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金色フェスティバル  作者: 遊森謡子
第一章 金色フェスティバル
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第四話 異世界の真実は炎とともに現れて

それからは特にトラブルもなく、ちょっと手持ち無沙汰になったころ。

「二人とも、慣れない仕事で疲れただろ。しばらく俺一人で大丈夫だから休んでていいよ。本店の方で仮眠取ってもいいし」

マテオが言ってくれた。彼はまた頭をかいていた。癖なのか? それともフケ性? 日本のシャンプーをプレゼントしたいわ。

ジェイドが返事をする。

「それじゃあ、お言葉に甘えます。…ミモレット、仮眠取りに行く?」

「うーん、どうしようかな」

私はあいまいに答える。

一応、私、指名手配花嫁なのでね。のんびり寝られるとは思えないから、起きてようか。

それとも寝たふりしてる方が、無事に朝を迎えられる?


迷っていると、ジェイドが言った。

「良かったらこれから、花嫁探し付き合ってくれないかな?」

ええ? こんな夜中にまで?

見ると、いつの間にかジェイドの手には、カンテラみたいなものまでぶら下がっている。

「…そんなに花嫁見つけたいの?」

聞くと、

「うん」

即答かい。

ジェイドがお金に執着するタイプだとは思ってなかったので、何だか…がっかりした。


探したところで、異世界人が見つかるわけがない。隣にいるんだから。

油断なく周囲に目を走らせるジェイドは、集中しすぎて無言。時々、脇道に踏み込んで暗がりをカンテラで照らしている。

一緒に歩きながら、私はあくびをひとつ。さすがにちょっと退屈で。

メインストリートは夜でもガス灯らしきもので照らされ、それなりに明るい。私は歩きながら、広場に置いてあったお祭りのプログラムを読んで眠気を紛らわす。


プログラムの最初のところに、祭典の実行委員長さんのあいさつが書いてあった。

『今年も、三百年の伝統を誇る春の祭典で、皆さまと共に豊作を祈願でき、喜ばしい限りです』

豊作祈願か!! それに私がどう絡むのよっ。

『初代領主が、異世界からの客人と結ばれてから、レイフェールの地は豊饒の女神に守られ肥沃な土地となりました。今回の祭典では、新領主が年頃ということで、花嫁の召喚も期待されております。お楽しみに!』

…最後の一言がなんか脳天気でムカつく。


いやそれより、召喚って私が初めてじゃないんじゃん! 迷惑な話。

それにこの文面だと、領主が結婚適齢期だと召喚が起こる、みたいな風に取れる。さらに、この文章が書かれた時点では、起こるか起こらないかはっきりしてなかったってこと?

私てっきり、偉そうな魔法使いが「ふはははは、私がお前を召喚したのだ」ってふんぞり返るんだと思ってたけど、受ける印象が微妙に違う。

神のみ業とか、自然現象とかなの? そしたら逆らえないじゃないのさ!


まあいい(よくないけど)。今はこの祭典を乗りきること。

えーと、ここに明日のスケジュールが載ってるんだけど…祭典のクライマックスであろう時間帯に、『投げる』って書いてある。特に説明はないんだけど、何を投げるのかな。トマト投げあうとか…お菓子撒いてくれるとか? あ、お金! お金希望!


「ミモレット。…ミモレット?」

「あ、え? 何?」

一枚のプログラムに、思いのほか没頭してた。お金にガツガツしてるのは誰だよって話。

顔を上げると、ジェイドがこちらを見ている。

「…そろそろ戻ろうかと思って」

「もういいの?」

「うん。付き合ってくれて、ありがとう」


結局、本店(ダイニングバーといった趣のお店だった)に寄ってちょっと休ませてもらったら、休憩室のソファでウトウトしちゃったよ。人間、そうそう緊張感は続かないって。

明け方にジェイドやアナイスと広場に戻ったけど、同年代の人たちと徹夜で屋台やるのって、なんだか学生時代の文化祭を思い出すな。


そして、新しい朝が来た。希望の朝になりますように!

午前中には、女神像の山車が街中を回った。木彫りの美人な女神像は、生花でできたドレスを着ていて見ごたえがあって、子どもたちが後ろをついて歩いてるのも賑やかで可愛かった。もし私がまだ隠れていたら、気になってこっそり観に出てきちゃったかも。

…はっ。日本の神話でそういうのなかったっけ!? 洞窟に閉じこもっちゃった神様を引っ張り出すために、洞窟の前でお祭り騒ぎをやる話が。もしかして、花嫁が自分から出てくるように、祭典期間中に召喚するんじゃ!? するどいぞ私。


お昼の忙しさが一段落したころ、広場の中央のテーブルや椅子が脇へよけられ、キャンプファイヤーの木組みらしきものが作られ始めた。

屋台の脇でそれを眺めていると、

「ミモレット」

ジェイドが近づいてきて、私に紙袋を差し出してきた。なんとなく受け取りながら、

「何?」

聞くと、ジェイドは私をじっと見つめながら言った。

「昨日、助けてくれたお礼」

「ええ? そんなのいいのに」

ビックリして紙袋とジェイドを見比べていると、こう言われた。

「何か困ったことがあったら、使って」

「…? ありがとう」

お礼を言って袋を開けようとした時、拍手が聞こえて来て私は顔を上げた。


広場の片隅にある小さなステージで、閉会式が始まっていた。

偉そうな小太りのおじさん(やっぱり金髪ロン毛)が、金魚すくいのポイみたいなものを手に持ってあいさつしてる…声が大きく聞こえるってことは、あのポイが拡声器とかマイクみたいなものなんだろう。

げっ、まさかあのおじさんが領主? いやいや、領主はお年頃だって、プログラムに書いてあったじゃん。あのおじさん、お年頃×三くらいだもん、違う違う。

そう思いながら退屈な演説を聞いていると、おじさんは祭典の実行委員長だということが分かった。すると領主はどこに?

ちょっと背伸びしてあたりを見渡してみる。ステージ周辺に何人か若い男性がいるけど…あの人? ご免こうむる。それともあの人? 味噌汁で顔洗って出直してこい。


勝手に品定めしてるうちに、木組みに火が入って燃え始めた。広場はだんだん人が増え、木組みの周りに集まって来ている。

あ、あのプログラムに書いてあった『投げる』ってやつが始まるんじゃない?

私はのんきに、その時を待つ。


「それでは皆さん、ご一緒に!」

実行委員長の合図で、ドラムロール(こっちでもあるのね)とカウントダウンが始まった。すると、集まった人々がみんな、一斉に自分の頭に手をあてた。

何、何? 私も真似した方がいい?


「三、二、一、ゼロ!」

その瞬間。

金色だった視界が、緑色になった。


人々の髪の色が、一斉に緑色に変わったように見えた。掛け声とともに、金色にたなびくものが次々とキャンプファイアの中に飛び込んでいく。その光景を理解するのに数秒かかった。

金色のものは、私がかぶっているような金髪のウィッグで。

「俺たちも行こうぜ~」

「やほ~」

屋台から出てきたマテオが、後ろで結んだ金髪を引っ張ると、短く刈り込んだ鶯色の髪が現れた。後に続くアナイスの髪は、肩までのウェーブがかった若草色。

この街の人たち、本当は金髪じゃなくて、明るい緑色系の髪をしていたのだ。つまり…



ぜ ん い ん ヅ ラ



「!!!」

私はくるりと身を翻して、屋台の後ろに回りこむと路地に駆け込んだ。

投げるって、コレ!? 宙を舞う金色のヅラ・ヅラ・ヅラ…うう、ある意味ホラーで夢に出てきそう。来る、きっと来る。

最初に街なかに出た時、妙に金色が人工的に見えたわけだ!

道理でマテオが頭をしょっちゅうポリポリ掻いてたはずだよ! ムレるよ! そういやジェイドが掻いてるのも見た!


ジェイド…。

私はハッとして、手に持ったままだった紙袋を開けた。困った時に使えと言われた、これは?

中に入っていたのは、白い帽子だった。マッシュルームみたいな形で下の部分が締まっていて、一歩間違うと給食当番の帽子みたいなデザインなのが、危ういところで回避されている感じ。…髪がすっぽり隠せるデザインだ。


迷ってる暇はない。街のみんなが金髪のウィッグを外した以上、私だけ被ってたら怪しすぎる。

私は緊張に汗ばむ手で、すばやくウィッグを外して紙袋に突っ込んだ。急いで帽子を被り、黒髪を隠す。

そして、とにかく広場に戻ろうと振り向いた時。


「ミモレット…あ、いや、違うのかな。名前…」

路地の入口に、ジェイドが立っていた。

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