終わりと始まりと02
***
そこには大きな木々がそびえていた。
「それじゃあいいですか?思い切り飛んで、その木の一番高い所にチョークで印を付けてください。」
「分かりました。」
「じゃあ始めて下さい。」
跳躍をした、思い切り足を踏み、木に印をする為に・・だがそこそこの高さになる筈だった自分の跳躍は想像だにしなかった高さまで飛んだ。高い木々の上層まで上がっている自分に一番驚いたのはやはり当の本人で。以前には感じたことの無い感覚、体が軽い感じがした。
着地をした自分に男性職員が言う。
「ね、本当だったでしょ?」
「・・・うそぉ・・何で?」
「以前の”迷い人”データにもあったので言いますと、その人の故郷の重力とこの世界の重力とに差があったみたいです。リサさん同様に長けていたのが身体能力の向上だったようです。」
「重力ですか・・そういうのもあるんですね。」
てっきり個人のスキル、経験、技術や才能とかそういうのばかり思ってた。地球と月が重力違うんだし・・ありなんですね。某人気漫画ドラ○○○ールみたいですね。
「その当時の迷い人ですが、彼の職業は戦士でした。」
(戦士っ・・戦士ですと?同じタイプなので私も・・ですか!?元文化部なのに?)
「ああ、そんな顔しないでくださいよ。大丈夫ですよ、何も身体能力が優れてるからと言って戦いだけじゃないですから。」
こほん。
男性職員は再び書類を出して話を続けだした。
「その能力を活かせる職業はそれなりにありますので職には困らないでしょう。」
間があった。非常にいいにくそうに彼は言った。
「・・それで”元の世界に戻る方法を探している”と書いて貰ってるのですが・・・非常に言いにくいのですが、過去”迷い人”がこの世界に少なからずやって来てはいるのですが・・・帰っていった話はないのです・・」
間があった。今彼は何と言っただろう。
”帰っていった話はない”
「帰れ・・ない・・?うそ・・」
「本当にお気の毒ですが・・」
私はその場にへたり込んだ。鈍い頭に響いた事実。
大して思い入れをしてなかったリアルな世界だと思ってた場所。けれど、いざ無くなってしまうと聞いて・・ただ、呆然とした。当たり前の世界だと思っていたそこに。でもそこに自分の場所があって、周りがあって・・それが唐突に終わりだと思うと声が出なくて空を噛み震えた。
一体、何に対して向ければいいのか分からなかった。
一時期立てば元の世界に戻れる王道、そんな甘い考えはこちらの世界のリアルにはなかったのだ。それでもまだ願う。”元の世界に戻りたい”、と。希望を消したくはなかったのだ。そうでなければ、自分が自分で分からなくなるとそう思ったから。こちらでまず生活が出来るようになる事を考えて・・それから、手がかりになる物を探しに行こうと思う。
”それが今の自分の目的なのだ”と、男性職員に伝えた。