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金色フェスティバル  作者: 遊森謡子
第一章 金色フェスティバル
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第三話 異世界モラトリアムは自分探しと労働から

今、私“ミモレット”が就職したこの屋台には、私を含めて四人のスタッフがいる。全員同年代の男女だ。

まず一人目。

「ミモレットが来てくれて助かったよ~、祭りで人手がいる時だからさ」

顔全体で笑いながら、屋台でジャンジュを焼いている男性・マテオ。四人の中では一番の古参らしく、いかにも慣れた手つきの威勢のいい兄ちゃん。ロザラインおばさんともツーカーって感じだった。金髪を首の後ろで結んでる。

二人目。

「俺も、働き始めたばかりなんだ。よろしく…」

本店と屋台の間を行き来して荷物を運んだり、手が空いてる時は私と同じく給仕の仕事をしたりしている男性・ジェイド。礼儀正しいし仕事は丁寧だけど、こういう仕事が初めてなのか、どこか危なっかしい感じ。金髪を一本の三つ編みにしていて可愛い。

三人目。

「ミモレットは家は遠いの? 今夜は本店に泊まったらいいわ」

ジャンジュの皮をこねながら、朗らかに言ってくれる女性・アナイス。あのおばさんの姪なのにスレンダーな、でも出るとこ出てる、そばかす美人。私が男だったらよろめいてる。ていうか、もうお姉さまと呼ばせて下さい。金髪ワンレン。


そして私の四人で、明日の祭り終了までこの屋台を運営していくんだって。おお、やったろうじゃないの。私は三人に笑顔を返した。

「一晩くらい徹夜したって平気! よろしく!」

一応、まだ若いからね!


仕事はそんなに忙しくはないんだけど、お客さんが途切れることはなかった。ジャンジュって、このあたりでは国民的な食べ物みたい。せっせと働いて、だいぶ慣れてきたなと思ってふと気づいたら、時間は順調に過ぎていた。

広場ではマーチングバンドみたいな楽隊の演奏があったり、子どもたちが参加するゲーム(たぶんジャンケンゲームみたいなもの)があったりと、賑やかなイベントが続いてる。


忙しくなる前に、交代で休憩を取ることになった。まずマテオと私。

「よし、それじゃあぐるっと街を回って花嫁探ししよう!」

明るい茶色の瞳のマテオは、頭をポリポリかきながらニカッと笑う。

ええー、いいよ探さなくて…と思ったけど、私は笑って「おーけい」と言うしかない。異世界で自分探し、モラトリアムですな~ってアホくさ!


賑やかなメインストリートを歩いたり、ちょっと路地裏の方に入ってみたりしながら、祭り見物がてら街を歩く。あの学校の近くも通った。


それにしても、いかにも人探しをしている風の人たちって、なぜかみんな男女ペアなんだよね。ああ、もしかして、花嫁をおびえさせないため? いきなり知らない男に領主の館に連れて行かれそうになったら怖いもんね。女の人がいた方がそりゃ安心するわ。賞金も山分けするのかな。


“ミモレット”について色々聞かれるとまずいので、こちらからマテオにちょいちょい質問してみる。攻撃は最大の防御だ。話好きのマテオは、おばさんの人柄や自分の失敗談なんかをあけっぴろげに話してくれた。

彼はほどなく足を止め、

「このくらいでいいか。後は大道芸でも見に行く?」

「花嫁はもういいの?」

聞くと、彼は答えた。

「ま、縁起ものだから」

縁起もの? 見つからなくても、探すことに意義があるみたいな? 何だソレ。

とりあえず、マテオは賞金にガツガツしてはいないらしい。ホッとした。


トイレとか色々済ませて屋台に戻ると、次はアナイスとジェイドが休憩。再び四人で仕事を始めるころには、陽が傾いてきていた。夜メニューなんかも新しく作り始めて、お酒も出始めて、店は一気に忙しくなる。

気取った店じゃないので私も意外とボロを出すことなく、むしろノリノリ。

「ジャンジュ今焼きあがりました~! 焼きたてはいかが~?」

などと呼び込みをしながら、お会計も手伝うようになったし、隣の屋台のお姉さんと世間話(天気の話くらいだけど)したり、その辺の散らかったテーブルをささっと片付けたりする余裕も。

「助かるな~、オレ調理に集中できるよ」

マテオは褒めてくれるし、

「ミモレット、飲み物の販売任せちゃっていい? 私ちょっとあっち手伝ってくる!」

アナイスなんて本店に行っちゃった。私、意外と接客業向いてるのかも♪ 元の世界では製薬会社の事務なんだけど、職業の選択間違ったかな~。

いやいや、いい気になってると大失敗するのは世の常。外国に来ただけみたいな気分になってたけど、ここは異世界なんだから、気をつけなきゃ。


そうこうするうちに夜も更けて、広場のお客さんはずいぶん減ってきた。このまま飲み明かす予定らしいおじさんたちが残ってるくらいだ。

この時間は大道芸や楽隊の演技もなく、人の話し声も抑え気味…だったのに、向こうが騒がしい。

見ると、広場の真ん中あたりのテーブルに陣取った三人組のおじさんが、ジェイドに絡んでいる。

「すみません、すみません」

「いいから。ぶつかったことはもういいからよぅ。それはいいから、これ飲んでけ」

「いえ、仕事中ですのでっ」

「兄ちゃん一杯だけ! な!」


…あのさ。異世界にトリップした私がピンチに陥って、イケメンに助けられて恋愛フラグが立つならわかるよ。

なのに、ジェイド。さっきからおつりは間違えるわ荷物抱えたまま転ぶわ、そして酔客に絡まれるのも二回目。私のフラグを片っ端からかっさらっておりますことよ。あんたが異世界人か。


真面目すぎて絡むと面白いんだろうな…と思いつつ、仕方なく私はスタスタと近づいて行って、

「なんかやらかしちゃった? おっちゃんゴメンね!」

無造作に笑顔で割り込んだ。相手は怒ってるわけじゃなく楽しそうなんだから、テンションを合わせてやるのが一番。言葉もなるべくブロークンに。

「ねぇ、代わりにあたしがご相伴してもいい?」

「おお~飲め飲め!」

「行きまーす」

渡されたグラスを一気にあおろうとしたら、がしっと腕をつかまれてジェイドに止められた。

「だっ、ダメだ! 女の子が! 仕事中だし! ちょっとこっち来て! 失礼します!」

ぐいぐいと屋台の方に引っ張られる。私はおじさんたちに「またね~」とひらひら手を振りながら、逆らわず歩いた。


ニヤニヤしているマテオに見送られ、屋台の裏手に回る。あらら、なんか説教されそう。

「ミモレットっ、一気しようとしたでしょ!? 倒れたらどうす」

「うまく逃げられたね」

「え? あ?」

言葉が続かないジェイドの肩を、ポンポンと叩く。

「私が飲もうとすれば、ジェイドなら止めてくれるかなって。いやいや、グッジョブグッジョブ」

別に、飲むことになったらなったで、「ごちそうさま~、じゃ~ね~」でジェイドを連れてくれば良かったし。独身女子がわざわざ言うことじゃないから言わないけど、ぶっちゃけ私はザルだ。

ジェイドは気を取り直したように息を吸い込んで、

「そうじゃなくて! ミモレットって成人!? 酒飲んでいいの!?」

そこかよ! って、何歳だと思ってんの? そういえば十九歳でアメリカにホームステイした時、十三~四歳に間違われたっけ。やっぱり日本人って若く見られるんだな。

「二十過ぎてますっ。はいはい、仕事戻ろっ」

「…。」

急に黙ったジェイドは、少し間をおいてから、焦ったように言った。

「いや…ごめん。ありがとう」

そして、頭を軽くかいて、少し笑った。ふふ、ホント好青年だよね。

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