いつもテスト前にお世話になってました。(すみません><;)
提案の内容だが、自分が元に戻る手がかりが見つかるまで、この国に居て生活をしてくれれば良いとのことだ。随分と甘いんだなぁ、と思ってたけど”迷い人”が高い能力を有してるのがこの世界の常識なので何かしらの保護策は各国用意しているのだと後でエルンストが教えてくれた。仕事が出来るようになるまでは、生活の保護も国から支給してくれるというので今まで暮らしてこれたのだ。
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ふと1年前のここへ来た頃を振り返っていた。今日は学校の卒業式。寒空の中、映写の術で友人達と今までお世話になった人々との記念撮影をしていた。
この学校ではクラスが色々なコースに分かれてて、私は基本科に入学していた。基本科は、どんな人も常識を習うために必ず入学するの。一通りの生活魔術(初級)と一般常識を。年代関係なく習えるので、色々な年齢の人が習いに来ていたから大学みたいだねって思っていた。
その上にも、中級科(高いスキルを付けたい人向け)や専門科(専攻コース)に分かれてるんだけどそんな頭はないし、金も無いので就職の道を選んだのだ。
友人の一人で超が付く内気少女の”アンネ”が話す。彼女は、明るい茶色のおかっぱヘアが愛らしいシュレーゼンの富農家のお嬢様だ。
「リサちゃんは、この後どうするの~?お仕事とか探してるんだよね、もう決まってるの?」
「う・・ま、まだ;」
あははーと曖昧に答えた。
「今は超氷河期だよ?リサちゃんほど強かったら一杯お仕事あると思ってたよ?」
「うーん、戦闘系の仕事が多いじゃない?こんな情勢だし。初心者にはハードルキツスギだよぉ;;」
「でも登録してるしいつか良いお仕事来るんじゃない・・?出会いは何か分からない所からやって来るものよ・・とりあえず登録しておけばよし」
もう一人の友人、呪い専門家出身の乙女の”イルメラ”が言う。
「リサが強いのはこの学校でも有名な話・・魔術・体術部門だとこのクラス(基本科)で勝てるものがいなかったじゃない?」
「いや、そのお陰で何とか後がカバー出来てた物だと思うし」
「・・・それもそうだったわ。リサは、・・お勉強が馬鹿だったわ・・・」
「酷っっ!!!」
半睨みでイルメラを見た。
彼女達と他愛無い会話をしてると、この1年あっという間だった気がする。勉学以外にもこの世界で得るものが多かったと思えた。そんな時、基本科の卒業メンバー達がざわめきを漏らした。
「「来たぞ、あいつだ。」」
「何だまたかよ・・・?」
「えぇ・・、こんな時までー」
誰が来るか何て、この1年間学校に行ってたのだ分かっている。彼女(あの女)が来たのだ。思えばあれのお陰で他の楽しかった思い出にまで、曇りが差していたのだ。私達3人はあれとあれの取り巻きにいつも被害にあっていた。嫌な言い方すれば、嫌がらせだ。特定の相手にするのだが、いい歳してやり方が陰険なのだ。
ある時には、教科書がボロボロにされたり。
またある時には、机の上にゴミが散らかってたりと。
証拠も何も明らかにそいつの仕業だと、誰が見ても明らかであったのだが・・それの家は基本科の中でも1,2を競う有力家の出なのだそうだ。(基本、基本科は市民コース。貴族の子弟には上流コースがある。)今までは家同士が仲が悪いと内気なアンネを標的に狙っていたが、新しく入ってきた私とイルメラも気に食わないと標的にされていた。
一体何がそんなに気に入らないのか、理解不能だ。そうこういってる内にそれ+取り巻き達が目の前に現れた。金髪縦巻きヘアのお嬢様あの女曰く”マルグレート”が高慢な挨拶をする。
「あら、嫌だ。最後までいらっしゃったのね貴方達。」
ふふん、と。
「貴方達みたいに社交性の無い方が同期で私不満ですわ。・・まぁ、先生方がお決めになってしまったのですからしょうがないですわ。本来なら、貴方達など・・社会に出ればすぐに恥をかきますわ。せいぜい今期卒業生の顔を泥で汚さないようにするのですね。」
取り巻き立ちも続けざまに口々に言いながら、マルグレートの後に付いて去っていった。嵐の目が過ぎ去った後。その場は、先程までの楽しげな雑談や歓声も無くなっていた。陰鬱とした気持ちが周囲を包んでいた。
これがかれこれ1年間・・はっきりいって心労はこいつらのせいだけだと言っても過言ではなかった。
「・・気にするな」
はっと振り向くと、エルンストが後ろに立っていた。私の頭にポンと手を置いてワシャワシャと撫でた。
「気にしてないって言ったら嘘になるけど、・・でももう会うことないし大丈夫だよ」
それは本当。接点がもうないからね。
青の髪、藍の瞳の眼鏡が似合う青年、この学校の専門科に入ってて保護者の様な存在の彼に向けて言った。
「ならいいんだが・・」
「ん、だいじょぶっ」
明日から学校も無い、永遠に合わない相手に腹を立てている方がもったいないと気持ちを切り替えた方が自分の為に良いのだ。
「それよりお腹減ったよー」
”相変わらずだな”と苦笑された。あれから友達達と、”通信連絡は続けようね”と話してから別れた後、帰りに卒業祝いに夕食を食べに連れて行ってもらえた。お腹も満たされて、明日から職業探しを始めるけれど、のんびりとしていても、職に就くまでは保護金がもらえる。長く続けられそうな、良い職にめぐり合いたいなと。