第11話
頭の中で、何を作ろうと考えていれば、もう我が家に到着していた。
慣れた様子で玄関から敷地内へと入っていく彼がなんとなく嫌で、私は少し目を逸らしつつ、脱ぎにくいブーツに手をかける。覚悟したよりは易しく事は運び、私はそんなに待たせずに昴君を招き入れることができた。
「着替えてくるから、リビング座ってて」
そう告げて、二階へと上がろうとすれば、腕を引かれる。
何故なのかわからないが、ぐいぐいとリビングへ押し入られて、私は昴君と並んでソファに座らされていた。一体なんだというのか。
「……足」
「? 足」
「どうしてこんな短いの履いたの?」
どうしてと言われても。足を出せと言われたからそうしたのだが、昴君にはしないほうが良かったのだろうか。わからなくて私は眉を下げる。
その私の表情を見たからなのか、少し不機嫌そうにしていた昴君の声は軟化して、厳しい顔もいくぶんかやわらいだ。
「視界に入るたび、気になっちゃって。……僕といる時以外は、あまり露出の多い服を着ないで」
元々、あまり肌を見せるのは好きではないのでそれはかまわないのであるが、昴君の発言の意味をはかりかねた私は素直にどうして、と訊ねてみる。
なんだ。
昴君は呆れた様子でため息をついた。
「……男性に声をかけられやすくなっちゃうでしょう」
「そういうものなのかい」
「そうだよ」
「普段あまりこういう格好をしないから知らなんだ。そうか、わかった」
そうか、たとえ特別に可愛くはなくとも、露出していればなにかしらの期待感は煽るものなのかもしれない。そう考えれば幾分か納得できる。……しかし、そんな普通の男性心理のようなものを、昴君はどうして理解しているのだろう。彼は本当によくわからない。
考え込んでいたからなのか、昴君の顔が迫っているのに気付かずに、真正面をむいてぼんやりしていた。名前を呼ばれて振り向いた時には、鼻と鼻が擦れるんじゃないかというくらい、私と彼の距離感がおかしかった。
多少顔が引き攣ってしまったのも、この際仕方あるまい。
少しかたい声で、私は彼の名を呼ぶ。すると、昴君はにっこり微笑んだ。
「普段は着ないのに今日は着たの?」
「うん……今日のこれも普段なら下にストッキングとかレギンスとか合わせるんだけども。なんか、とにかく足を出しておけって」
「ひょっとしなくてもその発言をしたのは横田さん」
「大当たりー」
えへら、と笑って言えば、昴君は少し前と同じような不機嫌顔になる。しまった、選択を間違えたか。神妙にそうなんだ……と情感たっぷりに言っておくべきだったか、ここは。
いや、それもおかしいだろう。
「デート中気になって仕方なかった、綺麗な足だなあって」
「え」
きれい。
ひとつの単語に、どきりとする。昴君も、何かを綺麗だと感じるのか。いや、当たり前か、人間なのだから。動く感情があれば、そんなの当たり前に抱くだろう。
でも、なんでだろう。
無機物にたいして綺麗だと言う彼を想像できても、人に対して、綺麗だ、と発言する彼を想像できなかた。だって、彼こそ綺麗で、彼こそ綺麗だと言われる存在だから。
そんな昴君が、どうして、私を綺麗だなんて言うんだろう。私の足だろうと、私の一部であることにかわりはない。
どうしてだか、それは私にとって特別なものであったようで。
ずくずくと、胸の奥で何かがうずく。わからない、不確かな、なにかが。
「……ハイソックス履いてたんだね。制服のスカートと、長さは変わらないかもしれないけど……ズボンだから形がこっちのがわかりやすい。あとやっぱり見える面積こっちのが多いのかなあ」
言って、太股に触れる昴君の指先が、なぜだか、よこしまな意思を持って動いている気がしてしまう。
気のせい、かな。自意識過剰?
少し狼狽しつつも、成り行きに身を任せていると、足を眺めていた昴君が、私を視線で射抜いた。
突然に目が合ってしまい、肩が揺れる。
どうしてそんな、怖い目でこっちを見るんだ。なんというのか、ぎらぎらしている、ように、見える。
思わず溜まった唾液を嚥下すると、昴君は無表情だった顔に満面の笑みを湛える。
「晩ごはん以外にも、お礼もらっていい?」
「へ……」
言った意味を理解する前に、昴君がなぜかソファから降りて私の正面に座り込む。どうして床に座り込むんだろう。というか、何、その体勢。
跪いてるみたいなんだけど。
疑問符を頭いっぱいに浮かべた私を他所に、昴君は私の右足を軽く持ち上げると、馴れた手つきでするり、とハイソックスを脱がす。それは左足も同じで、私はものの数秒で素足になった。単純に寒い。
「あの」
名前を呼ぼうとして、彼の行為に思考が停止した。
え。
今、今。いまいまいまいま!
気のせいでなければ、あの、昴君のく、唇が、私の足の、ゆ、指先に。
「綺麗」
「ひっ!?」
足の指にキスされたああああああ!!?
「や、やめて、汚い!」
「汚くないよ、綺麗」
「ななななにをやめてやめて本当にやめて!」
更に近付いて何か続きをしようとする昴君にパニックになった私は、あらん限りの力で暴れまくったのがいけなかったのだろう。ぎゃあぎゃあと叫び声をあげながら、遠ざかろうとソファから離れたそのときだ。
肘掛けからずるり、と身体をのけぞらせて、私は真っ白になった。まさにパニックから我に返った瞬間、というやつだ。
「千絵子!」
昴君の声が遠くから聞こえる。
そのまま思い切り頭をぶつける、と覚悟した私はなんと。頭をぶつけてもいないのに、そのまま意識を手離してしまったのだった。
実際には、すんでのところで昴君がしっかりと身体を支えてくれていたから、大事なかったのだけれど、とにかく混乱の極みだった私は、逃避もあって気絶してしまったのだろう。
「……ちょっとからかいすぎたな」
呟いた昴君の言葉に、今の私は何も答えられないけれど。後々の私には質問できただろう。
あのとき本当に冗談のつもりだったのかい、と。
ぐう。
耳に届いた意地汚い音に私はゆるゆると目を開いた。
「……お腹へった」
第一声をいいかげんなんとかしたいけれど、すいてるのだから仕方がない。
私は混濁する記憶をゆっくりとたぐりよせながら、瞳を開く。
「千絵ちゃん、お母さん久しぶりに炒飯作ったんだけれど食べる?わかめスープ付きよー」
「食べるう……」
「着替えてからにする?そのまま食べる?」
「んー……足寒いから着替えてくる」
「じゃあ温めておくわね」
「かたじけない……」
お母さんにお礼を言って、私はリビングのソファから起き上がり、ゆっくりと歩いて扉に手をかける。
っておい。
「!? 母よ」
「なあに千絵ちゃん」
「なぜいるのだね」
「えー、お母さんお家に帰ってきちゃいけないの?寂しい事言うのね、千絵ちゃん」
「いやいやいやいやそういうことではなく!」
記憶違いでなければ父も母も出張で、月曜まで帰って来ない、はず、なのだ。
先程まで、いや一体どのくらいの時間が経過したのかはわからないが、していた行為を反芻して私はどうにも居た堪れない思いを抱いてしまう。罪悪感というのか、うしろめたい何かが自身を覆う。
なんならちょっと顔が真っ直ぐ見れないかもしれない。
そういえば。
昴君はどこに行ったのだろう。鉢合わせする事なく帰ってくれていたならば良いのだけれど。
「お手洗い、ありがとうございました」
「いいえー、ちょうど出来たところだし、三人でお夕飯にしましょ」
「あ、千絵子さん起きたんだ?おはよう」
がちゃり、と目の前の扉が開いたかと思うと、私の真正面に立っているのは今頭に過ぎった人物だった。
「すば……」
あまりの事にさすがに声が出ずに、私は口を開いたり閉じたりしながら彼を指さす。昴君はといえば、不思議そうに首を傾げるばかり。鳩が豆鉄砲を食ったような顔というのはきっと、まさしく今の私の顔であろう。辞書の隣にどうぞ今この時この瞬間を写真に収めた私を、掲載してくれたまえ。
いやいや、そうではない。あまりに混乱しすぎて思考が明後日の方へと向かい過ぎである。
「あっ、こら千絵ちゃん!人様を指さすものじゃありません!」
めっ!と母からお叱りを受け、私は即座に申し訳ございません、と謝る。無論、謝罪のお辞儀は90度である。挨拶の時は30度だ。いやだからどうでもいい。まだ混乱はおさまらぬらしい。
ぽん、と後頭部にあたたかい温もりを感じて、私は顔をあげた。
「何をそんな深々と頭を下げてるの。やめてよ、彼女にそんなことされて嬉しい彼氏いないでしょ」
「え、あ、すいません」
「だから謝らないでってば。千絵子さん、寝惚けてるでしょう?いいから、着替えておいで」
昴君の申し出に、私はこくり、と無言で頷けば、当初の予定通り、リビングをあとにした。
「ひゅーひゅー」
「いや、奈緒子さん、それはどうかと思います」
「あら、違ったかしら?」
「……問題はそこじゃないかと」
苦笑する昴君とか、茶化す母とか、ほのぼのした空気のリビングなんて知る由もなく、私はいまだ半覚醒状態の頭を必死に稼動させながらTシャツとスウェットに着替える。料理はしないのでジャージは着なくてよし。
それより、とりあえず落ち着こうじゃないか。まずは状況を整理しよう。
とりあえず、最優先事項は。
「……腹を満たすことだな」
いや。さすがにわかってますよ違うって。わかってるんだけど現実逃避したくなった私はなんて弱いんでしょう。
でも起きた時にハイソックスをちゃんと履いてたから最悪な事態は免れたわけだ。妙なシーンは見られていまい。
と、信じたい。信じてる。
無理やり自身を納得させ、頷きつつ階下へとむかう。リビングからは楽しそうな笑い声。まさか、恋人だと紹介する前にもう恋人が恋人だと宣言しているとは……ええい、恋人言い過ぎて恋人がゲシュタルト崩壊するではないか。
まだまだ混乱の渦にもまれている自身の暴走はとりあえず放っておく事にした。外に向けて一応の会話が成立するならば問題はなかろう。たとえ頭がいっぱいいっぱいだったとしても。
恐る恐る扉を開けば、音に反応してか母と昴君が同時にこちらを振り返った。
「あらあいやだ。千絵ちゃんたら彼氏の前でそんな気の抜けた格好でいいの?」
「……ジャージを見られてるのに何を今更取り繕う必要があろうか、いやない」
「結論まで自分で言っちゃうんだ」
あはは、と笑う昴君の隣に腰かける。ダイニングテーブルは父不在なのに三つの椅子が埋まり、なんともいえない気分である。ひとりが自分の恋人だというのが何より複雑な心持ちにさせるものだ。
「でも、今日はかわいい格好してきてくれたし、今の姿も僕はかわいいと思ってるよ」
「……ありがとう」
「ひゅーひゅー」
「やめろ」
なんともへたくそなぎこちない声で囃し立てる母に思わずつっこみを入れれば、母は悲しそうに瞳を潤わせた。
今にも泣き出しそうな母に、私は慌てて謝罪の言葉を告げる。ごめん、と言えば母は何事もなかったかのように満面の笑みになるので、思わず脱力した。昔からそうなのだ、この母は。一生かなわないのだろう、と齢17にして思わずにはいられない。
「……まあ、いいや。食べて良いかな」
疲れた声で私が言えば、にこにこと母がどうぞ、と言うので、昴君と一緒に手を合わせていただきます、と唱えた。
久しぶりの他人が作ったごはん。ありがたいと同時に美味しい。そして幸せだ。いつしか、私は母よりも家事全般が上手になってしまっていて、母は休みの日でもあまりごはんを作らなくなった。私の手伝いはしてくれても、彼女が舵取りをすることがあまりなくなったのだ。
母いわく、台所はもう私の城なのだそうだ。そう言ってもらえるのは、嬉しいしくすぐったい。色々なお家事情はあれど、私は今に不満などひとつもない。母がいて、父がいて、私がいる。
それぞれがそれぞれの役割をこなし、また、それぞれがそれぞれに感謝の念を抱き、言葉にするし、してくれる。それはどんなに尊く、幸せであろう。
とはいえ、母の手料理もやはり年に一度は食したいという気持ちもあるわけだから、単純に今日のこれは嬉しいのだ。咀嚼する久しぶりな味に微笑む。
「うーん、やっぱりちーちゃんの炒飯のが美味しいねえ」
「とっても美味しいですけど」
昴君の言葉にうれしい、と母がはしゃぐ。次いで私に感想を求めてくるので、口の中のものをきちんと胃におさめたあと、声を上げる。
「コンソメの量ちょっと少なかったんじゃないか。あと卵入れるタイミングが早すぎたかな、あと」
「もー、だめだしそれくらいにしてー。お母さん超へこむー」
「母よ、若者言葉を操るのは悪いとは言わんが良いとも私は思わない。美味しいよ、私はこれでじゅうぶん」
「うふふふ、そう?よかった」
後半だけ取って微笑む母は、嬉しそうなのでよしとすることにした。
わかめスープを飲む。うん、ちょっとごま油が多かったかな。美味しいけど。やっぱり私は、もはや母よりも料理が上手になったのだなあ。そう改めて実感するとなんと感慨深い。
「ねえ、それで、昴君と千絵ちゃんていつから付き合ってるの?」
「二週間ほどになります」
母の質問に、昴君が微笑んで答える。
もうそんなに経過したのか、そういえば。
というか、そういった話題は今までの会話で出てこなかったのか。そっちのがなんとなく驚きだ。今までどんな話をしていたのだろう。
昴君の言葉に、へえ、と母はきらきらと瞳を輝かせる。しかし、てっきり怒られるものとばかり思っていたが、この母は相変わらず読めない。
なんにも言われない事が逆に耐えられず、私はついにみずから質問を投げかけることにした。ああ、なんと弱い。
「お母さん」
「なあに?」
首を傾げる母に、私はごくり、と唾を飲み込む。
「怒らないの?」
「なにを?」
「親がいない間に彼氏を家にあげたりして。普通は怒らない?」
「うーん?千絵子のこと、私、信頼しちゃいけなかった?まだそこまでは早かったかしら?もっと監視下に置いてあげたほうがいい?」
「いやいや、もちろんそんなことはないよ。信頼を裏切るつもりはない」
「じゃあ怒らないよ」
いや、本当言えばその、いかがわしい事もしたりしなかったりなのだが、基本的にはまだ一線を越えていない、ので、セーフなのだろうか。いやしかし。
ぐるぐる考えても仕方がないのでそこは一旦置いておく。
それにしたって、親の居ぬ間に男連れ込むなんてあばずれのような行為じゃないのか。母には、そこらへんもっと怒られるものと思っていたのだが。私もまだまだこの母を把握していない。
「僕は、千絵子さんと結婚を前提にお付き合いさせていただきたいんですが、かまいませんか?」
「あらー、もちろんよ。真面目で素敵だわ」
おい。ちょっと待て。色々と物申したいんだけど昴君。
このひと、今なんて言ったの?
混乱する私を他所に、ふたりの会話は進んでいく。手を叩いて頷いた母は、しかし次の瞬間ふ、と目を細めて私の知らない顔をした。
「それを事実にするかしないかはあなた次第よ」
「そうですね、僕と千絵子さん次第ですね」
挑戦的な視線を昴君に寄越した母に、昴君も同じような目で応える。
きっと、その言葉に満足したのだろう。ふ、と母の空気がやわらいだ。
「ええ、そうね。そうなったらすごく素敵。いつか私に、昴君と千絵ちゃんの孫を抱かせてね」
「奈緒子さんてば、気が早いですね」
「あらあ、若いうちにおばあちゃんになるのちょっと夢なんだものー」
「ふふ、それじゃあ計画的に頑張りますね」
「昴君てばたのもしいわねー」
いやいやいや。そろそろ会話のおかしさに気付け。
あまりの内容にどこからどうつっこみを入れたら良いのかわからずに、しかしその前段階ですでに私の思考は混乱の極みとなっている。
結婚を前提にお付き合い……?一体、どういうことなんだ。
昴君は、言った。同性しか愛せないと思い込んでいたけれども、異性を愛せるのかもしれないと。だから、私で試させてほしい、と。
昴君の好きな相手は、高柳奏。やなぎん。昴君の幼なじみ。
今心の中で反芻した情報は、なにひとつ間違っていないはずなのに。
呆然とした状態で、昴君をみつめる。昴君は、私の視線を感じて、少し首を傾げて微笑んでいる。私はわけもわからずに、席を立った。口は勝手にトイレ、と声を発していたが。
ああ、ごはん食べ終わってた。食器を下げよう。
ふらふらと、無表情のまま私は台所に食器を下げる。あまりにも覚束無い足取りだったのが悪かったのか、何もない場所で、私は派手に転んでしまった。
食器を持った状態で倒れた為、かばうこともできずに尻を床に叩きつけ、手にした食器はがちゃん、と床に散った。ぼんやりとみつめていると、割れたコップの破片が目の前できらきらと輝いている。
私は何も考えずに、その綺麗なかけらへと手を伸ばした。
「千絵子!」
叫んだ昴君の声に反応して、私は慌てて触れようとしていた破片から手を遠ざけた。すんでの所で触れなかった指先は、流血の心配もない。
「なにやってるの、危ないな。触っちゃ駄目だよ怪我しちゃうから」
「…………」
「? 千絵子」
何も反応しない私に怪訝な表情を向けて私の名前を呼ぶ。昴君が、私を心配して、私に寄り添っている。だというのに、遠く感じるこの距離は、なんだというのか。
「昴君も、不用意に触っちゃだめよ、危ないから。……ええと、ちーちゃん。掃除機どこかしら」
「……持って、くる。とりあえず、これ」
母の声に反応して立ち上がれば、私は食器棚の上にある小型のほうきとちりとりを渡した。これで大きい破片は拾ってもらう。あとは……二重にしたビニール袋とどうでもいい広告を敷いてこの中に破片を入れてもらおう。
無表情のまま作業している私を、母も不思議そうな顔をしてみつめているが、特に何を言うでもなく私から受け取った道具で後始末をする。
私は、ふらふらした状態のまま廊下にある収納へと向かった。
がちゃん、と扉を開いて掃除機を取り出し、リビングへ戻ろうとする。けれども、足がどうにも動かなかった。
「忘れてた……」
ぽつり、と呟いた自身の言葉で、何かを忘れていたんじゃなかったとすら思っていなかったさっきまでの自分に呆れて自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。
そうだ、起き上がった後から今まで、忘れていた。私が、意識を失う直前に出した答えを。
『私は、昴君が、好き』
そうだ。
私は、好きになってはいけない相手を好きになったのだ。
男性を好きな男性に、私は想いを寄せてしまった。なによりも、私を、利用する相手を、私は。
「……こうなるのが嫌だったから、時間を共有なんてしたくなかったのに」
苦し紛れに笑ってみせても、心はちっともなぐさめられてなんかくれなかった。